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手料理日和




「あ、あのねひろくん」
「ん?」
「その…今度の日曜日、ひろくんのおうちに行ってもいいかな…?」
「ぶっ」

吹き出しそうになったお茶をどうにか堪えて大いにむせるひろゆき
なまえはひろくん大丈夫?と背中を優しく擦ってやる

「げほっ…だ、大丈夫…ありがと」
「やっぱり…唐突だったよね…」
「あ、いやそんなことは…!」

こころなしかしゅん、としているなまえにひろゆきはうろたえる
同時に混乱もひろゆきを襲う

うちにくる…?なまえちゃんが…!?
す、すごいイベントがきちゃったぞ…!
いやでも付き合って結構経つし…
別に変な意味じゃない、よな
し、しかしなまえちゃんからそんなこと言い出すとは…

そうこう考えこむうちになまえはどんどんしょげていく
慌ててなまえに手を振るひろゆき

「あ、も、もちろん、いいよ!」
「え…ほんと?」
「うん、狭苦しいとこだけど」
「わあ、ありがとう!」

なまえの顔はうって変わってぱあっと笑顔になる
ひろゆきまで幸せになってしまういつものやわらかい笑顔であったが
ひろゆきは内心ぎくしゃくしながらひきつり笑いで相槌を打った





「さてと…」

ふう、と綺麗になった部屋で一息つく
今日はなまえがくるということで人生で一番気合いを入れて片付けた
薄汚れていた部屋は一気に引越し当初の輝きを取り戻した
雑誌の背表紙がラックに綺麗に並んでいるのを見るのはいつぶりであろう
もちろん不測の事態に備えてベッドメイキングも完璧である

満足気に部屋を見回す
その時、テーブルの上携帯のバイブが思考を遮るように鳴り響いた

「やばっ…迎えにいかなきゃ」

ひろゆきは上着を羽織って家を飛び出した



「お、お邪魔しま〜す…」
「どうぞ。狭くてごめんね」
「ううん!えへへ、緊張するなあ〜…初めてのひろくんのお家」
「(う…かわいい…)」

そういってニコニコしながらひろゆきに着いてくるなまえ
ひろゆきは緊張の上照れ隠しもあってぎこちなくリビングへなまえを通した

「疲れたぁ〜」
「今茶でも淹れるよ」
「あ、私やるよ!」
「いやだってなまえちゃんお客さんだし…」
「ううん、いいの!ひろくん座ってて!」

ちゃちゃっとひろゆきをキッチンから出して作業を始めるなまえ
それをリビングから見ていてひろゆきはなまえという彼女のいる幸せをかみしめた

「どうぞ」
「ありがと」

なまえの入れた茶は普段自分で入れてるものと同じ茶葉ではあるが
どこかいつもより美味しく感じられるのがひろゆきは楽しかった
どこかへ出かけて喫茶店に入るのもいいが、こうして家でゆっくりするのは実際の距離は変わらないはずなのに
ひろゆきにはなまえがいつもより近くにいるような感じが多少緊張を誘うが新鮮だった

一息ついたところで、ひろゆきが異変に気付く

「なまえちゃん…バッグ大きくない?」
「え?」
「いや…いつもの小さめのと違うなーと思って…」

あ…とそわそわし始めるなまえに、女の子相手に荷物どうこう言うのはまずかったか、と
ひろゆきが訂正しようとしたとき、何かを決意してなまえはバッ!!とひろゆきに向き直った

「ひろくん!」
「え、はいっ」
「あの、あの…き、今日、ひろくんが…!私、作っても…!」
「え?え?ごめん、なに?」

落ち着いて!とサッパリのみこめないひろゆきが、緊張しているのか力んでいるのか、
なまえが胸の前で握った手をぽんぽんと優しく叩いてやる

「だっだからね、あの…お夕飯…!」
「ん?」
「き、今日…ひろくんのお夕飯、あの…私作ってもいいですかっ…!」

正座で向き合ったまま、ギュッと目をつむってまるで告白するかのようななまえと、予想外の言葉に呆気にとられるひろゆき
なまえはだんだんと赤くなっていく
いつの間にかひろゆきの手を握っていたなまえの手も熱くなっていく

「ぅ…や、やっぱりなんでも…」
「ほんとに?」
「え?」
「わ、なまえちゃん料理してくれるの?」
「あ、うん…」
「うん…」

それだけ言うと急に俯いてしまったひろゆき
どうしたのかとなまえが覗き込むがフイとそっぽを向くひろゆきの耳が少し赤かった





なまえの大きめのバッグにはさらにトートバッグが入っており、
その中には材料と思しき野菜やパックが幾つか入っていた

「挽き肉、玉ねぎ、卵パン粉ニンジン…(ハンバーグかぁ)」
「何作るかは内緒だよ!」
「じゃあ楽しみにしとくよ(、ハンバーグ)」

再びキッチンから追い出され、ひろゆきはリビングで暇をつぶしていた
そして持参の水色のエプロンをしてよーし!と腕まくりをするなまえの背中を盗み見ると少し温かな気持ちになるのだった
料理が苦手ななまえの手料理は十二分に怖い気もするが、
それでもひろゆきの為に料理したいと言ってくれたのがひろゆきには嬉しかった

がしかしそれも束の間…

「うひっ」
「?どうしたのなまえちゃん」
「!ううん、あの、何でもないの!」
「もしかして指切った?」
「う…!」
「どれ、見せて」
「なんでわかるの〜…」

また数分後…
何やら小さく呻いてバタバタと洗面所へ向かうなまえ

「?」
「ぅ、ぐ、…」
「え!?ちょっと大丈夫?」
「たっ…ま、ね…ぎ…っ!」
「あー…ほら、大丈夫?次は玉ねぎ使わない料理にしよ?」
「う、ん…」

そんなこんなでひろゆきはひまつぶしに読んでいた本の内容などまったく覚えていないが、
添える野菜を盛り付けるところまで辿り着き、綺麗なハンバーグプレートが2つ出来上がった

「わあ…」
「ん?」
「できた、ひろくんひろくん完成!」
「あ、ほんとだ、美味しそう」
「ほんと!?うれしい!」

エプロンの端を掴んで惜しみなくにこにこと笑うなまえにひろゆきはなんとも言えず幸せな気持ちになって
頭と頭を寄せ合ってなまえの髪を撫でた

「なまえちゃん、ありがと」
「ふふ、うん!ね、テーブルに運ぼ?」
「そうだね、気をつけて」

二人でテーブルにプレートを運び、食器や副菜、それから飲み物を用意した
その万全のテーブルを前に満悦気味に立っているなまえはあっ、と何かを思い出したように鞄をあさる

「どうしたの?」
「あのね、写真とってもいい?」
「はは、そうだね、記念に」

そしてテーブルにケータイを向けるなまえだが、首をかしげたまま固まっている
ひろゆきも不思議そうな顔でなまえを見ている
納得いかない顔で何回か首を左右にかしげたあとでまたなまえはあっと言ってひろゆきを振り返った

「なに?」
「ひろくん大変!ご飯炊くの忘れてたー!」
「あ」

2人はしばし顔を見合わせたあと、声を上げて思い切り笑いあった




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