風紀委員長×会長 02


「ただいま」

「…」

「オイ。お帰りは」

「オカエリ」

「かっわいくねぇ」

帰宅した広樹に背を向けたまま返事をすれば決まった様に返ってくる言葉。
かわいくなくて悪かったな。

「ビーフシチューじゃん」

コトコトと煮込んでいる寸胴鍋の中を覗いて意外そうに言う広樹。

「は?テメェが言ったんだろ」

「…。かわいくはねぇけど、こういう素直でヤサシイところは好きだぜ」

「…と、鳥肌が」

「むっかつくなテメェ」

***

中学を卒業すると同時に出来た兄。
馬が合わず、こんなヤツが兄なんて認めたくなかった。
それでも母のため、新しい父のため、海外へ仕事に行ってしまった彼らの用意してくれた一軒家に二人で住んでいた。
学校には寮がないため、経費を極力減らすためにも一緒に住まわざるを得なかったのだ。

広樹自身も俺も、互いのことを苦手としているのは他人から見ても一目瞭然。
風紀委員長と生徒会長としても対立しているので、それの犬猿の仲は信じて疑われることはない。

しかし、なにを思っているのか知らないが、普段は俺様でよく偉そうに噛みついてくるのに、やけにほめてくるときがある。
今もそう。

「うま…。さすが」

「そうかよ」

ビーフシチューに息を吹きかけ冷ましながら口に運ぶそいつは嬉しそうに呟いた。
ああくそ、むず痒い。

「いくら当番だからって、なんで俺ばっか飯作んなきゃなんねぇんだよ」

「んなもんオレが作るわけねぇだろ。あほか」

「テメェがあほか」

「それにオレお前の飯が食いてぇから」

「…それこそあほか」

女に言うようなこと、俺なんかに言うな。ばか野郎。
明日はなんだと聞かれるが、明日も残りのビーシチューと答えれば、テーブルの下で足を蹴られた。

「ん、悪い。足が長くて」

死ね。

***

朝、いつも通り戸締りを確認して靴を履く。
この生活でこころなしが主婦っぽくなっているのは否めない。
以前主婦かよと自嘲的に呟いたら、じゃあさしずめオレは頑張って働いている旦那か。と返されたことを思い出し、脳内から追いやるように首を振った。

ペタペタと裸足でフローリングの上を歩く音が聞こえる。

「もう行くのか」

「会議あるって言っただろ」

寝ぼけたような声にため息を吐きながら言えば、

「行ってらっしゃい」

――こいつのことは嫌いだが、こういうやりとりは嫌いじゃない。

「…行ってきます」

「あ、待った」

トントンとつま先を床に当てて靴を履き終わると奴に呼びとめられ、くいっと顎を指であげられる。

――まさかと思ったが時すでに遅し。
ちゅ、というリップ音とともに唇へと柔らかな感触。

「な…っ」

「いつもやってんだろうが、行ってらっしゃいのキス」

そう言ってぺろりと自分の唇を舐めるのを見て、ぐわっと顔が熱くなるのが分かる。

「っっ…!」

言葉だけで十分だろうが!!!



End.



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