※年齢操作、現代パロ/ホラー要素少々有
 
 どうやら「俺」がもう一人居るらしい。青銅に言われて知った。
 昨日、青銅は俺のことを大学近くの喫茶店で見たという。俺の家から大学へは電車で1時間半は掛かる。交通費だって馬鹿にならない。なので基本俺は、講義の日やサークルで集まりがある日以外は大学とその周辺には行かないのだ。昨日はサークル活動もなく休日だったので、地元の図書館で勉強をしていた。だから絶対に大学周辺に居ることはないはずなのだ。なのに、何故。

「お前マジでそこに居なかったの?」
「あぁ。提出期限間近のレポートを終わらせるために、図書館に居た」
「えぇーおっかしいなぁ…あのとき見たの絶対お前だと思ったのに」

青銅は訳が分からないとでも言いたげな顔をした。それは俺だって同じである。いきなり居るはずもない場所で見かけた、なんて言われて動揺しない人間がどこにいるというのか。

「誰かと見間違えたのではないのか?」
「馬鹿野郎、白い長髪の色白イケメンなんてそうそういねーよ」
「そ…そうか…?」

イケメンという言葉に疑問を覚えつつも、確かにこの容姿は珍しいのかもしれない、と考える。

「…見間違いならいいけどな…」

青銅が神妙そうに呟く。俺は意味が分からなかった。


 それから数日経って、今度はカイにも同じようなことを言われた。丁度講義の無かった日、大学の近くで"俺"にばったり会ったらしい。しかも今度はその"俺"と話もしたそうだ。勿論、俺自身に覚えはない。

「えぇ…お前じゃないなら俺が話したの誰になるんだよ…」
「それはこっちが訊きたい」

本当に訳が分からない。ドッペルゲンガーかと思ったが、そんなものは空想上の世界であって、実際にあるとは思えない。

「白竜と話したと思ったら本人は違うって言うし、最近シュウも見ないし。変だなぁここ最近」

言われてみればそうだった。気付けばいつも傍に居るシュウをここ最近見かけない。俺もカイも、首を傾げた。


 レポートを仕上げるために机に向かう。提出日まではあと一週間近くあるが、早めに終わらせるのが俺の性格だ。物事は余裕をもって終わらせる。今のレポートは、あと7〜8ページで終わらせられそうだ。今日中に終わらせるため、気合を入れるべく飲み物を台所へ取りに行こうとした。と、インターフォンのベルが鳴る。夜に尋ねてくる人間なんか居ただろうか。疑問に思いつつ玄関へと向かう。
 防犯の為にチェーンを掛けたまま恐る恐るドアを開ける。そこには、ここ数日見かけなかったアイツが立っていた。

「やぁ、元気にしてた?」



 とりあえずリビングに通し、麦茶を出す。シュウはソファに座り、テレビを勝手につけてくつろいでいた。こいつは俺の家に来るといつもこうなのだ。

「で、なんでこんな時間に俺の家に来たんだ。そもそもここ最近見かけなかったのはどうしてだ?何かあったのか、心配したんだぞ」
「まぁまぁ落ち着いて…」

訊きたいことがあり過ぎてまくし立てる俺を見て苦笑いしながら、シュウは俺を落ち着かせようとする。俺と違って、こいつはいつも冷静だ。沸点が高いのか、俺が只単に低いだけなのか。少し落ち着いた俺は、もう一度シュウに問い直す。

「何があったんだ」
「いきなり来たね…まぁいいや。…うーんそうだね、準備?っていうのかな。ちょっと、ね。別に病気になったり事故に遭った訳じゃないから心配しないでよ。」

それでさ、と言いながらシュウが近寄ってくる。漆黒の目は、何を考えているか分からない。発言は優しいが、こいつはなかなか腹黒いと思う。それは付き合いが少し長い俺とカイ、そして青銅なら分かることである。初対面の人は大抵純粋で良い人だと思うが、裏は割と計算高いのだ。

「最近何か変なことなかった?」
「変なこと…?」

少し考えてからあぁ、と思い出す。例のドッペルゲンガーだ。俺はシュウに説明をした。自分が居る筈のない場所に俺を見かけたという情報。しかも、その"俺"と会話までしたという話。シュウは黙って聞いていた。茶々も入れずに、ただ俺の声に耳を傾けていた。
 自分で話していて、なんと非科学的なのだろうと思った。それと同時にとても怖く感じた。今こうしてシュウと話している間にも、もしかしたらもう一人の俺が何かやらかしているかもしれないのだ。犯罪なんか起されたら、その瞬間俺の人生は終わり。ジ・エンド。俺自身は関わっていないけれど、犯人にされてしまうのである。早くどうにかしたい。

「へぇ…不思議な話もあるもんだね…」
「別に今は何も被害は出ていないんだが…これから何があるかも分からないからな、少し心配だ」
「まぁ大丈夫だと思うよ、それもじきに終わるさ」
「…何故そう言える」

ふ、と意味深に笑ってから、シュウはテレビに視線を移す。何かを感じ取った俺は、それ以上この話は出来なかった。


 大学の講義後すぐバイトのシフトを入れてしまい、とても後悔した。終わったのは夜の11時。そこから家に帰るまでも1時間はかかるので、余裕で日付を跨いでしまった。体の疲労が尋常じゃない。駅からアパートまでの道程が酷く遠く感じる。
 流石にこの時間ともあって、人通りは殆どない。だから、俺以外の人間が歩いていたらすぐ分かるのだ。
 ぼうっとしながら重たい足を進めていると、後ろから足音が聞こえた。たまたま方向が一緒なのだろうと最初のうちは気にしなかった。けれど、何かがおかしい。ずっと後ろに居るのだ。まるで"付いてきている"、そんな感じ。試しに一度足を止めてみる。と、後ろの誰かも足を歩みを止めた。

「…!?」

足音が止まったのを聞いた俺は、悪い汗が止まらなかった。背中を汗が伝う。怖い、怖い!!誰だ、誰が一体後ろに…そこまで考えて、ふとここ最近の奇妙な出来事を思い出した。そして、一番考えたくなかったことに行き着く。
―まさか"俺"は、俺を殺しに来ているのではないか?無いとは言い切れなかった。俺が殺されても、"俺"が俺として生きれば何も問題がない。俺の人生を奪い取ればいいのだ。
 自分で考えて、非常に恐ろしくなった。嫌だ、そんなのは絶対に嫌だ!今まで培ってきた友達や、折角入った憧れの大学。奪われたくない!!
 気付けば走っていた。早く自分の家に帰りたかった。体の疲れなんて気にならないくらいに必死だった。

「嫌だ…嫌だ…っ!」

自然と涙も零れていた。死にたくない、その一心で走っていた。
 "俺"がついてきたのはアパートの前までだったが、俺はそんなのにも気付かないくらいに一心不乱で部屋に入った。着いたと同時に鍵をかけ、その場にしゃがみ込む。

「うぅ…っ…うぅぅ…」

泣いていないと心が保てない。何故俺がという気持ちと、どうすればいいのか、このままだと命が危ういという事実に頭が混乱していた。

ガチャ

物音に驚きドアを見るとドアノブが上下していた。鍵はかけているから開かないが、これは外から開けろと圧力をかけている証拠だ。

ガチャ…ガチャガチャガチャガチャガチャ

さっきよりも動きが激しくなる。

「うわああああぁぁぁぁっ!!」

部屋の奥に逃げるが、それでもまだドアノブの動きは止まらない。俺は完全に冷静さを欠いていた。パニックに陥り、兎に角誰か助けを呼ぼうと電話を取る。

「誰か!!誰か助けてくれっ!!!」
「白竜!僕だよ!!開けて!!」
「!?!?」

俺は一瞬止まり、そしてドアに呼びかけてみる。

「シュウ…シュウなのか…!?」
「そうだよ!白竜一体何があったの!?」

誰か知り合いが来た、それだけで俺には救いの手だった。震える体を鞭打ち、ドアへと向かい急いで開ける。そこには見慣れたシュウの姿。彼を見た瞬間、俺は心底ほっとしたのかその場に崩れ落ちた。心配したのか、シュウがしゃがんで俺を支えてくれた。

「白竜!?」
「シュウ…怖かった…怖かった…お前が来てくれなかったら…俺は…っ」
「僕は此処にいるよ…大丈夫…?連絡しても出なかったから心配になって来たんだけど…」
「いい…お前が来てくれただけで俺はもう…」

無意識のうちに俺はシュウに抱きついていた。シュウも俺に答えて抱きしめてくれる。

「怖かった…っうぅ…死ぬかと思った…」
「怖いよね…もう大丈夫だよ…」

シュウは背中を撫でてくれた。その手が心地よくて、あぁ、俺はシュウが好きなんだなと自覚させられる。いつも傍に居る、ピンチになると現れてくれる。きっとこいつは、俺のヒーローなのだろうと、そう思った。
 撫でているシュウの顔が笑顔に満ちていたことを俺は知らない。


 大学の帰り道をシュウと一緒に歩きながら、俺はこっそり相手の手を握る。
 あの夜から数週間後。あのときもう一人の"俺"が現れてから、そいつが現れることは無くなったし、見かけられる話も聞かなくなった。一体あれが何だったのか、知る由もない。白昼夢だったのだろうか、分からない。

「シュウ、」
「何?」
「大好き、だ」

しかしその正体が何だろうと、今の俺には関係ない。あの一件で俺はシュウに対する気持ちが明確に出来たし、それによって俺とシュウは両想いだったことが発覚したのだから。

「僕も大好きだよ、白竜」

シュウは今日も純粋そうな顔で笑う。





忘却様に提出させて頂きました!

(このお話の解説

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