28



名前は目を見開いて呆然と座り込んでいる。
オレは名前に声をかけることもできない。それが歯がゆくて唇を噛む。


そんな時、フィンクスが持っている携帯が鳴った。
電話に出て、すぐにオレに携帯を投げて寄越した。

『大丈夫か? ヤツらはいるか?』
「……ああ、全員いる」
オレはクラピカとやり取りをして携帯をフィンクスに投げた。
こんな時アイツなら名前を慰めることができるのか……? オレが無理でも……クラピカなら。

くそ……そんなこと考えてる場合かよ……。
オレは名前の隣にしゃがみ込んだ。目の焦点があっていない。どこか遠くを見るように剥製人形を見ている。
名前の手を取りぎゅっと握るが、名前は握り返してこなかった。


何もできずただ名前の隣にいるだけの無為な時間が過ぎていく。
そうしているうちにパクノダがアジトに戻ってきて、オレたちは3人でクラピカたちの元へ向かうことになった。
ある程度はショックを抑え込んだのか、それともまだ意識がはっきりしないのか、名前の顔を見てもわからない。
オレが立ち上がると名前も自分の意思で立ち上がる。

「名前、歩けるか?」
「大丈夫。ありがとうキルア」
名前はそう言うけど本当に大丈夫だとは思えない。
オレが手を握っていないと崩れそうなほど脆く感じられて、道中もオレはずっと名前を支えるようにして手を握っていた。名前は弱々しく握り返してくれた。
それだけで、少し報われたような気になる。
もっと頼ってくれたらいいのに、オレを。
庇護欲という仮面を被ったこの感情は、外に吐き出されることはなく飲み込むしかない。


クラピカたちが待つ飛行船の前まで来た。
クラピカの指示に従い携帯を胸に当て、オレたちの無事が確認されたところで人質の交換が開始される。

横目で名前を見ると、すでに真っ直ぐ前を向いて歩き出していた。
無理をしているのか気持ちを切り替えたのか、オレにはわからない。結局名前に何も声をかけてやれないまま、オレたちは飛行船に乗った。



名前は先程から、飛行船の窓からクロロを見届けるクラピカの横顔を見つめている。名前の顔色は相変わらず悪いけど、先程までの虚無感はないように思う。視線を感じ取ったのか、ふいにクラピカが名前の方を向いた。
「名前、キルア」
名前は名前を呼ばれて素直にクラピカの元へ近づく。近くで見るとクラピカの顔色も悪いことがはっきりとわかる。

「危険な目に合わせてすまなかった」
クラピカは少し離れたところにいるオレにも視線を向ける。オレはなんでもないというように肩をすくめてみせた。実際、オレは何もなかったし、何もしてやれなかったから。
「ううん……私も脱出に失敗しちゃったから……ごめん。鎖を刺せたんだね」
「ああ」

名前たちの会話を最後まで聞くことなく、息を吐きながらそっとその場を去る。
とにかく無事に交換が成立してよかった。ほんとあいつらスキなさすぎ。危機を脱した今、張り詰めた空気に少なからず疲労を感じていたことを知る。
気持ちの整理をつけるためにも、少し一人になりたい。

「クラピカ……?」
一人になれる場所を探そうと思った時、名前がクラピカの名前を呼んだかと思うと、短い悲鳴が聞こえた。
「わっ……」
バタンと倒れる大きな音がすると同時にオレは振り向いた。

クラピカが名前に覆いかぶさるような格好で倒れていて、名前はその下敷きになっている。

「は!?」
反射的にクラピカを起こすためにその肩を掴む。手のひらから伝わる体温が異常なほど熱い。
「クラピカが急にもたれかかってきて……支えようとしたんだけど一緒になって倒れちゃった……」
名前は起き上がってクラピカを支えたままオレに状況を説明をする。

ああ、そういうことか……。
クラピカが節操のないやつだとは思ってないけどちょっと焦った……。

「とにかくクラピカをベッドまで運ぼう」
「うん」
名前の悲鳴を聞いて駆けつけたレオリオたちと一緒にクラピカを運んだ。




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