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団欒せよ!2





「…風紀委員…?」
「わしは校長兼風紀委員顧問、曹操孟徳だ」
「え…えええぇぇぇぇ!!!??」

驚きのあまり大声を上げるなまえにまた不適に口角を上げるその男は確かになまえが聞いた噂から思い描いていた曹操孟徳なのであった
曹操は数々の功績からその名が三校の枠を超えて轟く大人物なのだ
少しマイナーな高校出身のなまえだってそれぐらい知っている
高校の友達と曹操は鬼のような人物だ、いやきっと仙人のような実力者だと議論して盛り上がったこともある
その曹操が今目の前にいるのだ
なまえは驚きと感動で固まってしまった

「驚いたか?」
「(コクコク!)す、すげー本物だー!」
「フフ、愛いやつよの、入るが良い」
「わ、うわーい!失礼しまーすそれからあの曹操様って呼んでも良いですか!!」
「構わん、曹大付属出身の者は皆そう呼んでおる」
「やっぱり!」
「おや、みょうじ殿?」
「え?あ、ハリボくれた…張遼?」
「おお、おったのか」

曹操に促され入った会室は普通の教室と同じつくりだが何故か豪勢なインテリアが並び、
観葉植物やブロンズ像なども当然のように佇んでいる
そして幾つかおいてある学校にそぐわぬ革張りのソファに寝転んでもごもご何か食べながら漫画を読んでいたのはまだあまり話したことのないなまえのクラスメイト、張遼だった

「って、ええ?な、何ここ」
「わしのオアシスだ。どうだ、魅力的であろう」
「え?え?曹操様のお部屋ってことですか?」
「そうだ、教員室は何かと不便でな。たいてい仕事はこちらでしている」
「曹操殿直々の招待とは。みょうじ殿、遠慮せず入られよ」
「う、うん」

なまえがおずおずとソファの一つへ腰掛けると体が一段ソファへ沈む
高級感のあるやわらかさに感動していると張遼が横着してソファに寝転んだまま冷蔵庫に手を伸ばし、ジュースを出してくれた

「あ、ありがと、横着すんなよ…
ってちょっと待っていまどこから出した!?」
「どこって、そこの冷蔵庫から」
「冷蔵庫ー!!??」

「何を驚いておるのだ?飲み物や洋生菓子などは冷蔵庫に入れんと悪くなってしまうだろう」
「な、何故学校で洋生菓子を…」

驚きの連続で微妙な表情をしているなまえの前へたった今話していた生菓子が出された

「さ、お礼の品だ、口に合うと良いが」
「え…わ、ありがとうございます」
「そんなに凝視するでない、張遼の分も用意しておる」
「かたじけない、さすが曹操殿」

小さなプリン、だがきっと高級専門店の限定品なのだろう、簡素な包装だがそんな雰囲気である
ガバッと飛び起きた張遼は心なしか嬉しそうな表情でいそいそと包装を取っていく
そういやこいついっつもなんか食ってんな、と心の中で思いながらスプーンを運ぶなまえ

「…おいしい」
「うむ、やはり絶品ですな」
「やっぱり?一目見た瞬間これは当たりだとおもったんだよね〜」
「…え?」
「バニラビーンズたまらんですな。曹操殿のチョイスですかな?」
「ああ、いつものネットでな」
「…へ?」
「美味なり、美味なり、パネエですな」
「…」
「他の3人には内緒だぞ」
「了解ナリ」
「…」

あれよあれよという間にとキャラが崩壊していく2人にまた唖然としていたなまえ
大物で偉大、人を食ったような顔で不適に笑う曹操様がネットでスイーツの通販が趣味とは思いもよらなかった
素行に厳しく、道徳や義理を重んじる真面目な男前の張遼がひどい甘党で常に何か口に入れ、頭の軽い若者のような崩れ言葉をその口からつむぐとは…
軽くカルチャーショックを受けて手が止まっているなまえを見て、
いらないのなら私が頂く、と手を伸ばしてくる張遼に慌ててプリンへ意識を戻す
ちぇ、と小さく呟いて張遼が席を立ったかと思うと銀色の装飾が煌くトレーにカップを乗せて戻ってきた
しかしその姿勢よく伸びた長身と凛々しい顔立ち、気品あるシルバーとアンティークのティーポットとカップがよく似合うこと
教室で最初に見たときから感じてはいたが、どんなに横着しようが食い意地を張ろうが
張遼は男前なのだった

「おぉ、良い香りだ」
「紅茶?」
「そうだ、張遼の紅茶は格別でな」
「みょうじ殿が来る前に落とし始めたのだがちょうど今が飲み頃ですな」
「おお〜!本格的!」

カップに紅色にしかし宝石のように透き通る紅茶が注がれ、おもわずなまえは感嘆の声を上げる
童話に出てくるような装飾のなされた小さなポットに手を伸ばし、砂糖を入れようとしたときなまえの手をそっと制して張遼が言う

「まずはストレートをお勧めする、茶葉本来の薫りを楽しまれよ」

大人しく言われたとおりに手を引っ込めて、赤いままの紅茶を飲んでみるなまえ
ストレートティにありがちな強い苦味や強引な香りに備えていたなまえは驚いておいしい…と呟いた
なまえの鼻を抜けていくうっとりするようなセイロンの香りは温かい紅茶をより味わい深くするようでなまえは感動して張遼のほうを見た
ふふんと得意げな張遼の笑顔はやはり整っている

「気に入っていただけたなら良かった」
「5ツ星のデザートに張遼の紅茶はまさに贅であるな」
「すげー!俺張遼ってただの四六時中菓子食ってて正義派なんだかユルいんだかよくわかんないやつだと思ってた!」
「ぷぷっ」
「…」
「いやでもすげー!俺ストレート初めて美味いと思った!」
「ふふん、このぐらいならいつでも淹れてしんぜよう」
「っまじ!?」
「そうだな、なまえ、来たくなったらいつでもここへくるがいい」
「えっいいんですか!?俺風紀委員じゃないのに!」
「なに、構わん。わしの大事な客だ」
「わあ…ありがとうございます!」

3人は時間を忘れて盛り上がった
ついでにここが学校だということも忘れて盛り上がった
なまえが寮に帰ると無駄に鼻の良い甘寧がなまえの身体に染み付いた甘い匂いに気づいて、
司馬懿から小一時間執拗に問い詰められ、結局今日食べたのと同じプリンを買わされたのはまた別の話である




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