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原田のバイクで走り出す!










「ぐはあああ!!遅刻遅刻遅刻遅刻遅刻はあはあはあ!!」

寝癖を放ったらかし、朝食を抜いてもまだまだ到底間に合わぬ大寝坊
大声を出す必要は無かれどもこれが出さずにはいられない
大分平常心を失いつつマンションの階段を駆け降りるなまえに、その心の内を知らぬゴミ出し中の奥様方は和やかな笑みを零す

しっかりと結ばれていないネクタイを抑えつつもうどれほど走ったろうか
そろそろなまえの身体が悲鳴をあげようというまさにそのとき側を一台のバイクが通る
なまえは考える間も無く大声を出した

「原田あああーーー!!!!!!」








「なまえさんあんまり夜更かしすんなよ」
「おっけおっけ!わかった、ありがとな!原田大好き!」
「はいはい俺もや」

校門で原田の方を振り返りつつ走りだすなまえ
急いでいるからか大声で挨拶を交わすなまえを周りの生徒は微笑ましく見ていた
バイクに腰掛けたまま玄関へ走り去るその背中を見送ってくく、と苦笑すると原田は駐輪場へ向かった



なまえは息を切らしながら階段を駈け登り、生徒の注目も気にせずガラッと職員室の扉を開けた

「すみませんっ遅れました!」
「知っている」

中では案の定険しい顔をした利根川教頭が書類片手になまえをギロリと見やる
その刺さるような視線を感じながら頭を下げてコソコソと席につくなまえ
まだ全体的にざわざわしているところからしてまだ会議は始まっていないらしい
なまえは、はあああ、と息をつきながら椅子に深く座り、だらしなく安堵の緩みきった顔をする
隣の竜崎が呼応するように呆れてため息をついた

「全く…なんだその格好、グシャグシャじゃねえか」
「ははは…もう前代未聞の大寝坊でして…」
「でも似合ってるぜその寝癖、アホっぽくて」
「な…うるせーよ一条!アホって言うな!ばか!」

ケラケラ笑う向かいの一条は勿論朝からスーツをきっちり着こなし髪もツヤツヤにセットされている
心なしかキラキラした効果が見えるのはなまえだけではない
ひとしきり一条に子供のような幼稚な軽口を言い返すと、なまえ、と呼ばれて後ろを振り返る
くい、と結べていないネクタイを引っ張られてつんのめるなまえ

「わ、銀さん」
「昨日夜更かしでもしたか?」
「や、えーっと…その…」
「ククク、今度から一条にモーニングコールかけてもらえ」
「うげーっやですよなんで朝から一条の声なんか」
「オレだってごめんだぜ、別にみょうじが遅刻して怒られても愉快だし」
「こ、この悪魔〜」
「ハハハ!ほら、できたぞ」
「えへへ、ありがとうございますっ」

きちんと結び直されたネクタイをとん、と小突いて銀二が皺を作って笑う
苦虫を噛み潰すような顔で舌を出していたなまえは一転、にこにこ笑ってお礼を言った

「それにしてもよく間に合ったな」
「あはは、途中から先生のクラスの原田のバイクに乗せてもらったんです」
「原田に?」
「はい、『ええわ、乗れ!』とか言って。お前はイケメンかって笑」
「お前ダサッ!どう見ても原田の方が年上じゃないか」
「うるさいの!」
「ったくお前は不良にまで助けられて…」
「ふ、不良じゃないですよ!現にこうして人助けを…」
「じゃあワル」
「古っ!竜崎さん古っ!」
「お、おいみょうじ!」
「あ、いや、その…」
「ハハハ!」
「静かに。朝の職員会議を始める」










一際大柄な背中を見つけてなまえは駆け寄った

「原田ー!」
「うお、なまえさん」
「お、みょうじさん」
「あ、ちわーす」

どん、と後ろから体当たりすると近くの2人もなまえに笑いかけた

「おお!ようよう矢木に板倉あ〜!元気か!」
「みょうじさんは元気そうっすね」
「何そのつれない返事…板倉かわいくない…
ていうかお前ら3人で歩いてるといかつい!怖くて話かけらんねえよ」
「そこをどついてきたのは誰やったかな」
「むぐ…」
「ハハハ!それよりなんスかその寝癖!」
「えっまだついてる!?さっき直したのに〜」
「朝エラい急いでたみたいだからな」
「あっそうそう!原田朝はありがとな!お前のおかげで会議に間に合ったし利根川先生にも怒られなかったよ!」
「そら良かったな」


朝ねー原田のバイクに乗せてもらったんだーと説明すると2人は爆笑した

「彼女か、て!」
「そういうみょうじさんのダサいとこ、オレ好きだな」
「板倉ってほんと遠慮無いよな…」
「みょうじさんバイク持ってないんスか?」
「持ってねーよ、怖えーもんバイク」
「後ろ乗ってる時もそりゃあわーわーぴーぴー大変な騒ぎだったもんな」
「怖えーもん!」

ハハハ!とまたコーヒー缶を片手に笑う3人
朝原田がバイクを走らせているとき、なまえは絶叫マシンよろしく何か叫んでいた
風の音で原田には聞こえなかったがきっと聞こえても意味不明な叫びだっただろう
その様子が簡単に想像できて2人はなおも吹き出す

「お前らバイク持ってないの?」
「オレは一応持ってるけど」
「オレは持ってないっス」
「だよね、矢木にはチャリンコが似合うよ」
「なんスかそれ…フツーに電車っスよ…」
「なまえさんにはスクーターがいいんじゃないか」
「ぶふっダッサ!!」
「板倉!笑うな!!」

ダッサ!ダサさ加減絶妙!似合う!と連呼して笑う板倉から缶コーヒーをひったくって飲むなまえ
矢木がチャリンコとどっこいどっこいっスよ、と言えば缶を揺らしてコーヒーが
苦かったのか、舌を出してしかめっ面をしながら表現が古い、と返す
ずーん、と落ち込む矢木を余所になまえが思い付いたようにあ!と声をあげた

「あん?」
「あん?て…板倉まじ人をなめすぎだろ…」
「どしたなまえさん」
「あのさ、海行こうぜ海!」
「は?何しに?」
「原田のバイクに乗りに!」
「別にいつでも乗せたるけど」
「いやだ〜!海がいいんだい!海辺をバイクで走りたいんだい!」
「発想がダサい」
「おま…泣くぞ」
「オレバイク持ってないし」
「矢木は板倉の後ろ」
「却下」
「(矢木に電流走る―――!!)」
「じゃあ山!」
「そういう問題じゃ…」
「じゃあ埠頭」
「ヤンキーか!!」
「なんだよもうじゃあどこがいいって言うのよ!」
「「「…」」」

3人が3人、黙って顔を見合わせる
頬をかいたりなんだりで適当に出た答え

「みょうじさん家でよくね?」
「いいねえ!賛成!」
「え、なにそれ、なにがどうしてそうなったの」
「ならわいがたこ焼き焼いたる」
「えっ!是非焼いて!!あとお好み焼きも!!」
「じゃあオレ酒持ってこ」
「だめだぞ矢木!アンダー20はアルコール禁止!」
「とか言って結局一緒に飲んでしかも先に潰れるくせに」
「なんだと〜!?」
「あ、聞こえました?まあまあ、いいつまみ持って行きますから」
「普通の声で言っておいて『聞こえました?』っておま…お前…」

なまえが板倉に恐れおののいているとまた板倉がなまえの手から缶を取り返して怖いくらいのさわやかスマイルを浮かべる
なまえはその笑顔に4Aの秀才の影を見て思わず矢木の後ろに隠れた
そのなまえの首ねっこを原田がひょいと掴んで元の位置に戻す

「じゃあ今週の土曜、また後ろ乗せてやるよ」
「りょうかーい!」
「みょうじさん家久し振りだな」
「あの微妙にダサいインテリア落ち着くよな」
「めげない。俺はもうめげないぞ」
「泣くなよみょうじさん…」


「因みにそのネクタイもちょっとダサい」
「うわああぁぁん!!」




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