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有賀の悩み










「んあーきもちー!」
「良かったですね」
「うんうん!やっぱ空腹はよくないな!」
「全く、お腹いっぱいになった途端機嫌治っちゃって…」
「ごめんって!あー幸せ〜これで食後のデザートでもありゃな〜」

昼休み、なまえとひろゆきは屋上に来ていた
佐原は今日欠席(寝坊)、零は生徒会の集まりで
一人で購買にいたところなまえと会って、屋上ランチにしゃれこんだのだった
普段屋上は開放していないのだが、某アカギが鍵を壊して以来、最早出入り自由なのだった

「野外給食!」
「給食じゃないですけどね」
「うん!野外定食!あーあーいい昼下がり〜」

そういってなまえがゴロ…と後ろに倒れこむと
目に飛び込んだのはあろうことか視界いっぱいの有賀だった

「★§◎♂※◇!!??」
「クク…いいなーきもち良さそうで」
「ギャアアアァァ!!!出たアアァァァ」
「有賀さん…!?」
「こんにちはなまえ先生」
「なになになになんのつもり!!!???」

あまりの驚きに理解不能な叫びをあげるなまえ
ひろゆきも少なからず驚いて有賀を見る

なまえを上から覗き込む有賀はニタニタと笑っている
最早意味がわからずなまえの目は見開き顔は引きつって無意味に手足をばたつかせている
ひとしきりなまえの驚愕の表情を楽しむと有賀はひろゆきと反対側のなまえの横に腰を降ろした

「おま、驚くだろうが!普通に現れろよ普通に!!」
「ごめんね先生」
「(噂通りめっちゃ怖い)」

ひろゆきはぜーはーとまだ息の荒いなまえ越しに有賀をチラ見しながらまだバクバク言っている心臓に手を添えた

「あー驚いた!あーもーまじ心臓止まるかと思った!全く…おかげで素敵な昼下がりが血まみれだぜ」
「くくく、それ面白い」
「「全ッ然面白くない!」」
「あ、井川くんだ、こんにちは」
「だめだひろ!目を合わすと次の瞬間切り刻まれてるぞ!」
「えええええぇぇぇ」
「ひどいななまえ先生…それはひどいや」
「じゃあお前ポケットひっくり返してみ」
「…」

心外だ、という顔をしつつ素直にポケットを裏返す
そしてひろゆきをかばいつつ敵を警戒するようななまえと訳はわからないが
とてつもなく嫌な予感をひしひしと感じているひろゆきの前に転げ落ちたもの

コンパス
カッター
はさみ


「!!!!???」
「だからコンパスとか持ち歩くなって言ってんだろ!」
「だって先生、こうしてればいつでもどこでも円がかけるよ」
「数学の授業ですら円なんか書かねーくせに!!」
「(あ…あながち嘘じゃなかった…!)」

言い争う(というよりなまえが一方的に喚いている)2人をよそに、ひろゆきは口元を抑えてガタガタと驚愕している
こころなしか顔が青い

「そ、それより、有賀さんもよく屋上くるんですか?」
「ううん、なまえ先生とお話しようかなと思ったんだけど屋上にいるみたいだったから」
「え、なんでわかるの…(ゾッ)」
「え、えっとじゃあオレは邪魔ですし教室に…」
「ま、待ってひろ!一緒にぐーたんしようぜ!な!?おいふざけんなてめぇ一生のお願い!」
「何度目ですか!!」
「別に僕はいても構わないよ
…ククク」
「っっっ失礼しますッ!!!」
「待たんかー!!!」









「有賀は最近どうなの、ちゃんと勉強してる?」
「うーん、まあまあだよ、数学は相変わらずだけど」
「ちぇ〜このやろう」
「市川先生の古典がね、面白いよ」
「あ、オレも市川先生の古典好きです。寝てる人とかいないんですよ」
「ふーん、すげー」
「ククク、なまえ先生も見習ったら?」
「俺のクラスだって皆真面目ないい子だもん!…一部除き」
「…あれは最早数に入れなくていいと思いますよ」

ポンと哀れむような目でどこか影のあるなまえの肩を叩くひろゆき
何か触れてはいけない地雷を共有しているような2人の雰囲気に
有賀が首を傾げて遠慮することなくその地雷を掘り起こす

「あれって?だあれ?」
「問題児がね、いるんだ…」
「うちの学年のアカギって知ってます?なまえ先生のクラスなんですよ」
「ああ、あの有名な…ふふ、そうなんだ〜」
「あのピカロは俺を困らせて楽しんでやがるんだ…これなら有賀の方がマシだあ〜!あ、いや嘘かも」
「なにそれ、ひどいじゃない」
「や、やっぱ有賀は平井先生じゃないと!な!」
「オレもそれが一番だと思います」
「僕もそう思う…クク」
「は、はは…」

どこか寒気を感じる笑みを浮かべる有賀になまえとひろゆきは(それはどういう笑い!?)と思いつつ、
冷や汗を拭いながら目の笑っていない(むしろ死んでいる)乾いた笑いを返した

「で、でもちゃんとやってそうで良かったよ、なあ!」
「え!?いや、まあ(オレ有賀さんと初対面なんですけど)」
「なまえ先生もね、元気そうでよかった」
「有賀…」
「有賀さん…(可愛いところあるじゃないか)」
「まあ会わなくてもわかってたけどね…フフ」
「(うわああぁぁ)」
「(前言撤回ー!!!!!!)」

無邪気ながら邪気を放つ笑みから一変、有賀は少し眉を下げた

「でも僕さぁ…悩みがあるんだよね〜」
「ハハハ、嘘吐け〜」
「え!?そ、そんな一蹴しなくても…!」
「フフフ、あのねぇ〜僕のクラス怖い人達ばっかりなんだ」
「あ〜確かに」(有賀ガン見)
「…
確か…天さんがB組だから…うわ、A組って平井先生のクラスですよね!オレも怖いかも…」

A組と言えば板倉・原田・矢木を筆頭とした不良クラスとして有名で、
銀二以外メンタルや経験の面から言って担任をはれないであろうクラスである
ひろゆきが面識あるのは原田だけだが、実際のところ板倉に目立った攻撃性はなく、矢木も見掛け倒しなのである

「確かに見た目だけなら有り金だして土下座しちゃいそうなほど怖いけど、中身はいい奴等だよ?」
「でも実験の時も誰も組んでくれないよ」
「それは自分の命が惜しいからだぞ」
「(あのメンツに逆に恐れられてる…すごい…)」
「平井先生とも上手くいかないしさ〜…」
「えぇ?平井先生は中身若いし、そうそう合わないやついないよ」
「ですよね、平井先生ってなんか赤木先生に似てるけどすごく面倒見いいですもん、頭の回転も早いし」
「うん…僕も平井先生好き
でも先生と話してるといつの間にか取り押さえられちゃってて…」
「だからそれはお前が刃物持っていくからだろ?」
「(刃 物 !?)」
「市川先生も好きだけど僕が近付くと気配を察知して身構えるんだ…」
「お前が盲目の市川先生相手に完全に暴漢のような近付き方するから…
っていうかお前市川先生に無理させんなよ!?」
「…(ガタブル)」

ひろゆきの思い描いた草むらから獲物を伺う肉食獣の図はあながち間違いではない

「全く…もう教官室はお前から没収した危ない文房具でいっぱいだよ」
「え、前科ありなんですか!」
「前科だなんて…僕はただ学用品を携帯してただけなのに」
「お前が持つと学用品が凶器になるの!」
「(そんな学生ニュースでしか見たことない)」

再びひろゆきの背筋が凍る
なまえは有賀にツッコミをいれながらゴソゴソとポケットをあさる
ほい、と差し出されたものを受け取ると、透明な包装の琥珀色の飴玉だった

「ありがとうございます」
「ほい、有賀も」
「ありがとう先生」
「これもさあ、原田からもらったんだよね」
「え!?あの原田さんが!?」
「意外だろ!俺もアイツの鞄からこれがでてきたときびっくりした」
「くくく…素敵だね、僕もこの飴好きだよ」
「じゃあ原田と友達になれるよ、有賀」
「ん〜そうかな〜…」
「そうだよ、去年だって同じクラスだったじゃん」
「そういえばそうだね、なまえ先生のクラスだった」
「あいつ面倒見いいしさ。この間も俺が遅刻しそうになったときバイク飛ばしてくれたんだ」
「ふーん、そうなんだ」

カサカサと飴を包んでいた透明の紙をちまちまいじる有賀
ひろゆきは(友情を通り越して流血沙汰になるんじゃ…)と思ったが空気を読んで黙っていた

「ん〜…でもいいや」
「え?」
「ふふ…なまえ先生がね、時々お話してくれればいいよ」

綺麗に折られた、小指の爪ほどの透明な鶴をなまえに渡して言った

「有賀…(ニタァ〜ッがなきゃ可愛い生徒なのになあ)」
「(やばいやばい先生の命が危ない)」
「それでさ、いつか一条先生と行きつけの六本木のフランス料理のお店連れてってよ…くく」
「な、なぜそれを…(ゾッ)」
「あ、でもあれは一条先生の会員証が無いとだめだもんね…じゃあ竜崎先生や浦部先生と行ってる新橋の居酒屋でもいいよ」
「だからなぜそれを…!ていうか未成年は酒ダメ!!」
「しょうがないな〜…じゃあ井川くんと同じ方面で渡辺くんとご近所さんの先生の自宅でもいいよ、くくくくくくく」
「なぜ自宅まで!!おいひろ今日から戸締まりを…

…ひろ?…あれ…?ひろ?ひ…ちょ何処行きやがったー!!!」



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