クリスマス・ウィッシュ


「「かんぱーい!」」

ジュースやお酒が入った5つのグラスをカチンと合わせる。
今日はゴン、キルア、レオリオ、クラピカ、私の5人でクリスマスパーティーだ。


各々忙しいみんなとこうして集まることができたのは本当に久しぶりで奇跡みたいなものだ。
今日が楽しみで色々料理も張り切って作ってしまった。

「レオリオは相変わらずおっさんくせぇなあ〜」
「シャンパンじゃなくてビールなところもおっさんくさい」
「おっさんじゃねえ! 20代になっちまったが……まだまだピチピチの若者だっつーの!」
一人お酒を飲むレオリオにキルアと私がツッコむ。レオリオは反論しつつも、早くもお酒が回ってきたのか上機嫌だ。


「ゴンはどんな旅をしてるの?」
「オレはルルカ遺跡に行って来たよ! サトツさんに教えてもらったんだけど、ジンが発掘した遺跡なんだ!」
楽しそうに目を輝かせて話すゴンは以前と全く変わっていない。
私は目を細めてゴンの話を聞いていた。


「オレと苗字もいろんなところに行ったよなー」
「あそことか思い出深いなぁ」
私とキルアが旅の話をしていると目を大きくさせたクラピカの視線を感じた。

「お前達一緒に旅をしているのか?」
「そうだよ。と言っても1ヶ月くらいだけど。キルアが連絡をくれて、私もちょうどその時手が空いていたから一緒にいろんなところに行ってみようってことになったの。おかげでとっても楽しい1ヶ月だった」
キルアと旅をしたこの1ヶ月を思い出して顔を綻ばせる。
普段は冷静なのに時にハラハラさせるような子供じみたことをするキルアから目が離せなくて、一緒にいることに飽きない。あっという間に1ヶ月が過ぎていくほど楽しかった。

「時には休憩も必要だからな」
クラピカは目を細めて私の頭を優しく撫でる。
「おかげでリフレッシュできたよ」
私はそれに笑顔で応えた。クラピカの優しさのおかげか、少しフワフワとした気持ちになる。

「おいおいそのへんにしとけって」
酔っているからかいつもよりゆっくりと話すレオリオはニヤニヤと笑っている。
どうしたのかと私は首を傾げた。
「そのへんにしとかないとキルアがかわいそうだぜ〜?」
そう言ってレオリオはガシッとキルアの肩に腕を回した。
「はあ!? なんでだよ!」
キルアは少し顔を赤くしながらレオリオに反発する。
「そうだな。たまには素直になれ」
クラピカも楽しそうに笑いながらキルアを見ている。
「なに? どうしたの?」
ゴンは私と同じでよくわかっていないみたいだ。

「どうしたの、キルア?」
その様子を不思議に思った私はキルアににじり寄った。身体を動かした時、気持ちだけではなく頭までフワフワし始めた。

キルアの顔がよく見えない……。
私は目を細めてキルアの顔を覗き込んだ。
「ちょ、苗字!?」
たじろぐキルアの近くまで来た時、フワッとキルアのにおいがした。
「キルアのにおい……」
私はそのにおいを胸いっぱいに吸い込もうと、においの大元にダイブした。




*




「キルアのにおい……」
そう言いながら苗字はオレの胸元にダイブした。

頭が真っ白になる。

まわりの声も音も聞こえないほど、オレの意識は事態の把握と苗字に注がれていた。
そして我に返り、苗字がスヤスヤと寝息を立てていることに気がつく。

まさか……そう思ったオレは苗字が使っていたグラスを手に取り、においをかいだ。
「おい……レオリオ。アルコールってビールだけじゃないのか?」
「あー、甘い酒も買ってたんだけど……あれ、減ってるな」
「そういえば苗字のグラスから甘いアルコールの匂いがするね」

やっぱり……。

はぁ〜〜〜。
オレは大きなため息をついて、気持ち良さそうに寝ている苗字を抱き上げる。

「とりあえず寝室で寝かしてくる」
ニヤニヤとした目つきで見てくるレオリオを一蹴りして、苗字を寝室まで運んだ。



寝息を立てる苗字の顔をしばらく見つめる。

"たまには素直になれ"

先程の言葉を思い出す。

苗字は誰にでも平等だ。
誰に対しても嬉しい時は嬉しそうに笑うし、嫌な時は嫌だと態度に示す。
感情が読み取りやすいからこそ相手は素直な苗字のことを気に入るし、その心から嬉しそうな笑顔が好きになる。

でも、オレに対しては他の奴らよりはよく笑顔を見せてくれる……気がする。自惚れかもしれない。さっきもクラピカに頭を撫でられて嬉しそうにしてたもんな。

オレは無意識に苗字の頭を撫でた。
すると、それに気づいたのか苗字がゴソゴソと動き出す。

「キルア……」

寝ぼけ眼でオレを見つめる苗字の姿にドキリとする。

「起こしちゃったな。気分はどうだ?」
「フワフワ……」
ダメだこりゃ。
普段だったら絶対に見られない苗字のフニャフニャとした笑顔に思わず頬を緩ませながら布団をかけ直してやった。

「まだ眠そうだし寝てろ」
オレはそう言って立ち上がろうとした。

「メリークリスマス……キルア……」
苗字は小さく笑いながら小さな声でそう呟いた。


まだ苗字を見ていたい。苗字の近くにいたい。クリスマスに、好きな人と一緒にいたい。


オレは再びベッドの横に腰を下ろした。

「メリークリスマス、苗字」
髪をなでてやると、苗字は満足したように再び目を瞑った。

こんなに抜け切った苗字を見るのは初めてだ。少しアルコールに感謝だな。

こういった方面には鈍感な苗字に気持ちを打ち明けるなんてまだまだ先かな。
今は好きな人の側でクリスマスを過ごせるだけで十分だ。


オレは再び寝息を立て始めた苗字のおでこに軽くキスを落として、ゴン達がいる部屋へと戻った。





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