初デートで頑張るアルミン


「なんだアルミン、今日出かけるのか」
兵士である僕たちの数少ない休日。私服を着て鏡の前に立っているアルミンにエレンの不思議そうな視線が突き刺さる。
「あ、うん」
「ははーん。アイツが騒いでたデートってのは今日か」
「は? デート?」
「ちょ、ジャン……」
ニヤニヤと話に入ってきたジャンに首を傾げるエレン。別に隠している訳じゃないけど、こうやって話のネタにされるのはどうも得意ではない。

「じゃ、行ってきます!」

少し時間には早いけど、二人から逃げるようにして部屋から飛び出した。



そわそわと落ち着かない気持ちで名前を待つ。名前との記念すべき初デートは見事な晴天で、この辺りのカップルみんながデートをしていてもおかしくないくらいのデート日和だ。
いつも大勢の人と一緒にいるので二人きりになるのは案外難しい。そういうわけでアルミンは今日この日を待ち望んでいた。なんとかこの緊張を隠してスマートに振る舞いたいところである。

待ち合わせ時刻に近づくにつれ硬くなる表情筋に焦りを感じていると、手前から誰かが走り寄ってくる気配がした。はっと顔を上げると、そこには地上に舞い降りた天使がいた……。

いや、名前だ。

ここまで白いワンピースが似合う人がいるだろうか。いや名前ならなんでも似合うと思うけど。クリスタが女神なら名前は天使だ。あるいはお姫様。なんて親バカならぬ彼氏バカである。

「おまたせ!」
「うん……! じゃあ、行こっか」
嬉しそうにハニカム名前が眩しすぎてもはや見ていられずに歩き始める。
こういう時スマートにかわいいねって言えたらいいとは思うが、いざ目の前にすると恥ずかしさが勝って何も言えなくなってしまう。


対して名前もアルミンをちらりちらりと盗み見ていた。
この純白のワンピースは名前の一張羅だ。部屋を出る前にユミルに散々笑われたので脱ぎ捨てようとしたのをクリスタがなんとか止めて今に至る。そりゃあ自分でも気合いが入り過ぎだと名前は思うが、少しでもアルミンによく思われたい一心なのだ。
しかし実際にアルミンを目の前にすると、アルミンの私服姿が珍しくていつもよりかっこよくていつにも増して王子様に見えてしまう方が名前は気になっていた。まあアルミンは何を着ても似合うんだろうけど、そんなこと恥ずかしくて言えない。


アルミンと名前はお互いが眩しすぎて手を繋ぐこともできないまま川辺へ辿り着いた。そよそよと吹く風が気持ちいい。今日はピクニックデートだ。

「ここから降りちゃおうよ」
名前が指差すのは草が短く生えた土手の斜面。階段で降りる手もあるがその階段はもっと先にある。
スカートで大丈夫かとアルミンは思ったが名前が先に足を踏み出してしまったので慌ててあとを追いかける。次の瞬間、名前の身体が傾いた。同時に、名前が短い悲鳴を上げる。
「危ない!」
アルミンは咄嗟に名前に手を伸ばした。

名前の腕を掴み、引き寄せる。名前を腕の中におさめ、大丈夫?と王子様のように微笑みかける……。

とはいかなかった。
「うわあ!」
アルミンは名前の腕を掴んだものの、力があと少し足りないばかりに一緒になって土手を転がり落ちた。せめてもの力で名前を引っ張り、自身が下敷きになるのがアルミンの精一杯だ。
ああやってしまった。

「ご、ごめん! 大丈夫!?」
「ごめんねアルミン!」

名前とアルミンの声が重なる。
上から覆い被さっている状態である名前の青い顔が目と鼻の先にある。
片腕に収まった名前との距離の近さに我に返った。と、同時に名前も飛び退くように上体を起こす。
「うわああごめん! どこか打ってない!?」
「大丈夫! 僕の方こそ! その、支えられなくてごめん……」
今日くらいはかっこよく名前をエスコートしようと思っていたのに、結局こうなってしまうのか。自身の不甲斐なさと申し訳なさからアルミンは顔を俯ける。
「ふふ……」
名前の方から聞こえた柔らかい笑い声に顔を上げると、目を細めてほんのり赤い顔の名前と目が合った。

「ありがとうアルミン。ちょっと、スリリングだったね!」
あははと屈託なく笑う名前を見ていると、アルミンも自然と肩の力が抜けた。
アルミンの様子を見た名前が大袈裟なくらい明るく振る舞っていることがアルミンにはよくわかった。おそらく名前が無理にそう振舞っているのではなく、ほぼ無意識に明るい態度をとっていることも。

名前を見ていると、根から明るい人とはこういう人のことを言うのかとつくづく思う。
人を気遣えて、陽だまりのように暖かい名前が、僕は大好きだ。

そっと名前から距離を取るが、その手はしっかりと握ったまま。アルミンはニコリと笑って名前をエスコートするように土手を下る。名前が川辺に咲く一輪の花のようなかわいらしい笑みを返してくれたことにアルミンは頬を染めた。


幸せすぎて怖いとはこのことだろうか。


二人の夢のような時間はあっという間で、終わりは刻一刻と迫っている。


結局名前とアルミンはいつものように仲良くお喋りをしただけだったが、それはとても幸せな時間だった。

寮への帰り道、名前の手がアルミンに触れた。夢のようなひとときを少しでも長くするように、指が絡まり合って歩調を緩める。

はっと横に並ぶ名前の顔を見て悟った。
名前もアルミンと同じ気持ちだ。

まだまだ一緒にいたい。
けれど、寮へは帰らないといけない。

アルミンは名前と繋がれた手にきゅっと力を入れる。

そして、腕の中に閉じ込めた。

「アルミン!?」
焦る名前にも構わずその腕に力を込める。
「離したくない……」
その行動の答えがぽつりと口から溢れた。腕の中の名前が大人しくなる。

今日一日夢のようだった。彼氏としてうまく振る舞えていたかは正直わからない。でも、名前が背中に腕を回し、きゅっと掴んだことがその答えのような気がした。
心臓がバクバクと煩い。

そっと名前を離し、肩を掴む。

名前の大きな瞳の中に夕日に負けないくらい顔を真っ赤にした自分の姿が映り込む。
これじゃあ格好がつかないな。
自重地味に笑ったアルミンはすっと目を細める。

静かに二人の影が重なり合う。

夕日に照らされた二人は、紛れもなくお互いのお姫様と王子様だった。




*




初デートで頑張るアルミンというリクエストでした!

スマートなアルミンも好きですが、不慣れなアルミンもかわいくて好きです。
この度は素敵なリクエストありがとうございました!


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