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まちあわせ








「銀次さんっお待たせしました!」
「おぉ、行くか」
「はいっ」

赤茶色のしゃれたベンチから銀次は立ち上がる
そして煙草を側の灰皿に落としてなまえの隣へ並ぶと2人は歩き出した
新都上駅ターミナルのベンチ
ここは2人のいつもの待ち合わせ場所
銀次の務める警察機関となまえの通う大学との間にあるこの都心繁華街は銀次となまえの格好のデートスポットなのであった
といっても、夜食事を共にしてその後は適当に街を歩いたりウインドウショッピングをしたりするだけなのだが。

時折、遠くの街へ足を伸ばすこともあるが、結局はここへ戻ってきてしまう
2人とも冒険をするよりは馴染みの店で落ち着く方が好きらしい

そうして今日も定番メニューに満足して食後のお茶を味わうと、2人は今日は街の大きな通りをなまえのガイドで歩くことにしたようだった

「今日は平日なのに人多いですねぇ
あ、次右の大きい通りです」
「明日が祭日だから羽目外してんだろ」
「あそっか。銀次さんは明日もお仕事ですか?」
「本来なら休みだがな。この職業には定休は無えよ」
「それってどっちのお仕事なんだか」

ふふ、と笑うなまえの肩にいきなりドンと何かがぶつかった
なまえがすみません、とそちらを見るとぶつかったであろう人はすでにおらず、ズンズン歩く男の背中だけが見えた
人多いといいことないなあ、と呟くなまえの両肩に今度は銀次が手を置いて、
ぐいと左にいたなまえを右に促しショーウィンドウ側を歩かせ、自分は人通りの多い方を歩いた
なまえは銀次を見上げるが銀次は前を向いたまま表情も変わらない
だが口数の多くないこの男の優しさに嬉しくなってなまえはそっと銀次と腕を組んでみた

「、おい…」
「ダメですか?」
「…はあ、わかったよ」

少し焦ったような顔をしても決して突き放したりはしないこの男の困ったような
苦笑がなまえは好きなのだった






「やー、これが噂のリバ・グランタ像!」

そこは広場の様に開けており、真ん中に噴水、そしてその中央に薄衣を纏った男女の西洋銅像が立っている
あたりは待ち合わせらしき一人の男女はもちろん大勢いるが、
落ち合ったカップルやグループも立ち話をしたり植え込みに寄り掛かって語らったりしている
なまえはベンチに駆け寄って端に座ると満面の笑みで手招きした

「銀次さん早く〜」
「はいはい」
「あのね〜一回ここで待ち合わせしたりこうやって休憩したりしてみたかったんです」

そう言ってえへへーと笑うなまえは機嫌が良さそうに見えるが銀次にはサッパリわからない
おしゃれな店や街に行ってみたいというのならわかるが、ここはただの広場、ただの待ち合わせスポットである

「…楽しいのか?」
「え?今?楽しいし嬉しいですよ!」
「ふーん…」
「銀次さん楽しくないですか…?」
「…」

なにを楽しめと…?と聞き返したくなるがさすがの銀次もそれはしない
若者の不思議な文化に心の中で首を傾げつつしかし一番違和感を感じていたことがまだあった

「ここはオレのくるところじゃねえよな」
「え…?なんでですか?」
「何でって…周りを見てみろ。そもそもがこの辺りはいい年齢したオッサンがふらつく街じゃない」

俯いて煙草に火をつけながらいつもの落ち着いた声色で話す銀次
なまえはそれを聞いてうーんと考え込む
確かに周りは若さあふれる大学生や、流行り真っ直中のファッションに身を包む若者ばかりである
もう一度首をひねってからなまえはまた銀次の腕をとった

「でも私今銀次さんとここにこれてすごい嬉しいんですよ、流行に乗ってみたかったのが叶ったのもそうだけど、
銀次さんと一緒ならそれに飽きた後また新都上に一緒に帰れるじゃないですか」
「ふーん?なんだか複雑だな」
「まあ、要は誰と一緒かが問題ってことです
周りなんて…むしろ若い子がこんな素敵な街にたむろしてる方が間違ってるんです!!」
「なんだそりゃ」
「ぐらいの意気でいきましょうよ〜」
「相変わらず強引だこと…」

1時間ごとにささやかに鐘の音が鳴る広場の時計が10時を指した
それを見てなまえはベンチから立ち上がり一つ伸びをした
銀次もおもむろに立ち上がると白い煙をゆっくりと吐き出した

「銀次さん明日もお仕事だし、行きましょ」
「あぁ、悪いな」
「ううん、こちらこそ遅くまで、しかもこんなところに付き合ってもらって」

ちろっと銅像を見て笑うなまえ
そのいたずらっぽい笑顔はいつもの明るいなまえだったが銀次は黙っていた

「次はいつ会えますか?」
「そうだな…週末、土曜なら夜空いてる」
「じゃあ、土曜の7時に」
「…ああ」

一通り約束が済むと2人はまた並んで歩き出した
途中またなまえが銀次と腕を組み、また銀次はそれを苦笑して許した





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