「ん……」

 うっすらと目を開けば、蛍光灯の人工的な眩しい光が飛び込んできた。思わず目を閉じてしまい、もう一度ゆっくりと瞼を持ち上げる。

「ここは……」
「え!? 朽木隊長、もう目ェ覚ましちゃったんですか!」
「……松本?」

 白哉は上体を起こし、すぐ隣で慌てている乱菊を目に入れて首を傾げる。

(そうだ、確か私は草鹿に飴玉を飲まされ……眠ってしまったのか)

 あの飴玉は、おそらく睡眠薬と似たようなものなのだろう。油断していた、と白哉はため息をつくが、乱菊の手にしているものに気づき、一気に眉間へと皺を寄せた。

「松本、その手のものは何だ」
「え? 現世のカメラですよ」
「知っている。それで何をしていたのかと訊いている」
「もちろん朽木隊長の寝顔を……あ」
「松本……」

 日番谷のように怒鳴り声で自分を呼ぶのではなく、静かに、けれど逆らえぬ威圧感をふくんだ声で呼ばれる。
 日番谷隊長より怖い……と、乱菊は冷や汗を流した。

「言っておくが、私は写真集など出す気はない」
「えー! ダメですよ! 朽木隊長の写真集は発売しないと、こっちがいろいろ困るんです!」
「知らぬ。その写真は処分しておけ」
「そんなっ! 朽木隊長の寝顔なんて普通じゃ絶対拝めないのに!」
「……」
「朽木隊長って、寝顔可愛いですよね」
「黙れ」

 ぎろりと白哉に睨まれ、乱菊はあは、と笑った。そうこうしているとガラリと扉が開き、夜一とやちる、そして千本桜が灰猫と飛梅に連れられ入室してきた。その後を袖白雪と風死、氷輪丸が続く。

「……何だというのだ」
「今から二人の写真集作成のために、写真を撮らせて頂きまーす!」

 “二人”は、もちろん白哉と千本桜を指している。乱菊が高らかに告げた言葉が、室内の気温を一気に低下させたような気がした。千本桜の予想通り、白哉の機嫌は最悪だ。

「何度も言わせるな。私は……」
「白哉坊、あの写真を写真集に使われてもよいのか?」
「!」

 先程夜一が手にしていた写真を思い出し、白哉は固まった。あんな幼少の頃の写真を使われては、たまったものではない。

「貴様……」
「“あの写真”って、何ですか?」
「見てみるか? 白哉坊の幼い頃の写真じゃ」
「朽木隊長の!? ぜひ見せてください!」
「あたしもびゃっくんのちっちゃい頃、見てみたーい!」
「……貴様ら全員、覚悟しておけ」

 夜一という強力な助っ人のせいで、散々な目に合う羽目となった白哉。やはり此奴に関わるとろくなことがないと、改めて実感させられるのだった。

「主まで……」
「大丈夫ですか、千本桜殿?」
「よかったなァ、千本桜!」

 まったく逆の言葉をかける袖白雪と風死。氷輪丸がその横で「すまない」と、謝罪していた。

「さ、早く外しなさいよ」
「……やはり、面頬は止めないか」
「往生際が悪いわねぇ。ほら!」

 無理矢理、灰猫が千本桜の面頬に手をかけ外しにかかる。もちろん千本桜は振り払おうとするが、風死と氷輪丸がそれを邪魔する。

「くっ……離せ、貴様ら!」
「大人しくしとけよ」
「すまない、主のためだ」
「俺も主のために貴様ら全員散らしたいがな!」
「やっとですね!」
「素顔はいけーん!」
「ふざけるなーっ!」





 かくして、この斬魄刀と持ち主による主従写真集の発売は成功した。発売された写真集の初版はすべて完売し、現在どの写真集も重版中らしい。
 中でも、普段は決して見ることのできない白哉の寝顔や、面頬が半面状態の千本桜など目白押しな写真がたっぷりの二人の写真集は、誰よりも完売が早く評判がよかった。ちなみに、袋とじには夜一によって白哉の幼い頃の写真が使われたらしい。
これがまた反響を(特に女性死神から)呼び、「次は朽木隊長の子供時代の写真集をお願いします!」という声が次々に上がったとか。もちろん、オファーのきた白哉はすぐさま切り捨てた。
 粘りに粘った千本桜は、面頬を半面状態という条件でしぶしぶ灰猫たちを納得させたが、期待を裏切らず素顔が美形ということを知らしめる結果となってしまい、「次は仮面をぜんぶ外して素顔を見せてください!」という声が次々に上がったとか。もちろん、オファーのきた千本桜は――以下略。

「いつか必ず潰してやるぞ……女性死神協会」
「彼奴ら、絶対に許さぬ!」

 恋次が「こんな感じにできてましたよ」と、わざわざ買ってきた写真集を、二人はぐしゃりと握り潰した。ただし、恋次が一緒に買ってきたであろう雪主従の写真集は綺麗なまま横に置かれてある。余談だが、その雪主従も自分たちの慕う桜主従の写真集はしっかりと入手していた。





後日談


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