アフィニティ
ピンポーンと軽いインターホンの音が鳴り響く。普段なら私の方がバタバタと玄関まで行くのだが今日は違う。荒北との宅飲みは相変わらず続いているのだが、何回かに1回の頻度で荒北の部屋でも宅飲みを開催している。同じアパートの同じ間取りなのだからそう変わるところはない気もするが、部屋のレイアウトや置いてあるものが違うだけで全然違う空間に足を踏み入れた気持ちになる。
「いらっしゃァい」
珍しくメガネをかけた荒北に出迎えられ部屋へと足を踏み入れる。書きかけのレポートを仕上げるからとパソコンに向かう荒北にことわって私はキッチンを借りることにした。
荒北の部屋を借りるのだからお礼にと、何かつまみやら晩御飯やらを作ることにした。今日のメインはハンバーグ。携帯とにらめっこしながら肉を捏ねる。
「ハンバーグゥ?」
横からひょっこり顔を覗かせる荒北は少し眠たそうな顔をしている。
「そうだよー。荒北、眠たそうだけど、少し横になってたら?」
「んー、アー、大丈夫だけど酒飲んだらそっこー寝そう」
そんなことを言いながらも彼は既にビール缶に手をつけようとする。せめてご飯が出来るまで待ってよ、とたしなめ部屋へと戻した。
数十分後、焼きあがったハンバーグを片手に部屋へ向かうと黒髪の彼はテーブルに突っ伏していた。
「荒北…?」
ハンバーグを置き顔を覗き込むと閉じられた瞳と小さく聞こえる寝息。お疲れ様と頭を撫で手近にあった毛布を掛けてあげる。たまにはこんな日もいいのかなと彼が起きるまで待とうとすると彼の手がもぞもぞと動く。荒北? ともう一度声をかけるも生返事だけが一言二言返ってくるだけで、ぎゅっと私の左手を握り彼はまた寝息をたててしまう。彼の右手から伝わる体温が何故かひどく熱く感じ私の全身を火照らせていく。恥ずかしいな、これ…なんて思うけれど手放すこともできずただ彼が目覚めるまでじっとしているしか出来なかった。
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