イベント1 行軍中

<昼過ぎ>

低く垂れ込めた曇天を枯れた大樹の枝葉が区切り、はるか前方には青が垣間見える。しかしジョイスの視線は目的地の空ではなく、手元に落とされていた。ゆっくりと大きな箱を開けると、普段の一日分はありそうな食糧の山。腹に詰め込むように頬張る周囲を見渡すと、彼はひとつ溜め息をつき、蓋を戻した。
胸に階級章をつけた男に見咎められたのはその直後。エネルギー補給の大切さとやらの演説を聞き流しながら、しぶしぶもう一度蓋を開け、固形食をひとつつまみ上げる。がり、と奥歯で噛むと、眉根に皺を寄せ、即座に水筒の水で流し込む。それを何度か繰り返し一本を腹に納めると、甘味へと手を伸ばした。



<戦闘開始1時間前>

腹が痛いと嘘をつき、兵糧の代わりに簡素なスープを一杯もらってきた。戦闘員でもない自分には、このくらいでちょうど良い。冷たさを残す春の夜風に身を震わせ、椀をあおって温もりを腹に流し込む。星月夜を見上げるなど何年ぶりか。眼鏡を外し、滲んだ白と深い黒を見遣る。号令がかかるまであと僅か。




TLに流したSS
別名:おっちゃん格闘記(vsレーション)


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