21
そうしている内にドールはオークション会場へと侵入した。
会場の者はみんなオークションに熱中している。
私の目当ての人物はすぐにわかった。
組同士の繋がりを大事にし、組の財力を見せつける場でもあるこのオークションで、そんなことはどうでもいいとでも言うようにその人物だけが異様な空気を纏っている。
仮面をつけたその人がリュフワだ。
ドール越しにではあるが、リュフワを目の前にして神経が昂ぶってくる。
リュフワがいるということは今日のオークションで剥製人形が出るということだ。
兄…なのかもしれない。
心臓が今までに経験したことがないほど大きく鳴って、身体中で響いている。
落ち着け……とにかくリュフワの動向を見張って、あわよくばアジトまで追ける。
剥製人形は箱に入れられていて中身を見ることはできなかった。けれどそれも競売が終わったあとにリュフワを追えばわかること。それまでの辛抱だ。
ドールを人目のつかない場所に待機させていると、突然入り口の扉が勢いよく開いた。
扉から姿を現したその人物に目を見開く。
クラピカだ……!
彼は無表情で最後の品である緋の目を落とした。
何も映していないように見えるその瞳は確実に同胞たちを映している。
変わり果てた姿で競売品となった同胞を見るというのは、どれ程の苦痛、帳恨、憤怒なのだろうか。筆舌に尽くし難い思いでそこに立っているであろうクラピカに私は何もすることはできない。
私は強く唇を噛み締めた。
早くリュフワを追いかけないと。
感傷に浸っている場合ではないのに、心が乱れてうまくドールを操ることができない。
はぁはぁと吐き出される息が荒い。カラカラの口からありもしない唾を飲み込むが喉が痛むだけだった。
乱れた動きのままリュフワを追いかけていると、ふとリュフワが振り向いた。ほぼ同時にドールを物陰に隠す。気づかれたかもしれない。
リュフワは再び前を向いて歩き始めた。私はドールを動かすことはせず、その後を追わなかった。
これ以上の追尾は危険だ……。今の私では、アジトまでバレずに追いかけることはできそうにない。
モヤモヤとした想いを抱えたまま引き上げるしかなかった。肝心な時にこれでは、リュフワに会っても殺られてしまう。いや、その時は私も剥製人形にされてしまうのだろうか。
自分の感情の弱さに苛立つ。自分でもどうすればいいのかわからなくて、解決策が見いだせないことがさらに苛立たしい。
ドールを手に抱えたまま、ぼうっと歩いていると、携帯電話が鳴った。
ゆっくりとした動作で携帯を開く。画面には"キルア"と表示されていた。
そのまま漫然とした動きで通話ボタンをタップする。
「今いい?」
「うん」
「……明日デイロード公園に来い」
「うん」
私はぼんやりとしたまま答えた。暫く沈黙が続き、そしてハッとする。
「あ……え? デイロード公園?」
「今、うんって言ったからな! 時間は後で連絡する!」
「え、ちょっとキルア……」
ブツッと切れた電話の画面を見つめる。
キルアの強引な誘い方に戸惑うしかない。
でも今のはぼんやりとしていた自分が悪い。
明日何があるのかだとか、他に誰が来るのだろうかとか、わからないことがたくさんある。どうしてまた急に呼び出しなんて……。
色々と想像しながら歩いていると、先程より足取りが軽くなっていることに気がついた。