22


「喉に詰まらせるよ……」
私の心配を他所に、キルアとゴンはガツガツと早食い競争を続ける。

名前も食べなよと差し出されたお菓子を手に取る。デイロード公園の広場で早食い競争をした人がかつていただろうか。きっといない。
この子たちはいつもこんな感じなのだろう。言うだけ無駄か…そう思って渡されたお菓子を一口かじった。

その時、ゴンが口に頬張っていたものを撒き散らしながら叫んだ。
「ぷはぁピカ!!」
残念なことにその撒き散らされたものはキルアと私の顔面に飛び散った。
ほとんどキルアの方に飛んでいるけれど。

ポシェットからタオルを取り出して自分の顔を拭う。
キルアの顔も拭ってあげようとしたが、キルアはパイを持ってゴンが向かった方へ歩いて行った。

あぁもう……とキルアを追いかけるために腰をあげようとした時、懐かしい声が聞こえた。

「名前……?」

静かに放たれた声だったけれど、私の耳には大きく響いた。その声が聞こえた瞬間に心臓がギュッと鷲掴みにされたような感覚に襲われ、私は後ろを振り向けないまますとんと腰を下ろした。
咄嗟にフードをぎゅっと深くかぶる。
彼がこちらに向かって歩いて来る足音が近くなるたびに、私の鼓動も早く大きくなっていく。


「……久しぶりだな」
クラピカの以前よりも冷たい声の中に懐かしい温かさが見え隠れしている。
突然姿を消した私は彼になんと声をかければいいだろうか。怒ってはいないのだろうか。
以前の私にはなかった様々な感情が心を埋め尽くし言葉に詰まる。

「ごめん……なさい……」
ようやく出てきた言葉は謝罪の言葉だった。
彼はそっと私の肩を掴む。
「本当に……心配したんだぞ」
「うん……」
私は返す言葉もなくただ頷く。
「でも、こうしてまた会えて本当に良かった」
そう言ったクラピカは後ろから優しく私を包み込んだ。

前に回された彼の手に自分の手を重ねる。
私よりも大きくて、骨ばっていて、綺麗な手だ。

私はその手をそっと解いて身体をクラピカの方に向けた。彼の顔を見上げると自然とフードが落ちる。
この数ヶ月で少し髪が伸びている。大人びた雰囲気を纏う彼を直視する。

彼はその存在を確かめるように私の頬に手をやった。

「怒ってない……?」
意を決して尋ねる。クラピカは一瞬動きを止めてすぐに口を開いた。

「怒っている」

短く答える彼に、ひどく申し訳ない気持ちが込み上げる。ヒソカに情報を与えられて、そのままそこを飛び出してしまった。
おかげで念の習得も進み、一人でリュフワに近づくチャンスも得られたが、それでもクラピカ達仲間の顔が過ぎって後悔せずにはいられなかった。


そんなことを思っているとクラピカがフッと笑みをこぼした。
「すまない、怒っているというのは冗談だ」
意地悪く笑うクラピカの姿に以前の彼を見る。
見た目や雰囲気が変わっていても、優しい彼はここにいる。
「怒ってはいないが心配したのは事実だ。もう、勝手にいなくならないでくれ」
「ごめ……ん」

私の微かな声は彼の胸の中に消えた。
背中に回された手でぎゅっと引き寄せられたのだ。
私もそれに応えるように彼を抱きしめ返す。そうしてお互いの存在を確かめ合った。

ヨークシンに来てから何度かクラピカの姿は見ていたけれど、私の存在は明かしていないし、時折見る彼の姿はひどく不安定だった。
それが今またこうしてクラピカの温もりを感じられることが素直に嬉しかった。
いくら抱きしめても確かめ足りないと思えるほどに。




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