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HappyHelloWork!!
※かっこいいカイジはいません!




「なまえーっ!!」
「わ、わわわ、なあにカイジくん!!!」
「なまえーーーっっ!!!」

いきなりバニッ!とドアを開けて身を乗り出し、
なまえの名前を叫びながら仁王立ちするカイジにビビるなまえは洋服に袖だけ通したところで素肌のままの肩越しに振り返り目を見開いたまま固まっている

と、カイジは慌てて眼を腕で覆うと「わ、悪い!」と叫び思い切り身を引いてガニッ!と廊下の壁にぶつかりながらリビングへ逃げていった

ラブコメキター!




HappyHelloWork!!






「み、見てないから!ほんと・・・」
「あ、うん、いいの、あ、いやよくはないけどでもあの、カイジくん、彼氏だし・・・」
「あ、そっか・・・いや・・・あー、うん・・・(かあああ)」
「う、うん・・・あはは(かあああ)」
「・・・(かああ)」
「・・・(かああ)」
「・・・(かああ)」
「・・・あ、そ、それでカイジくんは私に何か用事?」
「あ・・・そう・・・!そうだったっ・・・!」

ぽーっと赤くなったままだったカイジはまたガタッと身を乗り出した
なまえはまたびっくりしてカイジを見る
また何か深刻な宣告を受けるのかと思いきや、カイジはどこかきらきらした眼をなまえに向けている
なまえは気になってん?と促すとカイジはバッとなまえの手を握った

「わ、カイジくん」
「バイト、受かったっ・・・!」
「え?」
「だから、前言ってた、一番条件のいいとこっ・・・!」
「・・・え・・・!」
「うぅっ・・・受かっちまったっ・・・!」
「え、あ、あれ、喜んでるの?悲しいの?」

なまえの手をぎゅうと握ったままボロ・・・ボロ・・・となんだかやり始めるカイジに
なまえは困惑気味にカイジの顔をのぞき込む
候補としてピックアップしていた求人のうち、一番条件がそろっている企業に引っかかったのは喜ぶべき幸運なのだが、いかんせん働きたくないカイジとしては確実に自分の労働が決定してしまい、その労働自体に加え生活サイクルや人間関係などなど精神面への過剰な負担に、始める前から辟易しているというわけである
なんとなく予想がついたなまえはなかなか顔を上げないカイジの背中をぽんぽんとさすってやる
するとカイジは情けない顔を上げてなまえをじっと見る

「ん?なあに?」
「・・・なまえ・・・給料入ったら、お前の好きなイタ飯食いにいこうな・・・!」
「え・・・ほんと!?」
「俺がおごるからっ・・・!」
「嬉しい!」
「すいぱらにも、行こうなっ・・・!」
「カイジくんっ・・・!」
「うぅ・・・なまえっ・・・!」
「よぉ、カイジ!!!!」
「「うわああああ!!!」」

ひしっと抱き合うなまえとカイジの後ろから突然大声がかけられた
慌てて振り返ればそこには口角のひんまがった端正な笑み

「い・・・一条・・・!」
「ふーん、見せつけてくれるね、彼女?」
「お、お前には関係ないだろ!」
「あ・・・みょうじなまえと申します、カイジくんがいつもお世話になってます」
「いえ、こちらこそ」
「なまえー!!」

カイジが敵意むき出しの相手にもきちんと挨拶してしまうなまえ
悔しげに床をたたきジタ・・・ジタ・・・するカイジをよそに、一条はニコッと悪気0の笑顔で会釈する
ちなみに不法侵入であることにカイジとなまえは気づかない

「初めまして、一条といいます。カジノの支配人をしてます」
「あら、お若いのに店長さんだなんて、すごいんですね!」
「いえ、そんな」
「ダメ・・・!なまえ・・・ダメっ・・・!」
「カイジくん?ほらほら、一条さんをソファにおもてなしして?
あ、今紅茶でも淹れてきますね」
「どうぞお気遣いなく」
「出ていけっ・・・!」
「ちょっとカイジくん?どうぞゆっくりしていってくださいね」
「仲良くするなっ・・・!なまえはダメっ・・・!」
「はあ?知らないな。なんであんなまともな子がお前の彼女かねー」
「ぐっ・・・ぐぐぐ・・・!」
「お前がなんか弱み握ってるとしか考えられないな!クク」
「ぐおっ…ぐおお…!」
「あああ、またジタジタして、どうしたの?ほら、カイジくんも座って
どうぞ、ミルクはこれを」
「すみません、いただきます」
「(何がすみませんだっ・・・!)それより、お前何しにきたんだ!何でうちの住所まで・・・!」
「あーそうそう、ほれ、内定オメデトウ」
「へ・・・」

味わっていた紅茶を一度ソーサーに戻し、いつもの淡泊な表情で一条が取り出したのは小さな花束
訳が分からない上に薄気味悪く、怪訝さを隠そうともしないカイジの表情とは裏腹になまえは感激して目を輝かせている

「わあ・・・!素敵な花束!一条さんもカイジくんのこと応援してくれてるんですね!いいお友達ねカイジくん!」
「(違う!友達じゃないっ!)なんで帝愛なんて人類で一番花が似合わない奴らに限っていちいち花束贈ってくるのかね・・・」
「あー?オレには似合うだろ?あ、でもカイジには似合わなかったな、悪い悪い」
「なっ・・・ぐ・・・ぐ・・・!!」
「ふふふ!私これ花瓶に生けてくるね!」
「ああっ、なまえっ・・・!」
「あ、なまえさん」
「?はあい」
「これ、切り花を長く保たせる薬なんだそうです。使ってください」
「あら、助かります!ありがとうございます」
「いいえ
・・・その花束、あなたに贈るべきだったかな・・・」
「え?今なんて?」
「ああ、いえ、お気になさらず」
「なまえー!!!!」

なまえに泣いてすがりつくカイジになまえは訳が分からず花束片手に困り果てる
一条はそれを見て楽しそうに爆笑している
なんとも滑稽な状況にツッコめるものはいなかった

「てめえ!一条!お前ほんとに何しにきやがったっ!!」
「だから言ってるだろ、内定祝いと、まあ様子見に」
「お前が人の慶事を祝う訳ないだろ!気持ち悪いっ・・・!」
「ひどい言い種。でもま、なまえさんに会えたし、無意味ではなかったな!ククク!!」
「やめろおっ・・・!なまえだけはっ・・・!うっ・・・ぐ・・・!」
「・・・オレお前の友達じゃないけどお前ほんとにすぐ泣くのやめろよ・・・」
「だっ、だいたい、なんでオレの内定をお前が知ってんだよっ・・・!気持ち悪いんだよっ・・・バカ・・・帝愛っ・・・!」
「なんでって・・・お前求職先のこともっとよく調べろよな
お前が内定決まった企業の親会社、帝愛だぜ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は・・・・・・・・・?」


カイジの時間が止まった

「おかしいと思った、お前が帝愛にアルバイトなんざ・・・
何か企んでんのかと思ったがね。それ以前のアホだったわけか」
「お前・・・・・・・・・それ、マジ・・・・・・?」
「そうでもなきゃオレがわざわざ様子見になんかくるかよ」
「えっ・・・・・・ええっ・・・!!そんなっ・・・!!!ぐにゃあ〜っ」

ふらあ・・・と床に崩れ落ち、ジタ・・・ジタ・・・と力なく現実に抵抗するカイジを見下し一条はまたもやクククと笑う
が、リビングの戸が開くとその悪い笑みはすぐ引っ込んだ

「ふふ、花瓶いっぱいのお花、きれい!
私この薔薇みたいなお花すごく好き!」
「ああ、それはトルコキキョウですよ」
「へえー!一条さんて博識なんですね!
・・・ってカイジくんどうしたの?またジタジタしてるの?」
「う・・・ぐ・・・なまえ・・・」
「いえ・・・なまえさん、実はカイジくんの内て「な、何でもないんだなまえ!ジタジタなんかしてないっ!」
「え、でも・・・」
「違うっ!なにもない!オレは落ち込んでなんかいないっ・・・!」
「うん、そっかそっか、よしよし」
「うぅっ・・・なまえっ・・・オレはどうしたら・・・!」
「よしよし・・・」
「(こいつダメだ・・・)」

嘲笑や同情を通り越してあきれ果てた一条はなにやら捨て犬とその拾い主のようなカイジとなまえをぽかんと見ていた



「じゃ、名残惜しいがそろそろ俺は」
「あ、お帰りですか?」
「帰れっ…!」
「カイジくん!
今日はありがとうございました!
何もお構いできなくてすみません」
「いえ、とんでもない
…そうだ、今度食事でもどうです?」
「え?」
「はあ!?」
「…ハハ、もちろんカイジくんも一緒に。
格別なスイーツを出してくれるイタリア料理の店があるんですが…」
「!!!」
「(なまえの目の色がっ…!)」
「汐留の有名店で、予約がなかなか取れないんですが…オレならいつでもとれますよ」
「っ…」

にこやかな一条と完璧になにかのスイッチが入ったなまえを交互にみて大量の汗をかくカイジ
こいつ…聞いていやがった…!と歯を食い縛るも時既に遅し
カイジはちろ…となまえを盗み見た
やめろっ…やめてくれえ〜っ…!!

「あれ、もしかしてイタリア料理はお好きじゃなかったかな」
「いえ…いえ、大好きです!」
「(がああ〜ん…!)」
「じゃあ…」
「でも、あの、せっかくですけど…」
「「え…?」」

勝利を確信した一条と気絶寸前のカイジが同時に呆気にとられた
なまえはカイジの方を見てちょっと笑った

「イタリア料理…カイジくんと就職祝いに食べに行く約束だから…ね」
「あ、ああ…」
「っ…なるほど」
「スイーツも、ね」
「ああっもちろん!」

少し照れたようにはにかむなまえに急にぱあっと明るくなるカイジ
一条はカイジをじろっと睨みつつ口元はどうにか笑みを繕いながらふーん、と平静を装った

「そうですか、残念だ」
「ごめんなさい、せっかくの素敵なお誘いだったのに…」
「帰れっ…!帝愛!」
「カイジくん!」
「いえ…まあ、気が変わったら連絡ください、いつでもご案内しますよ…お一人でも」

そうにこやかなままなまえに告げてから少しカイジに顔を近づけた


「ちゃんと連れて行ってやるんだな
ま、初給料まで続けば、の話だがな…!」
「!!!!」



そうだった、
オレの内定先、帝愛だった…



「ではお邪魔しました」
「またいらしてくださいね!」
「…帰れ…」
「あれ、カイジくんどうしたの?元気ない?」
「…なんでもない…」
「そう?」
「ううっ…なまえーっ…」
「よしよし」



それからカイジはなまえに内緒で就職活動を再開した








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