4.神さまのお使い

「――巫女ではないあなたは何?」
 ただ指一つ分にじり寄ったリエンの気迫に三歩下がった巫女は、よろけた体を捻るとまた踊って見せた。恐れてはいない。なんだこの娘、きもったまがすわっていやがる。巫女がにやりと半月で笑う。
「あれはなんでもないよ。他のお呼ばれされた巫女と間違えられたみたい。ぼくは巫女じゃない。」
気持ち良いほどにあっさり認める。
「村の祭りにとんだ神様が呼ばれたようね。悪魔あり、嘘つきの娘あり。世も末と言われるはずよ。」
 荒れる予感に続きは家で話そうと促すクロをリエンが軽率と叱る。悪魔が悪魔のような娘を威嚇するのも見物であるが、リエンは人に近過ぎる。とことんやっかいに関わりたくないだけ。娘が積荷を積んだ舟のように見える。今にも沈みそうに見える。クロが手助けに入るだろう。
「さあ、では巫女さんは本物が来る前にドロンしようか。手伝うから。」
 ほうらみろ、リエンが口だけで喋る。
「そうでなくても外に待ち人がいるもので、行かねばなりません。」
「では要求を伝えたら速やかに去りなさい。ここは世の孤島。静かな生の場所。今は星祭。人の安息の日。乱すべきじゃあないわ。」
「あなたの住処をおびやかしはしません。」
 返された言葉に悪魔がはっと一笑した。クロの後ろに控えるように下がる。続きを促す。娘は悪魔と話していると分かっているだろうか。素のままである。舞台で舞う姿、初対面にして勇ましい態度。幼いながらこの姿勢の良いこと。はっきりと自らの旅路を告げる。言うには、
「神さまのお使いに行きます。」


 あなたもそこに加わるべきだ、次の句はそう続くのだろう。しかし巫女はそこまで言わなかった。お使いだって?さしものクロが呻く。煤かぶりのランプから覗く光はしかし楽しげに煌いて。この男はいつだってそうなのだ。戯言を笑うよりも楽しいやり方を選ぶ。夢を見ている気がしてリエンは頬をつねった。星見の香にやられたか。いやいやまさか。
「小鳥の誘惑は強引よ。気を付けなさいな、クロちゃん。」
 祭りの輪から外れながら、三人は闇の中を移動する。声が聞こえたのだ。村人の声ではないものが。いつまでもこうしてはいられない。自分たちは既に娘を庇う形になっている。潮に流され始めている。綱をほどいたのはいったいだれ。問いながらもリエンは岸を見やるだけ。不気味に静かな災いの悪魔。いいや、もの言わぬ少女。

 黒い髪が珍しいかい?クロが聞いた。自分たちに気を留めた理由を聞いたのだが、「いいえ、神さまのお使いに行くだけです。」とだけ返された。



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/ぱらり→



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