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年越せ!呉編





「くんくんくん…!こっちだ!」
「言っとくけど貴様本当に怪しいぞ」
「あったあ!屋台行列!!」

今川焼きを食べたらなんかお腹空いてきて、袁紹がもらってたたこ焼きまでかっさらってもなお足りない俺たちは、食べ物の匂いを辿ってひときわ明るく賑やかな通りについた

「わーっどうしよ何食おう!!」
「貴様金は持っているのか」
「うん!」
「ならいいってああああそれは私の財布ぅぅぅ何時の間に!!??」
「最初は広島焼きー!!」
「待たんか!!!」
「すんませーん!広島焼き二つください!」
「はいはーい!ってみょうじ!?」
「あれ、え!?尚香さん!」
「やだあ、あけおめ〜!」
「ことよろ〜!」
「孫堅の娘か、新年早々精が出るな」
「あら、名族も一緒?あけおめ!」

そう言って元気に売り子するのはC組の尚香さんだった
着物の袖をぐいっとまくって広島焼きを売りさばく笑顔が眩しいぜ!

「広島焼き2枚あがり!」
「了解です!お待たせしましたあ〜!」
「え、あれ尚香さんの後ろ…」
「ん?おお、なまえじゃないか!」
「太史慈さん!周泰さんに孫権も…!」
「…お前か…」
「おお、なまえ!来ていたのか!」

皆正装のそでをまとめてビシっと決めていて、武士らしくてかっこよくなってる
せいぜいお公家さんな袁紹とは違い、男も女も憧れる男らしさ!!正月ktkr!!
シャシャシャシャ、と具材を切ってまとめてボウルにいれていく周泰さん(手だけが音速で動いてる)
それをジャジャジャッ!と慣れた手つきで軽快に焼き上げる太史慈さん(テレビで見る料理人並み)
手早くお釣りと広島焼きを渡しながらも笑顔を忘れない尚香さん(天性の売り子センス)
そして一番奥でもたもたとあがった広島焼きをパックして(るんだかしてないんだか)いく孫権

「うわーなんかプロフェッショナル!!(一部除き」
「…なまえお前今すごく無礼なことを…」
「すげー先輩方料理上手かったんすね!知らなかった!!」
「はは、そんな大したもんじゃないさ」
「……これぐらいはな……」
「孫呉の者共にこんな芸があったとはな!あっぱれだ!」
「出店は任せといてよ!通りのこっち側の屋台は全部孫呉二高生のお店よ!」
「えっこっち側って…ええ!?あそこまで全部!?」
「もちろん!そこの屋台では義姉様達と周瑜が綿あめ売ってるわ」
「父上達も向こうでたこ焼きを焼いてるぞ」
「まじかよ!孫堅先生が!?ありがたっ!!」
「たしかオムそばの屋台は甘寧達がやってたな。行ってみたらどうだ?」
「孫呉すげー!!ほんとにプロフェッショナルなんだ!!」
「祭り好きの血が騒ぐのよねえ〜!ねえ?」
「ははは!そうですな、こういう催しには賑わいに一役買いたくなる」
「へえ〜しかも呉の人達って器用だもんなあ」
「…お前が不器用なだけだ…」
「ひ、ひどっ…!」
「「「あはははは!!」」」

俺らと話している間にもどんどん広島焼きは売れていく
孫呉の祭りスピリッツと商才、そして手先の器用さには感服させられた
なにより孫呉の人達の底抜けな明るさが俺は結構好きである
…時折手が付けられないけど…

「みょうじも名族も、良かったら食べてって!」
「うん!二つください!」
「毎度どうも!」

そして最後はやっぱり尚香さんの百万ドルの笑顔とともに広島焼きを受け取った

「…私の金でな!」
「あざーっす!」
「まあ美味いから良いとするか」
「ね、ほんと!俺孫呉二高生舐めてたかも!」
「思ったよりやるというのは認めよう」
「はいはい、よっしゃ次たこ焼き〜!」
「た、食べるの早…ていうか財布返せ!!」




「ちわーす!」
「あ、なまえー!」
「おお、みょうじか!」
「おお!よく来よったわ!」

屋台と言えばたこ焼き、たこ焼きといえば実演販売!
期待通りにその手腕を披露している黄蓋先生と孫策
普段の奴らを知っているので、たこ焼きをひっくり返していく二人の手が早すぎて見えなくても俺は驚かない
孫堅先生がよ、と手をあげてくれる

「参拝は済んだのか?」
「はい!今お詣り終わって、舞台見て、尚香さんとこの広島焼き食べたとこです」
「私はまだ食べ終わっとらん」
「よう!名族も一緒か!二人ともあけおめだずぇ!」
「ことよろなんだずぇ!」
「…(もぐもぐ」
「あーもーお前食べんの遅い」
「どうじゃみょうじ!!わしの爆弾焼きに挑戦したいか!!」
「いえ、遠慮します」
「そうかそうか、ちょいと待っとれよ!!」
「あれ、なんかおかしいぞ」
「大丈夫かよなまえ?爆弾焼きって結構な量のタバスコとわさび入ってるずぇ?」
「なにそれ罰ゲームなの?なんで入れたの?」
「ははは!じゃあオマケに普通のたこ焼きを1パックつけてやろう」
「すみません大殿、なんの解決にもなってません」
「私まだ広島焼きが残ってるからその爆弾は貴様のだぞ」
「爆弾“焼き”って言って。怖いから。」

楽しそうに特製の型で爆弾“焼き”を作り始める二人
あはは!と無邪気な孫策に加え実験気分の黄蓋先生と凶悪すぎるエッセンスを知らずに投下する大殿の最凶タッグに俺たちの顔色はどんどん青くなる
なに?これは生死をかけた運試し?やんなきゃだめ?

「あの…俺たちほんとに…」
「さ、できたぜお前ら!腕によりをかけたんだずぇ!」
「いや、頼んでないし」
「ささ、どかんと食ってくれどかんと!!」
「食った途端にどかんですよ!!」
「遠慮するな、可愛いお前らのためだからな」
「いただきます」

大殿の笑顔に負けた俺の手の中には、普通のたこ焼きの3、4倍はあろうかという表面が真っ赤な爆弾焼きが湯気をたてていた



「おいしい綿あめはいかがですかぁ〜♪」
「お姉さん綿あめ2つ〜!」
「はいはーい!あ!なまえせんぱいだあ〜!きゃーおめでとー!」
「おめでと小喬ちゃん!大喬さんも!」
「あらなまえさん!おめでとうございます!」
「やあなまえ!綿あめを買いに来たのかい?」
「周瑜先輩…」

きゃいきゃいと可愛らしい振袖姿で売り子をする二喬の向こう側にはなんか変に美しい動きで綿あめを量産する周瑜先輩がいた
どう考えてもこの学校は顔が良くて許されてるやつが多すぎる

「フフ、私にかかれば綿あめも芸術作品に昇華するのさ」
「じゃあその芸術作品を二つ」
「800円でーす♪」
「あの、袁紹さんどうなさったんですか?」
「ああ、気にしなくて大丈夫!はしゃぎ過ぎて疲れたんだよきっと。バカだなあ」
「そうなんですか、ふふ、良かった」
「さあなまえ、受け取ってくれ
そうだ…この美しい綿あめ達に名前をつけよう」
「結構です」
「二つの美しい綿あめ…うむ、小喬と大喬と名付けよう」
「やめろ」
「さっすが周瑜様ぁ!」
「どの辺が?」

悦に入った表情で長いソフトクリームのような奇形の綿あめを受け取るとまるでアイドル集団のような綿あめ屋さんに手を振った



「さて!シメはオムそばだぜ袁紹!」
「…」
「あそうだ、爆弾焼き食べて気絶したんだった
いよーっす!!」
「おうなまえ!やっと来たか!」
「甘寧お前準備って屋台だったのかよ〜」
「おお、毎年やってんだよ、食ってくだろ?」
「うん、二つ
あ、凌統に陸遜!あけおめ〜!」
「あれなまえじゃん」
「おめでとうございますみょうじ先輩!」
「いや〜……二人とも普段からイケメン死ねとは思ってたけど……壮観だね!着物イイ!」
「イケ……え?死ね?」
「うおぉぉおおあちちちちちウソ!!ウソです!!!」
「相変わらずだねアンタ」
「2016初萌えならぬ初燃え!!!」

さっきの綿あめ屋が宝塚だとしたらここはジャ○ーズ事務所って感じだな

凌統が髪おろして正装してると言うまでもなくさらにイケメンに、普段少年か魔王かの二極化が激しい陸遜は大人っぽい好青年にそれぞれパワーアップしている

そして驚くべきことに甘寧が服を着ている!!

「いつも着てんだろーが!!」
「いやうん服着てるとかっこいいよ甘寧!」
「おお、へへっ、まーな!」
「「「(単純)」」」
「…みょうじお前その袁紹はどうした」
「あ、呂蒙先生!おめでとうございます
これはあのたこ焼き屋に扮したテロリスト集団に爆弾(焼き)でやられました」
「………」
「そういや美味そうなもん持ってんじゃねーか!」
「あっ大喬」
「は?」
「オレも一口もーらいってね」
「あっ小喬」
「あ?」

俺の右では右の綿あめ『大喬』をつまんだ甘寧が、左では左の綿あめ『小喬』をつまんだ凌統がクエスチョンマークを浮かべている

「そこの二喬&美周郎の綿あめアート屋さんで作ってもらって、周瑜先輩がそう名前つけてくれた」
「ぎゃはは、それで姉妹綿あめってか!」
「陸遜も食べる?大喬」
「食べにくいですよ!」
「呂蒙先生も舐めます?小喬」
「舐めんわ!!」
「「「ギャハハハハ!!」」」

正月早々、ゲラゲラと笑ういつもの声が響く
こちらの店の役割分担は甘寧・呂蒙先生が調理、凌統・陸遜が売り子らしい
こいつら自分の適性を嫌という程わかっていやがるぜ…!!
おかげでよくよく見れば周りを取り巻くお客さんは大半が女の子だ
まーわかるよ、そりゃ変に貫禄出ちゃってる呂蒙先生よりキラキラ男前の陸遜・凌統の方が縁起いいよね
あっっっつ!?今なんか指先焦げたんだけどなんで!!!??まさか陸遜?
いやますますなんで!!!???



「きゃーオムそばください〜〜!」
「私もー!」
「ハイハイ。毎度どーも」
「気をつけてお持ちくださいね」

「かーっ、正月早々よくやるぜ」
「あー甘寧あいつらが女の子にきゃーきゃー言われてるの羨ましいんだ〜」
「ちげーよ!第一俺の方が男らしいしな!」
「ハイハイそうだね」
「あーー絶対思ってねえ! !」
「あ!甘寧の兄貴!」
「あけおめッス!!」
「おーお前らか、よう!」

裏側に回って綿あめ…じゃなかった、二喬をつまみながら甘寧と話していると、何人かの後輩達が通りすがりに甘寧に声をかけていく
どいつもこいつも一様に埠頭で膝開いてしゃがみこんでそうな人たちだが、その怖そうな見た目に反して快活に挨拶をする姿はとても怖い
つまりはこわそうな人たちということだ

「兄貴オムそば売ってんスか!パネェ!」
「おう!潘璋、お前も食ってけよ!」
「やった!兄貴のおごりっスか!」
「バカ、そんな金ねえ!静かに持ってけ!!」
「ウィッス!!」
「呂蒙せんせえええええ!!!」
「おいバカッなまえシーーー!!!」

DQNの蛮行を呂蒙先生に言いつけるべく大声を出した俺を甘寧がそれ以上の大声でかき消す
こいつシーーーとか言いながら自分が一番うるさくて台無しになるパターンだよ
甘寧が手をバタバタさせるジェスチャーでヤンキー達はいい顔のまま蜘蛛の子を散らすようにいなくなる
そのころようやく呂蒙先生が甘寧に作業に戻るよう叱咤を飛ばしにきた
こう、ボールがミットに収まってからバット振ってる感じが呂蒙先生らしくていいよね、俺嫌いじゃないよ

「じゃ、俺まだ店やってっから。おまえちゃんと名族を部屋に連れてってやれよ」
「ハイハイかしこまりー」
「あ、待て待てほら、お前らの分」
「呂蒙せん「ちげーよ!これはちゃんと俺が確保しておいた分だっつの!!」
「え、ほんと…?つーか一瞬凌統かと思ったっつの」
「うっとおしーんだよっ!いてっ!」
「本気、味わうかい?いだっ!」
「おめーら人の真似して遊んでんなっつの!!」
「うっせーなーそんな怒るこたぁねーだろ!」
「そうだよそうだよ愛ゆえの煽りだよ!!」
「やっぱ煽ってんじゃねーか!!」
「ほらなまえ、今の内だぜ!」
「今の内ってなんかさっきの人たちと同じに見えるからやめて!?しかも凌統めっちゃ見てるし全然今の内じゃないよ!?」
「別に取り分の持ち出しは怒んねーよ、そこまで無粋じゃないっての」
「ほんと…?じゃーもらおっかな!すごくまともで美味しそうだし!」
「「まとも??」」
「あ、ううんこっちの話」
「おい、ひとつ足んねーだろ」
「ん?3つ?」
「司馬懿の分。売り切れちまうかもしんねえから部屋に持ってっといてくれよ」

なんでもないようにほれ、とオムそばのパックを渡してくる甘寧に俺は今年初の感動を覚えた
ケンカすらしないクソどうしようもない犬と猿だと思ってたけど、犬と猿の間にも1年経ってようやく人間並みの友情が芽生えたのか……!!

「うっうっ……甘寧、おまえってやつぁ……!」
「き、気持ちワリーな、なに泣いてんだよ」
「わかった!俺が命に代えても司馬懿に渡すよ!!」
「なんで新年早々命がけなんだよ」
「サンキュー甘寧!!じゃ、屋台頑張ってな!!」
「おう!じゃあとでな!」

頭の羽飾りを揺らしてニカッと笑う甘寧に気持ちよく手を振って、袁紹を引きずり歩く
司馬懿に話したらどんな顔すっかな!
わくわくと部屋に帰る俺の足取りは来るときよりも軽かった




「なにその顔……」
「こっちはお前らが遊び歩いている間こってりと絞られていたのだとやかく言われる筋合いはない」

部屋に帰ると司馬懿もたった今帰ってきたようで、部屋着に着替えてぐったりとしていた
どうやら俺らと別れた後、曹魏の人たちの挨拶回りや、サボりの罰(曹丕による増量版)などがあったらしい
俺をちらっと見るとまたぐたりと机に伏せてふてぶてしいこの態度にいつもなら拳の一つや二つ落としてやるところだが今日は元日
しかも俺の手には、甘寧がくれたオムそば!!

「司馬懿!!これなーんだ!!」
「声が大きい。どうせ屋台の粗末な食べものであろう」
「(ぐっ……こらえてこらえて)じゃじゃーん!!なんとこれは甘寧がやってる屋台のオムそば!!甘寧がおまえのためにとっといてくれたんだぜ!!」
「ほう…?」

これ以上戯言を吐かれると俺の拳が飛び出しそうだったので勿体振ることなく全部言った!
目線だけこちらへ向けるもやはり司馬懿にも引っかかったらしい
ちょっと冷めてきたので一気に二つともレンジに入れる

「食うっしょ!俺も食う!!」
「貴様散々食べ歩いたのではないのか」
「バッカこういうのは買って時間をおいたらダメなの!ハイ司馬懿の分!」
「ふむ…オムそば」
「甘寧がな、『司馬懿の分』って」
「……」
「あいつ、いいやつだよな!帰ってきたらお布団敷いてやろ、そんで肩とか揉んでやろ!」
「私の肩でもいいのだぞ」
「え?司馬懿が肩揉みたいって?」
「言っとらん!!…でもまあ、少しは優しくしてやってもよい」
「ふふ、そだな!あーーーうまそ!食お食お!いただきます!!」

俺この部屋で良かったよ!!
甘寧の爽やかな笑顔を思い出しつつこの部屋のクレイジーでイカしたメイト達にテンションを上げながら俺たちはオムそばにかじりついた









「っっっっっっんんんのおおォォ野郎ォォォォオオオオオオオ!!!!!ぐうううぁぁぁぁあああああああぶっっっっ殺す!!!!!!!!」
「あああがががっがあああああばばばっばばばばかめえええええええええええエエエエエエエエエエ!!!!」





孫呉生はどうにも唐辛子が好きで好きで仕方ないらしいので甘寧の食い物、持ち物全部に唐辛子を擦り込んでおいた。



















おまけ

「『4年越しの年越し、ようやく完結』、と…」
「お、おまえ!!せっかく誰もが疑問を感じながら口にせずにいたことを……!!!
あちちちちちちちごめんなさいすいませんその通りです!!!!!!!!!!」



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