1.ひるめこうもり

「星の祭りに行こう」
「帰ればかクロ」

 ひるめこうもりの星が降る夜、星の祭りは開かれる。黒い夜空にぱちぱちと瞬くのは、こうもりの羽、そして音。こんな綺麗な夜だから、人は外に出て星空を眺める。変わった日は、変わった事をしたくなるものだ。ざわつく足を百足の様に動かして、夜、彼らは祭りに興じる。

 うかれた大人に混じり、酒をちょろまかした少年が一人。おや、型抜きにされた星の光は、少年の頭にも届いて居ないのか。彼の髪、そして瞳は漆黒だった。炭の黒。その熱い炭からちろちろと漏れる赤は星の輝きに似ていた。星を内に飼うのだろうか?いや、違う。陽光にさらせば分かるが(それは後程確認して頂こうかな)、星ではなく太陽だった。硝子を掛けて煤だらけになったランプだった。
 本人は磨こうとも思わない。周りも輝くとは知らず磨かない、あるいは価値を知りながらあえてそのままにする。だから周りはランプをこう呼ぶ、
「クロちゃん、祭でうかれるなんてつまらないわ。」
 そうクロと。彼が語らぬ本名に、クロという名は覆い被さりつつあった。
「そうだよな、リエン」
「そうよ」
「だから行こう」
「帰ればかクロ」
 互いに話を聞いているのか、先刻からこの会話は堂々巡りしている。少年の黒髪を掻き混ぜた女の子、リエンと呼ばれた彼女は机の上に足を掛けて休憩のポーズ。動かない事を告げる。
「今回もきれいな巫女さんをみられるよ。」
「賑やかね。行ってらっしゃいな。」
「リエン……。」

 ここは村から外れ、目をつぶって呼吸を止めて二、三歩歩いた場所にある黒い森。
少年の髪を漆黒と言ったが、森は渦巻く螺旋の先端から絞り出された様な黒をしていた。
祭で賑わう樹間の村は、森の木々の恩恵で出来ていたから同じ色だ。調和の取れた質素な暮らしが営まれている。

 村人に倣い、森を住家とする少女も質素な暮らしをしていた。しかしそこには抑鬱されたものがある。沼底の泥を掬って固めたのが彼女の家だった。歓迎された存在でないのは明らか。
「人間の祭には参加しないわよ」
 強気に放つ言葉は的にすとすとと刺さる。的は穴だらけ、それに寂しさを感じられるのは今のところクロだけだろうか。お節介と分かっていても、彼はリエンを星の無い星空の下に出したかった。ぱさぱさした雪が降るような夜を、今日は何となく歩きたかったのだ。

 村人の祈りが聞こえる。
 明日なんて無い、当たり前の話だが現実感は薄い。でも少なくとも寂しい毎日を通る彼らはそれを知っている。だからこそ、特別な夜には歌い踊るのだ。祭は形式に則り進行するが、意味は失われていなかった。幸いだろう。
 暗い時代だが、人は安心して闇に染まっていく。


-2-


*/ぱらり→



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -