Novels | ナノ

名を残せ!







昼休み、学食に行こうとたらたらと中庭を歩いていた俺は前を歩く2人組の中に見覚えのある背中を見つけた
青いマントにドラゴンテイル
あれ、でもあいつこの間は洒落たミディアムショートだったような…
ていうか…ん?マント?
まいいか!きっと気にしちゃいけねーよな!

「よ!」
「お前は…」
「曹丕今日は司馬懿と一緒じゃ「誰だ?」忘れたのかよ!!」

ショックを受けるより先にツッコむ俺の笑いのスキルは格段に上がっている
その証拠に俺も何もないところからハリセンを出せるようになったぜ、ククク

「俺だよ!司馬懿と同室の、みょうじなまえ!」
「みょうじ、なまえ…だと…?」
「なんで如何にも初耳ですけど?みたいなリアクションなわけ?」

「冗談だそんなに怒るな髪の毛放せ」
「やだ、抜く」
「抜くならこっちを抜け」
「えっ!」
「あ、どーもこんにちは、子桓がお世話になってます」
「あ、いえ、こちらこそ」
「なんだ貴様らその不愉快なやりとりは」
「さっきも言ったけど、俺2Bのみょうじなまえです、よろしく」
「貴方が…みょうじ殿か。私は2Aの趙雲、字は子龍だ。
会えて光栄だ、こちらこそよろしく」
「、…………!」
「…?みょうじ殿…」
「なんって礼儀正しい人だろう…!!よろしく趙雲さん!なまえって呼んでね!!」
「あ、ああ…」

俺はついつい興奮して趙雲さんがさわやかな笑顔で差し出した右手を両手で握り、ぶんぶん振った
おわかりだろうが俺はここへ来てこんなにマトモな自己紹介をした覚えがない
「甘寧でEぜ☆」だの、「司馬懿だヴァカメガフハハ」だの、皆常軌を逸している
そこでこのさわやかイケメンオーラ全開のキラキラ王子に会ってしまったらもう俺が一目惚れしたと言っても不思議じゃない

「しかもイケメン!」
「いや、そんな…」
「フ…貴様の目は節穴か。ここにもいるだろう世を騒がす美男子が」
「アハハ、趙雲殿が10年くらい真っ暗な密室に幽閉されて正気を失った感じの美男子だね」
「…………」
「そ、それよりなまえ殿、昼食はまだかな?」
「うん、今から学食行こうと」
「良かったら一緒に行きませんか?ねえ曹丕殿」
「えー「やったあ!行く行くー!あ、曹丕は行かない感じ?」
「Σ何故だ」
「あ、もちろんおごりたいってんなら来てもいいんだよ?」
「貴様…」
「まあまあ、今日の日替わりは刺身御膳らしいですよ!」
「わーい早く行こー!」









「ああ!趙雲て“蜀漢三本槍”の趙雲かぁ〜!!すっげ!!」
「ははは…いつの間にかそんな大仰な名前がついてしまってね」
「案ずることはない。私の“文帝”の方が余程カッコよくて偉大だからな」
「お前“文帝(笑)”って“運痴男子と紙一重”って意味で使われてるの知ってる?」
「なんでお前は私には厳しいのだ…」
「ねね、三本槍ってことは三人でしょ?」
「ああ、あと馬超殿と姜維のことを指すようだ」
「えっ馬超が!?あの馬超が!?」
「何を驚いている」
「だって確かに運動能力はキダムだけど…うーん、でも槍がすごいのかな…」
「ああ、馬超殿は相当な槍の使い手で、“錦馬超”の二つ名を持っているほどだ。一度手合わせするといい」
「死ねと?」
「姜維とは何者だ?」
「姜維は今一年生で、諸葛亮殿の推挙で蜀高に編入してきた秀才でもあるんだ。“蜀の麒麟児”なんて噂された実力者さ」
「へ〜えええ!!?なに蜀って推挙入学的なのがあるんだ!!?」

俺の苦瓜が俺と曹丕の皿を行ったり来たりするのに慣れてきたのか、爽やかな笑みを浮かべつつ、趙雲が話す
どさくさに紛れて自分のニンジンを趙雲の皿に移す曹丕の悪行にも何も言わずそのニンジンを食べてやる趙雲はやっぱり中身もイケメンだった

「確か姜維は…保健委員をやってたんだったかな」
「む、ではあいつだったのか…確か“二喬”と共に保健室にいるポニーテールの」
「ああ、それ姜維ですよ」
「“にきょう”?」
「フ…知らんのか、ククク…無知な奴め」
「ねーねー趙雲、にきょうってなに?」
「あっ貴様、ニンジンはやめろ…!ああっ」
「“二喬”というのは、大喬小喬姉妹のことを指した呼び名だよ。とても美人で有名でね」
「へー!美人かあ!」
「月はその光を消し、花さえも恥じらうほどと言われているな。まあ甄の方が美人だが」
「すっげ!何それ!日が西から登るほどの!?」
「貴様センス皆無だな」
「うるせーよ“文帝(笑)”」
「見たことないかい?大喬殿はうちのクラスにいるんだが」
「そういや俺A組全然知らないや…
そのにきょうってさ、貂蝉よりも美人?」
「「貂蝉?」」
「うん。貂蝉ってほら、C組で、いつも呂布と一緒にいる…」
「ああ!あの子か」
「…ああ。確かにその貂蝉とやらも美人だったな」
「だよねーっ!もうちぐはぐコンビ過ぎてさあ〜
知ってる?ついたあだ名が“美女と野じゅ「誰が野獣だと?」間違えた“美女と猛将”!な、呂布!」

バカヤロウ!!
いきなり後ろに立つんじゃねえー!!
刃物むけんな!!
もーどうしてこの学校の人はすぐに武器持ち出すの!?ばか!!
いやしかし“猛獣と猛獣使い”の方を持ち出さなくて本当に良かった
一歩間違えれば即あの世行きだからな…

当の本人、呂布が二人と向き合って座ってた俺の隣に座ると趙雲と曹丕はおおー呂布だすげー的な反応をしている
名乗り合う間俺はちょっと鼻高々といった感じだった
(今しがたやられそうになったけど)

「呂布お久〜!!どうC組楽しい?」
「(『呂布お久』!?)」
「(こやつ…案外やるな…!)」
「フン、悪くはないが群れてる雑魚がどうとかは知らんな」
「はは、そっかそっか!相変わらずよく食うなお前!
…あれ、でも主食カレーライスやめたの?」
「貂蝉にそれでは偏ると言われた。今日の主食はオムライスだ」
「(これだけ料理があれば主食も何もないと思うんだが…)」
「(こやつらのことだ、どうせ真ん中に置いてあるのが主食とかそういうくだらぬことだろう)」

俺がべらべらしゃべりながらも先に食べはじめた刺身御膳(曹丕の奢り)が漸く半分になるころ、
呂布のオムライスと親子丼は何時の間にか消えていた(こえーっ

「いやしかしC組って美人多くていいよねーっ」
「甄のことだろう」「貂蝉のことだな」
「「…」」
「…え、えーっと、あー、そういえば孫家の姫君も大変な美人ですよね!はは!」
「あー、尚香さんね!うん、美人!」
「たしかその女、“弓腰姫”と呼ばれ、弓道部で大変な人気だそうだな。教室で弓道部の雑魚女どもがよく群れている(ドヤッ」
「へえー!知らなかった、ただの元気なお嬢さんだと思ってたー」
「…ん?確かそやつは…孫策の妹だったか…?」
「あ?そうだっけ?A組の孫権の妹じゃない?」
「いや、でも孫権殿は孫策殿の弟君だから…」

「「「…」」」


ん…三兄弟なのに…同じ……学、ね…………




「?それは無いだろう、何故全員2年にいるんだ」
「…だ…

…だよねー☆呂布あったまいーい!!」
「「!!」」

俺はもう呂布の全力で素直な意見に乗ることにした
あまり余計なこと言うと黒幕にけされかねないからな、この学校…
思わず辺りを見回す

「でも尚香さんと孫策って似てるよなー、あの華奢なオナゴのどこにあんなエネルギーがあるんだか」
「ははは…尚香殿はお転婆でも有名だからね」
「別名“弓腰鬼”だからな
まあ私はお転婆はお断りだが」
「そりゃそうだ、お前じゃすぐ
《ちゃーららららららちゃらーん♪(討死のBGM)》
ってなっちゃうもん」
「フン、貴様私を馬鹿にしているようだがな、私は無双のパラメータはSだぞ」
「それ“ショボい”のSじゃない?」
「……………」
「なんだと…!?」
「え?あー嘘嘘嘘!!呂布のSは“すげえ”のSだよな!無双以外全部すげえ!
つーかあーもうお前の地雷ランダム過ぎてわかんねー!!」

じとっと湿った目で俺を睨む曹丕と明らかに触角が逆立ってる呂布に挟まれる俺
なんか友達多い子みたいじゃない?

ひとまず俺は刺身御膳を平らげ、じゃ行こうぜと皆で立ち上がりふひーと満足のため息をつきながら振り返った
そう、振り返った

「こっここここれは孫尚香様ァァァ!」
「やっほーみょうじ☆」
「お久しぶりですなまえくん!」
「あっ貂蝉〜!久しぶりー!!」

そう、そこにいたのはC組の美人二人
弓腰鬼こと孫尚香様と猛獣使い貂蝉である
いやー眩しいぜ二人とも!
しかし俺の反応の差が気に入らなかったのか尚香さんは笑顔のまま俺の足をげしげし踏んでいる

「いたたたいたっ尚香さんたちお昼食べ終わったんですか?あいたた」
「うん!今日は軽めにして、新商品デザート、食べにきたの!」
「それはそれは…あいたたた」
「ショコラガレットって言いますの。奉先様も一緒に食べません?」
「う、うむ。そうだな。
貂蝉の分も買ってやろう」
「まあほんとですの!?嬉しいですわ奉先様!」

にこにこと喜ぶ貂蝉にはひとかけらの黒さも感じられずキラキラしている
むしろ微笑ましいのだが列に並ぶ二人に向けた俺たちの生温かい視線には確実に呂布への哀れみが混じっていた
全く健気な猛獣だぜ…

そこへふと尚香さんからの地味な攻撃がやんだ
呂布と貂蝉の後ろ姿を見て人差し指を口元にあてるポーズ
これはつまりあれだろう

「…貂蝉いいなあ…(チラッ」
「…俺も食べたいなあ…(チラッ」
「…(チラッ」
「…え、えーっと…じゃあ私が買ってこよう…」
「「おめーだよ曹丕!!」」
「ぐはっ」

善人趙雲に押し付けるなんてどこの文帝だお前は!!
尚香さんと俺の視線を趙雲へ流した曹丕に二人で足払いをかますと曹丕は両足を払われてすっ転んだ
そこをすかさず引っ張ってレジへ並ぶ俺と尚香さん
彼女とは結構気が合うかもしれない
尚香さんもそう思ったのか、曹丕の襟首を掴んだままニコッと笑った

「私たち息合うね!」
「ですね!」

曹丕が白目を剥いていることなど全く気にせずキラキラ笑う尚香さんは本当に素敵な女の子だと思った
ほんとにC組は羨ましいぜ!

ちなみに、残り丁度3個だと言うので、趙雲の分もデザート買ってあげました(曹丕のお金で)
さらにちなみに、それ以来、俺と尚香さんが二人でいると曹丕は脱兎の如く逃げるようになりました
影で俺らを“学食の金角・銀角”などと呼んでるらしいです

呂布と貂蝉のそのあと?
知るかあんなリア獣!!




Back
Top

-
- ナノ -