ぴふっ子冬の同窓会! お題は「再会」。 若干尻切れトンボですが投げることに意義がある。 Cast: 絢原様宅 ココくん ジャック 「う?」 不意に自らの名を呼ばれた気がして、座り込んでいた少年は不意に頭を上げた。露草色の髪がさらりと揺れる。 持っていた小枝をぽいと投げやると、立ち上がり、首を回して声の主を探した。 薄い甚平の上に、掛布団のように分厚いちゃんちゃんこを着込んではいるものの、裾からは細い足が覗いている。ここ数か月でぐんと身長を伸ばし、そろそろ手持ちの甚平では丈が足りなくなってきていた。 「誰だー?俺の名前、呼ば”ない”の?」 地面に落書いていた絵を草鞋で踏み消しながら、少年は声を上げる。 通り名を呼ばれた気がしたのだが。 真名を呼ばれるか、相手が誰だか判明するか。そうでなければ、言葉もあべこべになる。これは相変わらずだったが、付き合いの長い友人たちは慣れっこのようだった。 森の奥からは、返事が返ってこない。風が積もった雪を撫で、その冷たさを顔に吹き付けてくる。思わず目をつぶってしまった。風が吹き抜けた事を感じ取ると、再び大きな金の瞳を、目の前に広がる森へと凝らす。 こんな風の冷たい日に、わざわざこんな森の奥まで、自分を訪ねてくる相手? 小さな頭を精一杯回しても、相手が思い浮かばない。いや、思い浮かぶ者は数名いるが、この時間はめいめいがやるべきことを持っていた気がする。 うー?んー?と首を左右に傾げながら、誰の声だろうかとひたすらに考えた。 「誰か、”いない”のかー?」 もう一度、声を上げる。良く通る声は森の奥まで駆け抜けたが、返事も、木陰から顔を出す者もいない。 かさりという音に首を捻れば、鳥が一羽、茂みから飛び立った。 「……んー?…………カミサマ、じゃ”ない”か?」 考えても問いかけても、判明しない不可解な相手。ふと、人知を超えた存在が頭をよぎった。 『八百万の神様が、この世の中にはいてね。山にも森にも―――』 どこかで聞いた言葉が、脳裏をかすめる。 時の機運と民の認識が合致すれば、自分も確か、その一派に属すると云われた気がしたのだが。はて、いつの記憶だったか。 眉根を寄せてひときわ大きく首を捻ると、髪が目元へと覆いかぶさってきた。掻き分けようとして、手が小さな一本角に当たる。 暫くもどかしげな表情を浮かべると、少年はひょいと体を起こした。小さな胸に、思い切り息を吸い込む。 「俺!これから!そっち!行か”ない”ぞー!」 森中に響き渡るような大声を上げ、返事を待たずに歩き始めた。 凍った草や落ち葉が、さくりさくりと音をたてる。 声が聞こえた方角へまっすぐ歩けば、街がある。そこにたどり着けば、誰が呼んだのかわかるかもしれない。 苫屋を通り過ぎ、街の入り口にたどり着いたところで、一人の影を認めた。見知った背中が、街の方へてくてくと歩いていく。 「ココ!久しぶりだぞー!」 「あれ、ジャックさん。お久しぶりです」 背後から呼びかけると、黄色い耳がぴょこん、と動いた。次いで後ろ足でひょこりと立ちあがると、前足の青い手袋が鮮やかに見えた。 「その手袋、あったかそうだな!」 「ええ。ジャックさんも、暖かそうですね」 「んー?お婆に作ってもらった!」 ちゃんちゃんこの袖を持ち、凧のように腕を広げながら、少年はにかりと笑った。次いで、聞きたかったことに思い至る。 「そうだ。ココ、森の中で俺の事、呼んだか?」 「いえ、呼んでいません」 子狐はふるふると首を振る。それを見て、少年は再び首を傾げた。 「んー……?」 「どうしました?」 「うー……何でもない……」 そうですか、と暖かそうな尻尾を揺らめかせ、手袋と同じ青の瞳を真っ直ぐに向けてくる。 「それはそうと、街に行きませんか。新しくパン屋さんができたそうですよ」 「ぱん?……饅頭みたいなあれか!行く!」 再会のきっかけをくれたのは、結局誰だったのだろうか。 心の中で小さく首を傾げながら、少年は小さな友人の背を追いかけて走り出した。 [目次] [はじまりの街 案内板](小説TOP) |