宵越と恋人同士で甘々


私の恋人はとっても照れ屋さんだ。

手を繋ぐにもいちいち生唾を飲み込み、私は虫か何かか? と言いたくなるほど逡巡を重ねて、漸く手に触れたかと思うと骨折するのではないかと思うくらい強く握りしめる。いやいや、これ手を繋いでいるというよりリンゴを握りつぶす要領で私の手を掴んでるだけじゃん。と、心の中でツッコむがこういうところもすごくかわいいと思う。
こういう時私はそっと宵越くんの手を解き、彼の男らしい手に自分の指を絡めるのだ。
その時の彼の照れた横顔も好きだ。耳まで赤く染めて拗ねたようにちょっと口を突き出して。でも繋ぎなおした手はとても優しい。

スポーツをしている時のような、冷静でいて死力を尽くして闘う熱い姿からは想像もできないほど不慣れな彼。

こんなにかわいい彼氏を前にして意地悪しないなんて選択肢があるだろうか。


今日もどうやって宵越くんをかわいがってあげようかと企みながら下校を共にする。隣を歩く彼はいつも通り私と距離が離れないように意識してくれている。ニヤける口元を引き結んで、わざとゆっくり歩いてみたりするのが楽しい。


子どもたちもすっかり家に帰り人気のない公園は、中心にぽつんと置かれた外灯だけが薄く照らしている。

セーターからのぞく指先に、はあと息を吐いて暖めた。
昼間はセーターを脱ぎたくなるくらい暑いのに、部活を終えて日が沈んだ今はブレザーが欲しくなるくらいには寒い。
公園のベンチも外気に晒されて冷たくなっている。漸く温まってきた場所を移動するのは億劫だと思いながらも、真ん中に一人分のスペースを開けて座る宵越くんをちらりと盗み見る。暗闇にぼんやりと浮かび上がる綺麗な横顔はアンニュイで神秘的ですらあるが、実際のところは緊張で固くなっているだけだろう。

こんな姿を見てもっと距離を詰めたくなる私は意地悪だろうか。

すすす、と肩が触れるか触れないかの距離に移動すると、宵越くんの肩がピクリと上がった。付き合いたての頃はパーソナルスペースに入ろうものならこちらが悲しくなるくらい大げさに距離を取られていたので、これでも大きく進歩しているのである。

隣に座る宵越くんの顔も、今の距離でようやくはっきりと見えるようになった。美術品のように美しい彼の横顔を暫く堪能して、ふと前に向き直る。
「寒いねぇ」
もう一度指先に息を吐きかけながらそう呟けば、石像のように固まっていた宵越くんが動く気配がする。
「……名字が薄着なだけなんじゃねぇの」
彼の視線はセーターしか着ていない寒そうな私の上半身へと注がれる。照れ隠しとも思える彼の冷たい返答にわざとらしく頬を膨らませた。
「違うでしょー。そこは、寒いなら俺が温めてやるよ。でしょ?」
「だっ、れがそんなクサイ台詞吐くかよ!」
自分がそのクサイ台詞を吐くところを想像したのか言葉を詰まらせた宵越くんの頬は早くも僅かに上気している。
本当にかわいいなあなんて思いながら、へへへとだらしなく頬を緩める。

「ね、暖めて……」
すぐ側にある宵越くんの手を取り、優しく両手で包み込む。案外彼の手も冷たくて、これじゃあどっちが暖めているのかわからない。まあ元より、暖めるため、なんてただの口実でしかないのだが。

宵越くんは暗くてもはっきりとわかるほど頬を赤く染め、目を皿にして握られた手を凝視する。心なしか鼻もちょっと膨らんでいる気がして、また性懲りもなくいじめたくなる。ここで追い打ちをかければ怒られるのは百も承知だが、この欲望を抑えることは難しい。
「ふふ……」
「なっ……!」
漏れ出るニヤけを抑えもせず、握った彼の手を自分の頬へ寄せる。すりすりと頬ずりすれば、ひやりと冷たくて少しガサついた彼の手の感触がよくわかる。
宵越くんは身体を硬直させ、されるがままの己の手を見つめている。怒りと羞恥から震える抗議の声を待ってみたが、手を振りほどく素振りも見せない。

あれ、怒らないなあ。

想像とは違う展開に首を傾げたのも束の間、宵越くんの拳に力が入ったかと思うと、次の瞬間には身体が引き寄せられていた。
鼻孔をくすぐる宵越くんのにおい。痛いほど力強く抱きしめられていると理解した瞬間に、彼の不器用な甘い声が頭上から降ってくる。

「これで……文句ねぇだろ」

今宵越くんの顔、真っ赤なんだろうなあ。
なんて、羞恥に頬を染める彼を思い浮かべながら、彼に劣らないほど顔を熱くさせて、ぎゅっと彼の大きな背中に腕をまわした。



***



宵越と恋人同士で甘々というリクエストでした!

女の子にタジタジな宵越かわいい(笑)
でも最後には男を見せてもらいました。
この度は素敵なリクエストありがとうございました!



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