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前略、職員室より3











「青鬼は死んだ…死んだんや…
ただただおどれの友の…赤鬼のために…っ!」
「うええん、どうして?どうして死んじゃうの?」
「青鬼も仲良くするんじゃだめなの?」
「えーん、悲しいよう、そがせんせい〜」
「青鬼は大事な友達の願いを叶えたったんや…」


ここは付属幼稚園のおゆうぎべや。
そして絵本を持って園児に囲まれているのは他でもない2−A担任の僧我三威である
僧我が読んでやった絵本、『泣いた赤鬼』が終わると、それまで誰一人口をきかず真剣なまなざしで話を聞いていた園児たちはくちぐちに素直な感想を漏らし始める
そんな園児たちの傍らで嗚咽を漏らす成人男性が一人


「うおおおっ…!青鬼っ…!」
「ちょっと。なまえはん」
「俺はっ…俺はっ…!!」
「しっかりせんかいなまえ先生」
「僧我先生…何故…何故青鬼はっ…!!」
「幼稚園児かおどれは」


ぐっ…!と男泣きするなまえを僧我がポコンと絵本で叩く
今日は週に一度ある幼稚園ボランティアの日で、なまえと僧我の2人と
生徒が6人派遣されたのだ
土曜日、授業が終わってから昼食の準備を手伝い、午後の自由な時間遊びに付き合った後、
おゆうぎべやでみんなで遊び、片づけを手伝い一日が終わる
なまえと僧我が一番広いおゆうぎべやに園児を集めて読み聞かせをしている間に
各教室の清掃を6人の生徒が手伝うという段取りである
年少さん相手ため、年中さんや年長さん相手の日よりもなかなかにまとまりもなく教師は心の中ではずれくじに泣きを見ることが多いが、
僧我にはそんなことは関係ないのだ
一度絵本を開いてしまえばもうこっちのもの
後は教室清掃の生徒たちのためにどれだけ時間を稼ぐかである
そう、幼稚園ボランティアとはいうなれば団体戦…っ!
と僧我は語る


「はーい、僧我先生ありがとうございました〜!」
『ありがとーございましたあ』
「はいはい、どういたしまして」
「ありがとうございましたっ…!」
「だからあんさん何しに来はったん?」
「俺この本初めて読んだ(聞いた)んですけどいい話ですね」
「小さい頃読まんかったんかいな。時代やな〜」
「『オレのこの手に合う手袋を…っ!』ってやつなら読んだことありますよ」
「きつねさんそんな切羽詰まっとらんて」
「せんせー、掃除終わりましたあ」
「おお、ご苦労さんやったな」
「お疲れ!」
「お疲れ様です…」
「平山顔が青白い」


一気に騒がしくなったおゆうぎべやへ生徒が帰ってきて僧我となまえはねぎらいの声をかける
なかでも疲労の激しい平山となまえのところへそのとき一人の園児が駆け寄って行った


「おにいちゃん!これ!これやって!」
「え、な、なに?」
「これ〜!」
「ペーパークラフト…?」


その女の子が一生懸命なまえに訴えて伸ばしている手には何枚かの型紙
いわゆる、ペーパークラフトというやつである
紙に書かれた柄から察するに何かのキャラクターを作りたいようである
平山が手をつかまれてつんのめりながら作業台に連行されるのを見てなまえと僧我はその後ろに陣取り様子を温かく見守る


「あのね、みかね、これつくりたいの!」
「これ…なに…?」
「平山!スマイルスマイル!」
「アカギに話してるんとちゃうんやから!」

「えっと…みかちゃん、これなにかな?」
「「気持ち悪っ!!」」
「うるせえ!!」

「これね、みかの好きなシナモンだよ!」
「しなもん…?美味いのか?」
「キャラクターだっつってんだろ!」
「美味いのかて…それはないやろ…」

「あっいや…じゃあ、強いのか?な?」
「戦わんわアホッタレ!見るからにファンシーやろが!!」
「いっとくけど麻雀もしねーからな。間違って女流?とか聞くなよ」
「聞かねーよ!!」

「あのね、シナモンはね、おとこのこなの!」
「ふーん、オスなんだ」
「“おとこのこ”だっつってんだろって!!」
「だめやこいつ…」

「あのね、カフェにいるわんちゃんなのよ」
「あっこれ犬?犬だったんだ!あー、このぐにゃってなってるのが口な」
「じゃあ、お兄ちゃんはこれをー、この線ね、きってください!」
「はいよ」


平山はみかちゃんに渡された紙をおとなしく受け取り、ハサミを持ってきてみかちゃんと並んで切り始めた
その様子をなまえと僧我は微笑ましく見守っていた
が、平山が大きめに切った紙からいざシナモンの型を切り出そうとしたとき、
ついに黙ってみていた僧我が前へ乗り出した


「「!!」」
「あかんで平山!よく見い!!」
「なな、なんですか僧我先生!!」
「どうしたのそがせんせー」
「平山…おどれ今この線切ろうとしとったやろ」
「え…だって線を切るから…」
「阿呆!!ここきったらシナモンの耳が切れてまうやろが!!」
「ちょっ僧我先生!大声出すには単語が恥ずかしすぎます!!」
「くっ…シナモン一匹ごときにてこずるとは…!」
「え?違うよおにいちゃん、シナモンのお友達も作るんだよ」
「え…?」
「……ねーみかちゃん、シナモンのお友達ってどれくらいいるの?」
「んーとね、カプチーノでしょ、ココでしょ、ナッツでしょ、」
「「「………」」」
「モカでしょ、シフォンでしょ、エスプレッソでしょ、あとミルク!」
「「「………」」」
「アズキちゃんはつくってあげないのー?」
「え…?」
「ねーみかちゃんなにつくってるのー?」
「あーシナモンだー!」
「いいないいな、わたしもシナモンほしーい!」
「わたしモカちゃんがほしい!」


ざわ・・・ 
  ざわ・・・

平山が振り返るとそこには女の子がわらわらと集まってなにやらきゃいきゃいとはしゃいでいる
当事者でなかったらどれだけ可愛らしいことか
園児の恐ろしさに恐れおののき、だんだんと血の気を失っていく男三人
一人ひとりの戦力は小さくとも数で攻められるとこれほど攻撃的な陣形は無い
そして園児もそれを知っているかのように何か要求を通さねばならぬ局面になると俊敏に群れをなす
そう、幼稚園ボランティアとはいうなれば団体戦…っ!

結局僧我の指導の下、年端もいかぬおなごと並んでシナモフレンズを作る男三人
ようやくキャストが必要な数出揃ってきて、女の子達もなまえ達の周りから離れて紙製のシナモンで遊び始めた


「俺こういうの苦手なんだよ。あ、シナモンの顔にのりついちった。まいっか」
「先生それシナモンじゃなくてエスプレッソ」
「知らん」
「じゃがなまえはん最初よりだいぶまともに作れとるな」
「ほんとっすか?ていうか僧我先生うまっ!?しかも早っ!?」
「ふふん、どんなもんよ。ほれ、みかちゃん、みかちゃんのシナモンや」
「うわああ、ありがとうそがせんせい!」
「ええんよ。ほな、カプチーノもつくったるかいな」
「ほんとう!?つくってつくって!」
「よっしゃ、ちょお待ってな」
「うん!」

「…」
「先生口開いてる」
「へ、あ嘘…いや僧我先生子供の扱い上手いなーと思って」
「そうすね。オレはごめんだな」
「だろうな。子供も平山はごめんだってさ」
「…」
「ほれ、なまえはん余所見しとってええんか?またのりはみだしとるで」
「え?あああ〜っもー平山のばかあ」
「え…!オレ!?」
「あーあー、シャツについとるがな…ええか、こういう糊はな、あて布をしてアイロンであっためると綺麗にとれるんや」
「ほんとですか?うう、俺にできるだろうか…」
「できんかったらわしのとこ持ってきい、な?」


ぽんぽん、とちょっと強めになまえをたたいて慰める僧我はさっきまでの僧我と変わらず良いおじいさん先生で、
平山にはなまえが園児に見えた








「あー疲れた!もうダメ!目肩腰の疲れに!」
「言わんで」
「そこは言ってくれたって…」
「みょうじ先生僧我先生より少なかったじゃないですか」
「だって僧我先生プロだもん」
「わいプロちゃうから」
「僧我先生はシナモン作りもプロでしたけど幼稚園ボランティア自体プロでしたね」
「あーそれ俺も思った!僧我先生幼稚園の先生とかあってますよ」
「それは言外に教師やめろ言うてんねんな?」
「俺やみょうじ先生なんかよりぜんぜん子供に好かれますしね」
「ちょ、なんかって言うな、俺も今日すげー頑張ったのに」
「そうやな、子供はコツさえつかめれば逆に扱いやすいわ」
「し、信じられん…」
「せやから、わしはなまえはんと相性ええんやな、きっと」
「え…」
「ああ、なるほど」
「えええちょっと待ってそれどういう意味」
「じゃあある意味みょうじ先生も幼稚園の先生あってますね」
「それは言外に教師やめろって言ってんのかゴルァア!!」
「さっき自分で言ったくせに…!!」










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