テキーラ・サンセット



きっかけ、なんて正直あってないようなものだ。1年くらい付き合っていた彼氏と別れた。原因は向こうの浮気。浮気したくせに悪びれもしない態度がカンに触って啖呵切って別れてきた。それでも怒りの炎は燃え盛ることを止めない。こりゃもうアルコールで鎮火するしかない。そう思った時に出会ったのがアイツだっただけだ。

「あれェ? なまえチャンじゃん」

何してんのォってスーパーなんだから買い物に決まってる。彼は私の買い物かごに大量に入れられたアルコール類を見てやけ酒ェ? と喉を鳴らす。

「そうだよ、荒北今日暇?」
「超ヒマァ」
「よし、付き合って」
「イイよォ」

意外とあっさりふたつ返事で了承してくれた彼は私からかごを奪い、自分もビールやらなにやら酒を買い込む。つまみもいくらか買って帰路につく。そういえば荒北と二人で宅飲みするなんて初めてかも。

「サシで飲むのは初めてだねェ」
「そうだね、お隣さんなのにね」
「まあそうだねェ…」

買ってきたアルコール類を机に並べ各々好きなものを手に取る。プシュッと気持ちの良い開封音が鳴り私達は顔を見合わせて乾杯と缶をぶつける。

「なまえチャンでもやけ酒すんだねェ。なんかあった?」

酒の力とは凄いもので思わず今日の出来事が口から溢れ出してしまう。荒北はそれを黙って聞き話が終わると一気に酒を煽った。

「そういえば荒北彼女は? 怒られない?」

彼とふたりきりになったことがなかった原因の1つだ。私には彼氏が、彼には彼女がいた。

「ンー、別れたから大丈夫」
「えっ」
「え?」

聞いてないと言うと言ってないと返される。つい2週間ほど前に別れたのだという。聞いてみると、自転車が最優先になるがそれでもいいならと始まった恋だったらしいが、最近になって自転車優先なのが耐えられなくなったと別れを告げられたらしい。

「まァ仕方ねぇんじゃないのォ」
「そんなことはないと思うけど…」

よしよしと頭を撫でると彼は気持ち良さそうに目を伏せる。珍しいな、新開や真波ならともかく荒北がこういうの受け入れるって。それだけ弱ってるってことなのかな、なんて考えてると不意に腕を引かれる。倒れ込むように前のめりになるのを荒北の身体が支えてくれる。

「荒北…?」

声をかけても返事はなく、少しだけだよと軽口を叩きながら彼の温もりを受け入れる。特に何をするでもなくふたりだけでじっと抱き合う。傍から見れば変な光景でも今の私たちが己の傷を癒すために他に方法は…きっとなかったんだと思う。


気づけば私は布団の中にいて、床には荒北が転がっていた。

「ん、あぁ起きたァ?」
「ごめん、寝ちゃってた」
「いいよォ。んじゃ俺帰るから」

隣なんだから別に帰っても良かったのに、なんて言うと鍵開けっ放しで帰ったら危ねぇだろォと返される。また飲もうねと呟くとひらひらと手が振られるだけでそのまま彼は帰っていった。

アルコールの缶を片付けて再度布団へと潜る。怒りの炎は気がつけば鎮火されていて自分が思っていたよりも深く眠りにつくことが出来た。






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