酔いどれ小悪魔
「零さんもそろそろこっち来たら?
おつまみもう十分だよ」
「そうだな…」
佐久間家のキッチンを己の城のように扱う男、降谷零。
リビングでは警視庁機動隊爆発物処理班である松田陣平、萩原研二、ゼロ、つまり公安の諸伏景光、そしてアメリカ連邦捜査局FBIの赤井秀一が揃って酒を煽っていた。
「ほらほら〜美織ちゃ〜ん!
グラスが空いてるよ〜」
酒を勧める萩原の表情は口調とは裏腹に全くの素面だ。つまり、空気に酔っているだけで一切この男は酔ってはいない。所謂悪ノリだ。
一方年上の男達とは違い20を超えてまだたいして時は過ぎておらず酒に慣れている訳でもない美織は少しだけ酔いを自覚していた。
「萩原、あまり飲ませるなよ」
さすがに目に余ったのか諸伏が釘を刺すも持ち前の口の上手さか「失敗するなら自分たちの前での方が対処出来る」等と勧める手を緩めやしない。
間違ってはいない、と溜息をつきつつもそれを見るだけの男達は正直な所完全に酔った彼女の様子に少し興味があった事も嘘ではない。
「あ〜も〜酔って気持ち悪くなったら嫌だから余り入れないでよ研二さん…!
酒瓶突っ込むよ!」
「お?勝負するか?」
「絶ッ対に嫌!負け確じゃない!」
「萩原遊び過ぎだ」
眉間に皺を寄せた降谷に注意をされ、流石にその手を止めたのだが「うっざい!」と美織は手元にあったグラスを勢いよく掴み、確認もせずに煽った。
ドンッとテーブルの上にそのグラスを勢いよく下ろして美織は顔を上げない。
「美織?」
「どうした?」
その時になってようやく赤井は自分の元にあったグラスが消え、彼女の手に掴まれているのを確認した。
「…まずいな」
「なんだ赤井」
「へへへ…け〜んじく〜んあっそびましょ〜!」
急に顔を上げたかと思えばどっと勢いを付けて萩原へ飛び付いた。
「っとなんだどうした?」
突然の豹変に困惑しつつもしっかりと抱きとめた事を自身で賞賛し、顔を見れば目がトロリとし頬が先よりも赤い。
あまり酔いが顔に出ず、顔もそこまで赤くならないタイプの彼女がここまでとは…。
「えっいやマジで酔った?」
「んふふふ…ね、けんじさんすき〜」
「は…?」
首に腕を回し抱き着かれた萩原は状況が読み込めないらしくかちりと固まっている。
「っ美織!離れろ!」
松田がそんな彼女を引き剥がせば「やぁ〜」となんとも高い声を出し酔いから潤んだ目で彼を睨みつける。だが、身長差で上目遣いで睨んでいるのにも関わらず潤みと相まって破壊力を発揮していた。
「っ…」
「何してんだ?」
「…はぁ…俺のを飲んだな」
「…まさか…」
赤井の小声を拾ったのは隣に座っていた諸伏だ。
「まさかライの濃いバーボンを…?」
「…あぁ」
「…そりゃあ酔うに決まってるしなんならぶっ倒れなかっただけマシだな…」
「なにはなしてるの〜?」
「部屋に連れてくか」
冷静な三人に捕まり寝かせようと部屋へ誘導されようとした時
「やだ…ねたくないの…」
と腕を掴み立ち上がらせた降谷見上げながらそう宣った。
「っおま…え…」
「ホォー…これは…」
「タチが悪いな…」
赤井は興味深そうに顔を覗き込み、諸伏はため息を吐いて顔半分を自身の手で覆った。
「まぁ、まぁまぁまぁ…!まだ寝かさなくていいだろ」
復活したらしい萩原がニヤリと美織の首に腕を回せば「やだ、いましゅーいちさんとはなしてるの!」と振りほどき赤井の腰に腕を回して抱き着いた。
「ふふふ」
上目遣いで赤井を見上げて抱き着いてくる姿に「俺が部屋まで連れていこう」と言って抱き上げた所で「いいわけないだろ赤井いいいい!!!」と降谷の静止が入る。
「何する気だ!」
「随分野暮な事を聞くな降谷くん」
「殺す!」
「ゼロ落ち着けって!ライもゼロを煽るな!」
「俺は何も冗談は言ってないが?」
「赤井さん流石に美織に手ェ出すのは看過出来ねーよ俺も」
ひょいっと首を突っ込む萩原。
だが、いつの間にやら赤井の前から美織が居なくなっている。
「あ〜じんぺーさんタバコ〜」
「はぁ?」
「ふへへ…じんぺーさんの匂い」
ぎゅっと抱き着きすんすんと鼻を鳴らす。
「ん゛ん゛ッ
おいこれは合意ってことでいいんだよないいだろ確実に誘ってるだろふざけんな何年我慢してると思ってんだ」
「誘ってもねぇし合意でもねーし泥酔者に手を出そうとするな松田ァ!!!!懲免にすんぞ!!!!」
「あぁ?」
「あぁ?じゃない!」
ぐっと美織を引き剥がして今度は降谷が抱き上げた。
「ん〜れーさん…なぁに?さみしくなっちゃった?」
「…寝るぞほら!」
「やっ!ねないの〜!
まだみんなとおさけのむの!」
「駄目に決まってるだろ?もうべろべろじゃないか…」
「よってないもーん!れーさんのばかぁ…」
「酔っ払いはみんなそう言うんだよ!ロクでもない!ヒロ!」
「ハイハイ連れてく。
おいで美織寝ようか」
「景光さん…」
降谷は目線で早くそのめんどくさいのを寝かしつけろと言っている。
半分寝てるようなものだから寝室へ運べば終わるだろう。
「(全く…大人の男5人も振り回すなんて…)」
酔いどれ小悪魔翌朝頭が痛い…と半分死んでる記憶のない彼女から5人は目を逸らしていた。
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