風紀委員長×会長 01


『今日から成瀬 稜也と名乗ることになるのよ』
『今日から広樹は兄になるんだからな』

『『い や だ』』

声をそろえてそう言った俺たちに、母も、義理の父も、目を丸くしていたのは今でも昨日のことのように思い出せる。

***

「――ちょう、会長…!」

「んあ…?…あ…やべ、寝てた…?」

ふと意識を浮上させれば、同じ生徒会の役員である副会長が困ったように眉を寄せてこちらを見ていた。
目を擦りながらまわりを見ると他の役員たちはまたかというように笑っている。

「もう、なにやってるんですか、仕事中に寝ないでください」

「ふあ…お前、俺の睡魔ナメんなよ…場所がどこであろうと襲ってくるんだからな」

「それはとても大変なことですね。ですがそんなこと僕には関係がありません。まだ捺印してほしい書類やら目を通してほしい書類やらがたくさんあるんです。終わらせてさっさと帰らせてください」

「チッ…」

無理やり副会長に起こされ書類を机に山になるほど置かれたら誰だって不機嫌になるだろう。
舌うちをし、寝起きの脳を無理やり覚醒させて山から一枚取る。

――それにしても、懐かしい夢を見た。

***

「邪魔するぞ」

皆珍しく静かに膨大な仕事と向き合っていると、ノックもなしに唐突に入ってくる野蛮な男。

「…成瀬委員長…せめてノックをしてくださいと何度言ったら分かっていただけるのですか」

副会長の疲れたような声に皆が同情し、言葉に同意した。
しかしその男はそんな言葉を気にも留めず、にやりと笑った。

「構わねぇだろ別に、やましいことでもしてなきゃ」

「!…あなたって人は…」

「…。何の用だ」

頭を抱える副会長に変わって俺が声をかけると、そいつはチッと舌打ちをした。
そしてつかつかとこちらの机に向かってきて書類を何枚か放った。

「お前寝てただろ」

「!…は?んなわけねぇだろ」

「書類ぐしゃぐしゃ。しっかりしろよな、生徒会長様」

そのニヒルな笑みに俺の額に青筋が浮くのが分かる。
こいつってやつは本当に!!!

「まぁ会長が寝ていたのは本当ですし…」

「ほう」

「テメェ…」

「とりあえずこの書類不備な。マークしたとこ。寝ぼけてミスってんじゃねぇぞ」

「誰が!」

書類を見ればデジタルのものには赤で直接、アナログのものには付箋が貼ってあった。
これはいつものことで、当たり前って言えば当たり前なんだが丁寧な不備の指摘には正直助かってはいる。

「…不本意だが、感謝する」

「かっわいくねぇ」

「うるせぇ」

本来なら俺が礼を言うってこと自体非常に珍しい。
ほら現に他の役員たちが目を丸くしてこちらを見ていて。やりにくいったらありゃしねぇ。

「じゃあそんなオレ様に敬意を示せよな」

「は…?」

にやりと笑う男に眉を寄せる。
一体こいつはなにを俺に”敬意”として求めるのか、聞きたくない。

「ビーフシチュー食いたいから」

「…」

「じゃあな。別のにしたらぶっ飛ばすから」

さっさとしろよと言って奴は生徒会室から出て行った。

「…嘘だろ…あの横暴野郎…」

今から作って間に合うわけねぇだろ。昨日は煮物食いたいとか言ってたくせに。買っちまったよ煮物の材料。

「…甘いよねぇ、会長」

「ふざけんな」

会計の羨ましげな声にそう切り捨てるように言えば苦笑が返ってきた。

「夕飯のリクエストとか、二人の親衛隊が見たら発狂するんじゃないかなぁ」

「仕方ねぇだろ。家事の分担上俺が飯作るしかねぇんだから」

不備の書類のデータを呼び起こし、ブラインドタッチで入力していく。
頭はもうビーフシチューを作って食える時間に帰るには何時に仕事を終わらせればいいかということしか考えていなかった。


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