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求婚者列伝





蜀、五虎将軍張飛を主とする張家は最近、何やら騒がしい。
というのも、2人の武将がそのありあまる若さと血気をいかんなく発揮しているためである。
だが、勿論張飛には息子などいない
代わりに美しい娘が2人いた
長女は美しい容姿を持ちながら、父に負けず劣らず強い意志を持って戦場を駆け、
まっすぐな瞳を持つ清廉潔白な女戦士であり、
そして次女は長女とはまた違った美しさをもち、たおやかで女性らしい雰囲気を纏った
柔らかな笑顔の純真無垢な姫君であった

そして今日もそんな張家に客人がやってくる

「せ、星彩っ!」
「関平、おはよう」
「おはようでござる!あ、星彩、その…」
「?どうしたの?」
「その、これを…!!」

蜀の若き将、関羽の養子関平の笑顔は赤らんでいてしかしさわやかである
そんな彼がもごもごと口ごもりながら背後からバッとさしだしたのは色とりどりの花束だった

「ち、父上と遠く任務に出た折に見つけて…ぜ、是非星彩に見せたいと思って…!」
「あら…ありがとう
とても綺麗」
「…!」

花束を受け取り、かぐわしい春の薫りと花々の可愛らしさに穏やかな表情になる星彩を見て、
関平は嬉しくなりさらに頬を少し血色良くして満面の笑みを浮かべた
端から見てとても微笑ましく、暖かな雰囲気に包まれていた
最早珍しくない、朝の恒例行事だった
そしてそんな二人をよそにもう一人…

「なまえー!!!」
「あっ馬超殿、おはよーございます」

張飛と同じ五虎将軍に名を連ねる猛将、馬超もまた張家を騒がせる求愛者の一人なのだった

「今日もその、あ、愛らしいななまえ!!」
「えっ!やだ、ありがとうございます、えへへ
馬超殿のにゃんにゃんも、今日もお可愛らしいですねー」
「む、そうか!お前はほんとにこの兜が好きなのだな!」

背伸びをして馬超の兜に手を伸ばそうとするなまえに馬超はちょっとかがんでやる
なまえが伝説上の動物を象ったその金色の兜をそーっと撫でると馬超もなまえを撫でてやった

「とっても好きです〜あでも馬超殿も好きですよ!」
「そっ…そうか!!ではなまえ!!そのっ、お、俺と一緒に遠乗りに「待て待てぇ
い!!」ぐはぁーっ!!」
「あ、お父様ー」

ほんわかといい雰囲気になってきた二人
そんな中勇気を出してなまえを遠乗りに誘おうとした馬超を吹っ飛ばして彼女らの父、張飛が荒々しく馬を嘶かせて登場した
娘のピンチ(?)に駆けつけたその姿は三國に無双と歌われる五虎将軍・燕人張飛の名に違わぬ雄姿だったという…

「おうおうオメーら!!俺の可愛い娘達を簡単に娶れると思うなよ!?」
「きゃあ馬超殿!あれれ、大丈夫ですかー」
「ぐ…これしきの攻撃、きかん!!」
「や、その、め、娶るなどと、せ、拙者はまだそんな…!」
「張飛殿!!俺がなまえを幸せにするッッ!!」
「関平は意気地が足りねぇよ!!馬超は意気地と勢いしかねぇじゃねぇか!!」
「他に何がいるのだ?」
「いや、せ、拙者はただ…星彩に喜んで欲しくてっ」
「俺の娘はまだやらねえー!!」
「お父様…」

血気盛んな張飛と馬超、そしてなにやら混乱気味の関平を前に
額に手を当てて人知れず疲れた様子の星彩。
そこへ胸に袋を抱えたなまえが駆け寄った

「お姉さま、元気出して!はい、桃まん!」
「…ありがとうなまえ。でもいいわ、なまえが食べなさい」
「えーっいいの?やったあ!」

桃まんをかじるとなまえは次に馬超へと駆け寄る

「馬超殿もどうぞ」
「なに!?桃饅!?心遣い、ありがたく!!」
「はい、あーんー」
「な…な!?そそ、そのような…」
「?馬超殿早くー」

馬超の顔の前に(実際は届かずに首の前辺りに)桃饅を差し出し、ニコニコしているなまえ
勿論、そんな可愛らしいなまえには、羞恥心を抱きながらも馬超は抗えず、頬を赤らめておずおずと桃饅をくわえた

「う、う…あ、あー…むぐ」
「はい、よくできました
関平殿もどうぞー」
「あ、かたじけない…」
「!!!!!!」
「あ、馬超がショック受けてる」

同じように関平にもあーんしてやるなまえを見てギャギャーン!!!!と効果音をバックにしょいながら馬超が雷を浴びたようなショックを受けていた
この辺のリアクションは三國一である

「むぐ…なまえは下に兄弟がいないから、世話見たがりなのでござるなあいたたたたた」
「誰に説明してるの関平」

なまえからもらった桃まんをかじりながらなまえの性格を分析する関平の背中を涙ぐみながら馬超がぽこぽこと叩いている
そこへなまえが寄り添って、唇をかみ締める可哀相な男の背中に優しく触れた

「あら、馬超殿?男の子なんだから、泣かないで?」
「く…なまえ!!」
「とにかく!!嫁にやるには100年早ぇ!!」
「よめ…?
あ、そうお姉さま!」

張飛が馬超からなまえを取り上げると、なまえは張飛に持ち上げられたまま関平と星彩の方を向いて声をあげた
驚いてなまえを見やる2人に近付くと目をキラキラさせた

「ねぇねぇ、もしお姉さまが関平殿と結婚したら、関平殿は私のお兄さま?」
「な、けけけけっこ…え!?」
「関平殿、顔が赤いぞ!」
「ば、馬超殿!」
「待って」
「へ……」

なまえの突拍子な爆弾発言に関平はうれしさ半分はずかし半分でおたおたと頬を赤らめる
馬超がニコニコして関平をからかうのを落ち着いた声音で遮ったのは星彩だ
(関平はビビった上に星彩の冷めた反応に少し涙目だ)
どこか強張ったような星彩の表情にその場の視線が集まる

「ということは、等しく…

なまえと馬超殿が結婚したら、私は馬超殿の義姉…?」

「………………


……………はっ!!

義姉上ー!!!」
「100年早ぇっつってんだろうがぁぁ!!」
「はぁ…冗談はその兜だけになさって。堪えられる自信が無いわ」

再び星彩が額に手を当てて首を振った
ようやく要領を得た馬超も拳を握り締め吼えるも再び張飛に沈められた
なまえは家族が増えるのが楽しみなのか再び関平に明るく声をかけている

「ふふ、関平お兄様ー」
「や、せせせ拙者はまだ…!!」
「この兜は譲れんぞ義姉上!!なまえのお気に入りだからな!!」
「ではあなたごとご遠慮願ってもいいかしら」
「よく意味がわからーーん!!!」
「だあぁうるせぇ!!馬超も関平も出直して来い!!」
「なまえ、結婚する相手は良く考えるのよ」
「なまえっ!ぜひ俺と…」
「え?あ、私趙雲殿と遠乗りに行って来まーす」
「「「え?」」」

馬超と星彩が振り返るとそこには、趙雲と二人で馬に乗るなまえ
二人の乗った毛並みの美しいその馬が駆け出す瞬間趙雲が台詞を残した

「これを漁夫の利と言います」
「知るか!!待てこらっおい!!あーもー帰ったらてめぇらお仕置だからなぁぁぁ!!」






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