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アイアイガサのおはなし










「ねえねえ今度一条の家で犬飼おうよー」
「オレ犬アレルギーだからダメ」
「あれ、お前猫アレルギーじゃなかったっけ」
「今犬アレルギーも併発した」
「じゃあ俺ゴールデンレトリーバー!」
「一人一頭!?」


つーかじゃあって何!?人の話聞け!とツッコミを入れる一条
どこにでもある、平和な放課後の一コマである
職員室から階段を降りて職員玄関についた時、一条があ、と声をあげた


「ん?」
「雨」
「あ」
「そういえば昼頃からぐずついてたもんなー…」
「何時の間にか結構降ってたんだー知らなかった
つーか俺傘ねーよ!どしよ!」
「ところがどっこい!オレは持ってる」
「くーっ腹立つー!」


ニヤニヤと鞄から折り畳み傘を勿体ぶってちらつかせる一条になまえは怒りの膝カックンを食らわせると、(避けられた)
玄関横の傘が満杯に差してある傘立てに立ち向かい、手を突っ込んだ


「この中にっ…俺の傘がっ…3本はあるはず…!」
「どんだけ置いてんだよ。お前の家かよ」
「ちなみにそのうち二本は最後に見たのは半年前」
「使い捨てかよ」
「うりゃ!あったあ〜!見て見て一条あったよ!」
「うわっき た な っ ! ! ?」
「うおっなんか今の動きジョジョみたいでかっこよかったよ一条!」
「わくわくすんな!」


なまえが振りかざした勝利の傘を一条はとっさのシフト移動で避けた
そう、いつから置いてあるかわからぬこのなまえの傘には埃やら砂やらがついて青というより灰色になっていたのだ
辛うじて持ち手が本来の光沢をはなっているばかりだ


「最低だな、お前(の傘)」
「いや、ここは出てきてくれたことを褒め称えようぜ」
「うわ、こっち向けんな」
「(ガーン)」
「…ったく…ほら、かせよバカ」


顰めた顔のまま、一条は傘をさして雨に濡らすと、鞄からティッシュを出して汚れを拭き始めた


「えっいいよ!俺そのままさすよ」
「バカ。こういうのは雨に濡れるともっと汚いよごれになるんだよ
ほら、これで我慢しろ」
「わ…ありがとう」


一条から傘を受け取ると、なまえは笑顔でお礼を言ってメリー◯ピンズよろしく傘を持って浮かれた


「一条いいやつ〜!モテモテ〜!」
「なんか腹立つ。殴っていい?」
「えっ何でよ!」
「ああもうお前うろちょろすんな!泥が飛ぶだろ!」
「あっごめん、大丈夫?」
「バカ!むやみに屈むな!上着の裾が地面についてるぞ!」
「もーじゃあどうすりゃいいのさ!」
「なんで普通にできないかな」


ぐだぐだ言いながらも楽しそうに花壇の横を通り過ぎ、生徒用昇降口が見えてきた
その時、なまえが見知った影を見つけた


「あ!森田だ!おーい森「やめーい!!!」えっなにグハア!」


瞬間、一条の左フックが炸裂した
驚きと非難の表情でなまえが一条を見上げると、くい、と顎で森田の方をさした


「雨…止みそうにないねー」
「ああ…」

「……………!!!」
「(今行ったらお前確実に史上最低のKYとして5年の女子に処刑されるぞ)」
「(あ、危ねー…一条ありがとう…)」
「(ああ…あいつらの群れは仲間意識が半端じゃないからな…)」
「(百獣の王だな…)」
「(サバンナの覇者だ…)」
「(イワコデジマー!)」


生徒用昇降口で雨宿りしていたのは、森田と森田に絶賛片想い中の伊藤美緒だった
美緒は始終にこやかで、どことなく落ち着かないように後ろに組んだ手をもぞもぞ動かしている
美緒が話の途中、森田の方へ向いたときその後ろに隠した手が小さな折りたたみ傘を持っているのに二人は気付いた


「(そうか…!伊藤は「私も傘ないの!どっきどき二人きり雨宿り大作戦」か!!)」
「(多分そうだろうな…サバンナに策士あり、だな)」
「(イワコデジマー!!)」
「(それにしても森田そろそろ走って帰っちゃうんじゃないか?)」
「(あ、確かに…)」


二人の思案通り、森田は腕時計をちらと見てから外を見やり、
美緒は身を乗り出してなにか訴えている
そのとき、なまえは弾かれたように立ち上がった!



「無理よ!この雨じゃ、駅までなんてとても…!」
「ん…まあ、なんとかなるよ、上着を頭からかぶって行けば…」
「だってそれ、犯罪者みたい」
「…」


カツニ…
談笑する美緒の背後で硬いものが床に当たる音がして、二人は下駄箱の影を振り返った
そこには、青い傘が一本倒れていた


「あら…こんなところに傘が…」


身をかがめて傘に手を延ばした美緒の視界の端で、濡れた革靴がさっと影に逃げ込んだ


「…!」


美緒は嬉しくなって、ふふ、と笑みを零した


「どうした?」
「ううん、なんでもないの!
ねえ、この傘で一緒に帰っちゃわない?」
「え、でもそれ…誰か他のやつの…」
「平気よ!私この傘の持ち主知ってるから!ね?」
「え?でもじゃあ、それお前が使えよ。オレは走って…」
「いいからいいから!この傘大きいし。一緒に帰ろ?」



「お前ってほんとそういうの好きな」
「俺は生まれながらのキューピッドなんだよ俺の定めなの仲人は」


半ば強引に、それでも美緒は嬉しそうに一つの傘を2人で差して帰って行くのを後ろから見届けて、しみじみする成人男性二人組。


「あっそ。それはいいけどお前どうやって帰るんだよ」
「…一条お〜ん」
「なんかムカムカする。蹴っていい?」
「ダメ!!」


そうは言いつつも黙って小さな傘を少しなまえの方へ傾ける一条
なまえは嬉しそうに笑って一条にひっついた


「ありがとう一条!」
「ひっつくな。鬱陶しい」
「しょうがないよ傘ちっちゃいんだもん」
「じゃあみょうじが濡れればいいだろ」
「ひど!鬼!雨男!」
「なんとでもいえ。あー寒い」
「ほんとだね…しかもあいつら見てると心まで寒いぜ…
だからこんな日は!!」
「こんな日は?」
「一条んちでホットココアを飲もう!」
「やだ」
「なんで」
「お前ココアに生クリームやらココアなのにココアパウダーやらチョコチップやらアラザンやら混入するから」
「混入じゃなくてトッピングね?」
「まあみょうじんちならいいけど」
「じゃ俺んちでホットココアを飲もう!」
「やだ」
「…」


じゃあどうしたらいいの?と困り気味に聞くなまえに一条は満足気に笑って、なまえの髪についた雨を拭いてやった

学生二人に負けないくらい楽しげな相合傘の二人は、コンビニで生ホイップを買って帰ったとさ



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