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点を取れ!






「叩いてかぶって」
「「ジャンケンポンッ!!!」」
「そらあああああ!!」
「せえええぐっはああああああ!!!」
「はいっ名族おごりコーーース!!!」
「「「イエーーーイ!!!」」」
「(討死)」
「テンテンテンッテンテンテンッジャジャジャジャッ!ハッ!!」

今日も今日とてここ、2年B組の教室には俺らの歓声が響き渡る
今日のメインイベントは放課後カラオケのおごりをかけた“叩いてかぶってジャンケン”!!

ご存知の通りこの孫策、甘寧、張遼、馬超、名族、俺のメンツでは確実に俺と名族の一騎打ち…
そしてまた今回もおごり王者決勝戦は俺対名族!!
二勝一敗で名族のおごりに王手をかけた俺は名族のグーを見た瞬間方天画戟をフルスイングした!!!

なんか微妙にかぶったあとのヘルメットを強引に名族ごと吹っ飛ばした気もするけどまあ気のせいだろう

ピクピクしている名族を囲んで喜びのあまり俺たちがドンドコ(ウーッ)ドンドコ(ハッ!)とどこか南の部族みたいな踊りをしていると黄忠先生が怒鳴りながら教室に入ってきた


「静かにせんかァァー!!終礼の時間じゃぁぁぁー!!!」
「やべっ席戻ろうずぇ!」
「おう!放課後すぐ出発な!」
「名族座らせろ!」
「無理ポ。白目をむいておられる」
「じゃいいよ、おいといて」
「黄忠どの!ご機嫌ウルワシューゴザル!(甘寧裏声)」
「ギャハハハハ!ねーよ!!」
「ほほー主ら余裕じゃのう!?期末試験はすぐそこというのに!!」
「ハハハ、え?













え?











「というわけなんだよ司馬懿ぃぃ〜!」
「知らんわ馬鹿めが!!」
「ルームメイトになったのも何かの縁だろ司馬懿!」
「貴様もか甘寧!!」

そして一週間後、日曜日…
またの名をテスト前日というこの日、俺と甘寧は点が取れる気がしない憂鬱と勉強する気が起きない気だるさから司馬懿にすがりついていた

「一週間もあったなら十分であったろう」
「ばかお前その一週間を俺らが勉強になんか使うわけねえだろ?」
「馬鹿は貴様だみょうじーーー!!!」(ビィィン)
「南無…!!」
「なっ…座禅で受けただと…!?」

「っっっぎゃあああやっぱ無理ぃぃぃ!!!!」
「「バカめがーーーー!!!」」

怒号と共に放たれた紫の光線を俺は慎みの気持ちを持って胡座に合掌で受け止めた…!!
だって学年(同率)一位の光線ならご利益あるかと思ったから…!!

「痛いいい!!!」
「バッバカ!無茶しやがって!!」
「アホか貴様は!!」

ゴロンゴロン床を転げ回る俺に甘寧は氷水を俺にかけ、司馬懿はタオルでバシバシ俺を攻撃する
まさかそれ手当のつもり?


「………………し、仕方あるまい……」
「「え」」
「い、一教科だけだ!
一教科だけならその…面倒を見てやらんことも、ない」
「し…

司馬懿〜!!!」
「や、やめろ!離れんか!」

不意打ちのデレに俺は感動して司馬懿の紙切れのように薄っぺらい体に飛びハグした
お前結局友達想いかこのやろう!このこの!

「司馬懿先生さまさまだぜ!!」
「お前やっぱいいやつだぜ!
よくいうもんな、顔色悪いヤツほど心の中はあったけえって…!」
「甘寧貴様はでてゆけ」
「えっ」



「だからここはこの関数の公式を代入してだな…」
「カンスー ノ孔子…キ…?」
「(唖然)」
「なーなー司馬懿!じゅうりょくかそく
「ちょ…ちょっと待…」
「あっわかったコウシキってあれだろ!俺教科書あるよ!」
「バカなまえそれ一年の時のだろ?」
「違うもん!【高校一二年 幾何】って書いてあんじゃん!」
「…」

一生懸命議論を交わす俺たちを司馬懿はいつもより蒼白な顔色で焦点のあっていない目のまま見つめている
そしてケータイを持ったまま何処かへフラフラ歩いて行ったかとおもうとしばらくして口元をニッ…と歪めて戻ってきた

その青白い笑みはさすがの俺たちも凍りつく異界の住人を思わせる空気を醸し出している…

「し…司馬懿…?」
「ククク…馬鹿め…強力なカボチャを呼んでやったわ…!!」
「え…?」
「強力な…カボチャ…?
…あっ!もしかして…!!」
「もしかして、何です?」
「うわっ諸葛亮!!」
「来るの早っ!!」

後ろから聞こえた声に俺が驚いて振り返るとそこにはいつもの穏やか(
そうに見える)笑みを浮かべた諸葛亮が立っていた
い、いつのまに…

「全く…せっかく手助けに来たというのにカボチャだの腹黒だのと…」
「いや、そこまで言ってな…
つーか心読んだ?」
「手助けって、諸葛亮も勉強見てくれんのかよ!」
「ええ、いいでしょう。どうやら司馬懿ひとりでは荷が重いようですから」
「何とでも言え…2対1はごめんだ…」
「(やべー司馬懿唇震えてるよ)」コソコソ
「(おいなまえちゃんと謝れよ)」
「(えっ俺?甘寧だろそこは)」
「(いややっぱさっきなまえが変な教科書だしてきたから)」
「(途中からお前が無遠慮に口はさんだからだって!)」
「(帰っていいですか?)」
「「(ダメーーーー!!!)」」
「まともにしゃべらんか馬鹿めがーーー!!!!」




「と、いうわけで」

黒焦げになった俺と甘寧は、机に向かってきちんと座り、その横にそれぞれ諸葛亮と司馬懿がついた

司馬懿はさっきの続きで甘寧に物理を、諸葛亮は俺に数学をそれぞれ教えるフォーメーションである

「孔明せんせーよろしくお願いしまーす」
「こちえらこそ、お手柔らかに」

にこり、とやはり柔和(に見える)な笑みを俺に向ける諸葛亮
珍しく眼鏡をかけているがそのイケメン度は下がるばかりかうなぎ上りである

バキッと何かが折れる音をかき消すように諸葛亮が教科書を開いてレクチャーを始めた

「それでは、時間もないことですし大本命の単元から始めましょう」
「はーい」
「では教科書56ページ、問題集133ページを」
「おおー先生みてー!」
「ええ、“孔明先生”ですからーーー」

そうさ、その端正な微笑みは、地獄の始まりを物語るサタンの微笑みだったんだ…

「ーーー愛の鞭、と思って、頑張ってくださいね」
「(詰んだ)」




「ここでこの力がこの方向にかかり…」
「あっそんでこうか!あいででででで」
「なんでそうなる馬鹿めが!!問題文をよく読め!!」
「問題文?あーぁなるほどな!つまりこうなったらこうか!」
「そうだ。貴様はもっとよく考えてから物を言うんだな」
「あいででですげーよ司馬懿俺☆マーク二つの問題解けたぜ!あいででででいてーよ司馬懿」

甘寧と司馬懿のペアは意外にもちゃんと進んでいるようで、甘寧の実害(司馬懿のつねる攻撃)を除いては勉強会としては好調のようだ

問題はこっちのイケメンサタン眼鏡である

「さ…なまえ、もうわかりますね…?」
「う、うん!えー…っと…」
「…」
「…ん、とね…」
「…」
「…あの…ん、なる、ほど…」
「…」
「…(死にたい)」

これならまだ仲達先生のがよかったよー!!!
なんなんだよ!勉強見てくれるんじゃなかったのかよ!!
なんでこんなマインドアタックしてくんだよー!!!

俺がついに口をぎゅっと閉じてじわあとゆがんだ視界のまま司馬懿をみるとヤツは「うっ…」というなんとも複雑な表情で見返す
ちげーよ、助けろって言ってんだよ!
お前まで困った顔してんじゃねーよ!!

そのとき、フフッと息で笑う音がして顔をあげると、諸葛亮がまたあの笑みのままで俺からシャーペンをスッととり、問題文の“変数xは自然数とする”に線を引いてから、その下に小さく“0<X≦a”と書いた
そしてその式にCとつけて、「そして、連立…」と小さくつぶやきながら俺の式につけくわえた

「あ…!」
「慣れないうちは問題文にいちいち書き込みをすることをお勧めします」
「そっか、わかった!ありがとー!」
「ええ、“孔明先生”ですから」

よほど気に入ったのか、まるで“天才ですから”と繰り返すようにそのフレーズをちょいちょい持ち出す諸葛亮からシャーペンを受け取って見慣れた式を続けて行く
ようやく数式にも慣れて来たぜ…!(※高2)

「できた!どうすか!?」
「ええ、合ってますよ。式も間違っていません。
さ、今のを忘れないうちに同じ展開の問題を数こなしましょう」
「はーい!せんせー!」

またバキッという音を華麗にスルーして諸葛亮は問題番号に丸をつけていく
そのとき俺はいいことを思いついて、今解き終わったページを諸葛亮の方へずいっと差し出した
そのノートを不思議そうに見つめてから俺の方を見る珍しく不思議そうな顔の諸葛亮に俺は超満面の笑みでリクエストした

「なあせんせー花丸して!!」
「《バキッ》はあァ!?」
「うわっお前に言ってねーよ!
つーか今日鉛筆折り過ぎじゃね?
お前は甘寧に花丸してあげろよ」
「う、うるさいわ!」
「俺別にいらねーよ」
「くっ…貴様も黙って早く解け馬鹿めが!」
「フフ、私はもちろんいいですよ」
「やりー!」

細めのペンケースから赤ペンを出して来てささっと丸を重ねて花びらをつけてもらった俺は小学生よろしく満足げに花丸を眺めた
初めて数学でこんなに満足した!

「…司馬懿、ほら。俺のに花丸書かせてやっから」
「いらんわ馬鹿めが!!!」
「そんな意地を張らずに書かせてもらったらどうです?」
「黙らんかこの白カボチャ!」
「失礼な。孔明先生と呼んでください」
「くっ…く、うぅ…!」

暴れる司馬懿の拳を受けながら微動だにしない甘寧と余裕な表情の諸葛亮を見ていると、俺の腹が夕飯時を知らせた

「なー腹減った!休憩しよーぜ」
「賛成!!」
「そうですね、もう日も暮れたことですし」
「フン」
「まあまあ拗ねんなよ司馬懿!夕飯はお前の好きなコンスターチだぜ」
「いつ好きだと言った」
「なあなあなんか取らねえ?今日日曜だから食堂やってねえし」
「おっいいねえ〜!俺チラシ持ってくる!」
「私はピザはごめんだぞ」
「私ももう少しさっぱりしたものがいいです」
「あったあった、え〜っとピザ、寿司、タコス…あっモスの宅配もあるぜ!」
「あーなんかフツーの弁当もうまそー!」
「おみおつけまでつくんですか、すごいですね」
「和食はないのか」
「あーごめんな、コンスターチは無いんだわ」
「だからいつ好きだと言った!!」

床に広げた宅配のチラシをみんなで覗き込んであーでもないこーでもないと喚く
正直腹減りには全部美味そうなので多数決をとった結果、そばうどん屋さんで頼むことにした
ジジイか!って思ったけど美味そうな写真に一発討死だったぜ…

「俺オクラととろろたっぷり根菜そばー!」
「じゃ俺なめこ力うどん卵盛りの握り飯セット!!」
「じゃあ私は山菜鰹だしそばを」
「私はこ「ンスターチ?」うるさいわ馬鹿めがーーーー!!!!」
「ぎゃああああみんな決まったかなー!!?」
「おーよ!」
「おーいてえ…じゃ俺飲み物買ってくるから甘寧電話しといてー!」
「任せろ!」
「私も行きますよなまえ」
「みょうじ、私も「サンキュー諸葛亮!そこのコンビニでいいよな」
「ええ」
「じゃっよろしくー」

《バタン》

「…うっ…ぐ…」
「はい、はい、208号室で。じゃったのんまーす」





外は夏で日が長いといえどもうすでに暗く、室内にこもりっきりだった体を伸ばすとばきばきと変な音がなる
あーあくびやらなにやらとまんねー
我ながら結構長い時間やってたな、偉いぞ俺

「っあー疲れた!もう身体中ガッタガタだぜ」
「いつも暴れまわっている人の言うセリフではありませんね」
「勉強は当然別」
「勿体無いですね、やってみれば楽しいものですよ」
「えええ〜!!」
「でも自分の力で解いた問題は楽しかったんじゃないですか?」
「ん…まあ…」

頬をかきながら曖昧に頷く
まあ確かにわかって解けてくのは楽しいけどまあどっちにしろやろうとは思わないよねははは
まあ付き合ってくれた諸葛亮の手前言わないけど

「そういえば、なんでこんなのに付き合ってくれたの?」
「?どういう意味ですか?」
「だってお前ただ働きするようなヤツじゃないじゃん」
「よくわかってますね」
「その怖い笑みやめてください」
「そうですね…夏休み、なまえが補習に縛られるのは困るから、ですかね」


俺を見下ろしてニコリと笑う諸葛亮


なんだ、今日はなんでみんなこんなデレ期なんだ!?
まあまあ俺は気分よくなってそうだろそうだろと諸葛亮を肘で小突いた

「だから、こうして私も協力して勉強したのに補習、では困るんですよ」
…ま、まあ…うん…」
「さ、そうとなったら早く用事を済ませて帰りましょう
ヤマはまだひとつ残っていますからね」
「ええええまだやんの俺これ以上詰め込んだら最初のでて来ちゃう」
「構いませんよ、最悪テスト開始まではまだ11時間ありますから」
「鬼ーーー!!!」
「“孔明先生”と呼んでください」


その後、鬼孔明のお勉強地獄は日付が変わるまで続きましたとさ。。。









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