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彼の幸せ2

その日を境に松田がどうにもおかしい。

「美織、いい加減松田ってやめろよ」

「はぁー?今更何」

「陣平って呼べよ」

「なんでよ」

「俺が呼ばれてぇから」

「意味わかんない…」

どうにも様子がおかしいとしか言えない。
第一生き残ったのだから佐藤刑事と引っ付くんじゃないの?
そうすると高木刑事がフリーになっちゃうのか…

飄々とする松田に最近癖になってしまったため息をついた。
確実に松田と佐藤刑事は想い合っている。
そう思わないと、流され惑わされそうになる。
なのに、どうして私にそんなことを言うのか。

なんとも言えないような、端的に言えば口説くようなことを。
それに私はただのOLで、引越しなんぞする予定もなく同じ部屋に住んでいるが、公務員で優秀な松田が未だに私の隣に住むのも違和感を覚える。
こいつの給与ならばもうツーランクは上のマンションくらい住めるだろうと思うのに。

そんな松田だが、強要するようなことは全くせず本当に口だけ。
ここまで来ると揶揄っているようにしか感じないが、それを言えば今の関係も崩れてしまいそうで言えない。

だからこそ私はこの「少し仲の良い同級生」のままでいる。

そんな私がもう29にもなったある日のこと。
甥の新一は世間で高校生探偵と名を轟かせ、警察からの捜査協力を求められるほど有名になっていた。
名探偵爆誕、という感じだ。
サッカーの腕もよく、部ではエースで校外では高校生探偵。そして私は失念していた。
年に4、5回会う程度だったからなのか、30年近くも昔のことだからか、新一が「コナン」になってしまうのが今年であることを。

冬のある日、突然兄家族の家、現在は新一のみが住まう家の隣に住む科学者の阿笠博士から電話がかかってきた。

「もしもし?」

『もっもしもし!?美織くんかね!
すぐにこっちへ来てくれんか!』

「え?」

『急ぎなんじゃよ!頼む!』

「わ、わかったわ…」

時刻は既に九時を回っていたが、必死な博士の様子に家を出て車を出した。

前に来たのは夏だったか、と思いつつ門を開き玄関扉に手をかけ兄の自宅である屋敷に足を踏み入れた。

「博士ー?新一ー?」

「お、おぉ美織くん!
すまんがこっちに来てくれ」

案内されてついたのは図書館かと思うほどの蔵書を誇る書斎。
そこに居たのは新一だった。
いや、私からすれば間違いなく甥っ子の新一なのだが、その姿は10年ほどは昔の懐かしいものでどこからが引っ張り出したであろう子供服も相まって懐かしい装いをしていた。
そこで気づいた。物語の始まりを。

「えっと、博士?」

「実はのぅ…」

「博士のバーロー!なんで美織ねぇを呼んだんだ!」

「ワシらだけでどうにか出来んじゃろう〜」

「…新一?」

「っ…あぁそうだ…」

さてどうするか。知らないふりをしておくのが得策だろうか。

「蘭とトロピカルランドに行ってちょっとな…」

「いやちょっとって話じゃないでしょ!何を言ってるのあんたは!兄さんや義姉さんに連絡は!?」

「い、言えるわけねーだろ!」

「はぁ!?」

「とにかく!俺がこうなったのはトロピカルランドで黒ずくめの男とおっさんが怪しい取引をしてるのを見ちまって…で、後ろから殴られて薬を飲まされたんだよ」

「…それ何ていうファンタジー?」

「な訳ねーだろ!現実だ現実!!
謎の薬で体が縮んじまったんだ」

ムッスリと言う新一によく考えると呆れるしかない。

「…へぇ…でもその姿じゃ一人じゃ無理よねぇ…
生活も、その黒ずくめの二人を追うのも」

「そうなんじゃよ…そこで「新一ー!」!?ま、まさか」

「新一いるのー?」

「あんた蘭ちゃんには…」

「い、言ってねー」

「か、隠れるんじゃ!」

新一を机の影に押し込め隠すとギリギリで蘭ちゃんが書斎に顔を出した。

「あれ?博士?に美織さん?新一は?」

とキョロキョロとする彼女はこれから辛いことが多くなるだろう事に罪悪感が募る。主に新一のせいで。

「い、いやー、それが新一は新しい事件で行ってしまったんじゃよ」

………と、そこからはたーぶん原作通り。
蘭ちゃんに私はと聞かれたが仕事で家を空けることもしばしばな訳で遠慮した形にした。

さて、名探偵コナン誕生ときた。

「坊主、いい加減家に帰れ!
ガキは帰る時間だ!」

「え〜!やだよぼくまだ美織ねえちゃんと居たい〜!」

「おい美織!」

「ねぇいいでしょ美織ねぇちゃん!」

私からすればこの会話は17歳と29歳の言い争いなんだが、コナン、基新一はなんで猫をかぶってまで居座るのかは謎で…6歳児に若干本気な感じの松田は少しおかしい。

その時、ピーンポーンとチャイムが響く。

「はーい…って義姉さん?」

「ごめんねぇ〜美織ちゃん!しんちゃ「コナンを迎えに来たよ」あら」

「兄さん?」

「げっ」

二人の声に新一が小さく声を上げた。

「ほら迎えが来たぞ〜」

「いや松田も帰れよ」

「隣なんだ。別にいいだろ」

「ごめんねぇ松田くんも〜ほらしん…コナンちゃん!あんまりわがまま言っちゃダメよ〜?
松田くんも美織ちゃんも困っちゃうでしょ〜?」

「で、でも〜!」

ちくしょう!母さんめ変なところで行動がはええな!二人っきりにしたらまた松田さんが美織姉を口説くに決まってやがる!

以上、新一の内心である。




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