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サフランイエロー







「太史慈さまぁ〜」
「?どうしたなまえ…なっ、泣いているのか!?」
「ふぇ〜…」
「ど、どうしたんだ!?何かあったのか?」
「僕の…僕の猫がね…」

猫と一緒に城の中庭で日向ぼっこしていたなまえ
時間が経って、寝ている猫に触ってみればその身体は冷たく、
なまえはびっくりしてどうすればいいかわからず典医を呼んだ
そしてその典医が城下の獣医を呼んだときにはもう遅かったという

猫は天寿を全うしたのだった

「そういうわけだったか…」
「ふぇ…っく…ぅ」
「…よしよし…」

おいで、と言うとなまえは大人しく太史慈のもとへ寄り添った
まだ小さいなまえを持ち上げて自分の膝に乗せるとやわらかい手巾でなまえの涙をぬぐってから髪を梳いた
そして背中をとんとんと手を添えてやる

もう泣くな、と言おうとした太史慈だったが、
この年の子供にしては滅多に涙など見せないなまえが太史慈にしがみついて泣いている
初めて身近に感じた死への恐怖と、猫の死への悲しみにいっぱいいっぱいななまえのことを思って、その言葉を飲み込んだ
代わりに優しくなまえを撫でながら問うた

「…墓は作ってやったのか?」
「ぐす……はい、お庭の、ひっく…隅に…」
「そうか、偉いな
今度、花を添えに行こう」
「はい…」

太史慈にあやされてだいぶ泣きやんだなまえ
ひっく、と嗚咽はやまないが、落ち着いて太史慈の話を聞いていた
赤くなった目をこすろうとするなまえの手をやんわりと抑える
その小さくて白い手を握りながら太史慈は静かに話し出した

「なまえ…命ある者は皆いつか死ぬ。死は仕方のないことなんだ」
「………太史慈さまも、いつか……?」
「あぁ、いつかは俺も死ぬさ」
「やだ…やだ!そんなの!
太史慈さまが死ぬ時は僕も一緒に死ぬ!!」
「な、なんてことを…!!」

太史慈の腕の中でこちらを振り返ってまた泣きそうになりながらそう言い切るなまえに太史慈は驚いて目を見開いた
このような齢の子供が死ぬなどと、言い切って見せるのが少なからずやり切れず、
しかもなまえの切羽詰った表情は子供ながらに太史慈との別れに恐怖を感じていて太史慈は放し方を間違えたと己をいさめた
しかし不謹慎ながらも太史慈は少し嬉しかったのだった
弛みそうになる頬をしかし表情は変えずになまえと視線を合わせる

「そんな滅多なこというものではないぞ」
「だって!めったじゃないです!もし…もし太史慈さまがいなくなったら…僕…」
「…」

また目に涙を溜めて太史慈にすがるなまえ
いよいよ混乱してしまったなまえを太史慈はいとおしそうに自分の胸に抱いた

「…安心しろ、俺はそうそう死なん」
「………ほんとう?」
「あぁ、俺は約束は守る男だ」
「………ほんとに?」
「なまえにだって嘘ついたことはないだろう?」
「………はい」

ぐし、と額を太史慈の胸に押し付けるなまえを太史慈はいっそう強く抱き締めた
そしてなまえの柔らかい髪を撫でた
まだ鼻をすする音は響くが声色は落ち着いている
また目をこすろうとする手を太史慈にとられてしまうのだった

「なまえも死ぬなどと言うな」
「………」
「…俺が、ずっと守ってやるのだからな」
「………太史慈さま…」
「お前を危険な目になど遭わせない。な?」
「…」

太史慈の腕の中でこく、と小さく頷くと、ごめんなさいと呟いた

「はは、いいんだ
さ、もう大丈夫か?」
「…はいっ」
「よし、良い子だな
今日は町へ出て、何か美味いものでも食おうか」
「えっほんとですか??やったぁー!」
「泣いた側から元気だな…なまえの好きな杏仁豆腐にしような」
「太史慈さまありがとう!!」

太史慈の膝から降りるとなまえは太史慈に御礼をして、太史慈の手を掴むと引っ張った
太史慈ははいはい、と笑いながらなまえの後を歩いて二人で町へ出た



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