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SO SWEET!








ガシャッガタガタッ!!


「………?」

突如響き渡るよろしくない物音に赤木は目を覚ました
ソファに寝転がったまま、首だけ動かして半開きの目でキッチンの方を見やると黒いエプロンの端っこが揺れているのが見えた

(そういや…あいつ今なんか作ってるんだっけか…)

しかたねえな、と起き上がる
カーテンの外は暗く、時計11時をまわったところだった
少しぼーっとしたあと、クク、と笑ってダイニングルームへ入って行った




「大丈夫か?」
「わ、赤木さん!びっくりした」
「…お前なにしてんだ?」

十分仮眠をとって眠気もとんだのでキッチンへ向かうと、何故かなまえが切り途中の野菜の横で前髪を洗っていた
当然赤木は不思議そうになまえを見る

「あ、や、その…調味料が落っこってきて…」
「被ったの」
「…そうです」

なまえの頭の上の棚には調味料が所狭しと並んでおり、特別身長が低いわけではないのだが塩に続いて胡椒やら七味やらがまとめて落ちてきたのだという
赤木は笑いながらそれらを棚に戻してやった

「ハハ、バカだな」
「…絶対ここに調味料おいてある方がおかしい…!」
「はいはい」
「あ、そういえばおはようございます。なんか飲みます?」
「うん、冷たいやつ」
「あ、ちょうど野菜ジュース買ってありますよ」
「また…」
「またって…!」

赤木がカウンターに肘をついて寄りかかりながらそういうと、
赤木専用のすらりとしたグラスを用意しながらなまえは心外とばかりに反論する

「俺心配してるんですからね!
赤木さん生活も夜型って言ったって不規則過ぎるし、
バランスも考えずに好きなものばっかり食べるし!」
「わるいわるい」
「ちょっ、台拭きいじりながら言うのやめてもらえません!?」
「これなんだ」
「えっ…わかりません」
「答えはブラジャーでした」
「怒りますよ!!!」

台拭きを折り紙のように折っていき出来上がった二つの四角い形の端をつまんでハハ、と笑う赤木に、なまえは怒る気も失せてオレンジ色の野菜ジュースをついだグラスを差し出した

なまえはたびたび赤木の家へやってきて手料理を振舞うのだ
いつか赤木が長い勝負を終えたあと、冴えない顔色でフラついていた時に世話したのをきっかけに、こうして食事を用意するようになったのだった
回数を重ねるに連れて味も見た目もレベルが上がって行き、
次第に赤木の好みを上手く取り入れるという所業までこなしてみせたなまえ
最近では赤木からなまえの家を訪れることも多くなったのだ

腹減った、とインターホンを鳴らす赤木に料理目当てですか、といいつつも胸中嬉しいなまえは追い返したことなど一度もなく、電話ぐらいください、といいながら開けた冷蔵庫には必ず余分に食材が揃えてあることまでは赤木はまだ知らない

「もー、だから今日だってこんなに野菜たっぷりで美味しそーなスープを…」
「それ、まだ?」
「あ、すいませんもうちょっと」
「腹減った」
「わ、わかりましたって」

赤木に急かされ作業に戻るなまえ
再びまだ乾かない前髪を揺らしながら野菜を切って行く
いつもならソファでうたた寝する赤木は今はしっかり覚醒状態で、獲物を見つけた猫よろしく、じっとなまえの手元をみていた

「…すごくやりづらいんですけど…」
「なんで」
「視線を感じて」
「いや、上手くなったな、と思ってよ」
「えっ」
「ん?」
「あ〜…ありがとうございます…」

照れたのか、一瞬ぎこちなさげにそういうとさっさと背を向けて作業に戻ってしまった
わかりやすいほどに内心うろたえているなまえ
全てお見通しな赤木はちょっと笑ってその背に近づいた

「わっ!」
「全く、可愛くねえ嫁さんだな」
「わっちょっと、え?赤木さん?」
「動くなって。よし、できた」
「あ…すいません、ありがとうございます」
「ん。あ、まだ」
「え、はあ…」

できた、と言うや否や納得いかないのか、またなまえの背中でエプロンの紐をほどき、結び直す
あーとかんーとかいいながらなにやらもぞもぞと手を動かすときゅっと最後にしめた
赤木がめちゃくちゃながらしっかり結び直されたエプロンの紐をぽんと叩く
なまえが実はちょこちょこ不器用な面を見せる赤木に笑いそうになっていると、なまえの肩に手を置いたまま動かない赤木に気づいた

「…?赤木さん?」
「……なんか…」
「え?」

すいっと顔をなまえの髪へと寄せる赤木
なまえは驚いて変な声をあげながら身を翻すが赤木はなおもなまえの髪を追いかける

「動くなよ、大人しくしろって」
「わっちょっと、なんですか」
「いーから」

なにやら真面目な赤木に仕方なくなまえが大人しくすると、よし、とまるで子供にでもするように髪をひとなでするとまた髪に鼻を近づけた

「(ち、近い…)なんですか」
「いい匂いがする」
「え?」
「もうちょい…こう…」
「え、わわっ」
「なんか、甘くていい匂いがする」
「甘い…?
ってちょっともういいでしょ!」
「なんだよ、つれねーな」

首をひねって赤木から離れるとわずかに口を尖らせる赤木をじろっと見やりながら心当たりを探すなまえ
やがてあっと声をあげた

「ん」
「たぶんそれ、バニラエッセンスですね」
「バニ……」
「バニラエッセンスですよ、さっき塩とかと一緒に落ちてきたんです」
「ふーん」

一通り納得したような返事をするとまた近付く赤木の顔になまえは思わずフイ、とそっぽを向いた
何故だかそわそわしてまともに赤木のほうを見ていられない
が、掴まれたままの肩をくい、と引っ張られてまた赤木の襟をはだけた細い首が目の前に現れた
こしょこしょと髪の毛をいじくる赤木はいつも通りだが、なまえはどこかどきどきして落ち着かなかった
離れて欲しいとおもいつつ、髪を触っていた手が離れるとちょっと寂しくもある

「いいな、これ」
「いいなって…」
「これいい。気に入った」
「バニラエッセンスですか?」
「を、かぶったお前」
「…は?」
「甘くていい匂いがする」

そう言って自分でクク、と笑いながら前触れもなく髪に軽く口付けた



「………」



驚きとどきどきと、赤くなってうろたえるなまえをよそに赤木はさっさと離れて棚を漁った

「あった」
「へ…」
「これか、バニラエッセンス」

小さな瓶を片手に、おもちゃを手に入れた子供のような無邪気な笑みをこぼす中年雀士になまえは一転さあっと青ざめた

「な。」
「な、って、え?いや、まさかそんな」
「なまえ」
「っはい、え、ちょ、ちょっ…アッー!」





その後日、バニラエッセンス片手に近づいてくる赤木に負けて、なまえは嫌がるひろゆきを引っ張って駅ビルのフレグランスショップにバニラフレーバーのコロンを買いに行ったとさ。







―――――――

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しかし野菜スープどこへ行った←



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