鍵盤と兄と彼と2
「えっと…お兄ちゃん達と零くんと松田さん、伊達さん萩原さん…の、6枚だよ
ねぇ、バルコニー席でいい?」
『えぇ問題ありませんよ。
ただ、私と景光達は離れた席にしてください。
彼らと一緒だと騒がしくてならない…』
「えぇ〜!久々に会えるのに!」
『今はもう自由に会えるでしょう?』
「はいはい…じゃあ反対側のバルコニーにしとくね」
『楽しみにしてますよ』
「ふふ、ヒロ兄ちゃんが『高明兄ちゃんの為にも続けろ』って言ってたからね」
『それはそれは…正しい判断だ』
────上の兄が苦笑してるのが手に取るようにわかる。
そんな話をしながら見るのはタブレットの画面。
タブレットは壁から出たコードに繋がれている物。
ピリリリリッと仕事用の携帯が着信を告げる。
『仕事用だね。
それでは切ります。当日は楽しみにしてる』
「ごめんね。じゃあ当日」
電話を切りもうひとつの携帯の画面を見れば『零くん』の文字。
「…もしもし?」
『美織?』
「なんでこっちに…」
『ずっと話し中だったからな。
チケットありがとう。さっき受け取ったよ』
「いえいえわざわざありがとう
みんな来るでしょ?」
『あぁ恐らくは…なぁ、始まる前に楽屋に行っていいか?』
「え?別にいいけど…」
いつも終演後来てくれるはずだが、と思えば思考を読んだのか『全員でじゃない』と言う。
『俺だけだ』
「っ…わかった待って「ダメに決まってるだろゼロ」ヒロ兄ちゃん!」
後ろから携帯を奪って零くんと話す兄は私から離れていく。
返してくれないと困るんだけど。
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いいペースだと思ったのにとんだ邪魔が入った、と舌打ちを漏らした。
「さっさと妹離れしてはくれませんか?義兄さん」
『ははは義兄さんって呼ばれる筋合いはないよゼロ』
「余計なことを…」
『余計?可愛い妹をそう易々と渡すわけないだろ?いくらお前でも』
脳裏ににっこりと貼り付けた笑顔を見せる幼馴染の顔が浮かんだ。
恐らくは電話口での表情だろう。
「…いつもいつもお前は…」
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