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彼の幸せ

気が付けば、私は知っている人の妹として育っていた。
いや、知ってる人と言えば語弊がある。

「行ってきます」


兄が結婚した時に私は一人暮らしを申し出た。
自宅には一人なのだが、癖はいつまでも消えないようだ。
物心ついた時に前世の記憶に気づいた。
前世、だと思いたい。
私の気が狂っていないことを願うばかりだ。
どうやら私は記憶のある前世で漫画として読んでいた世界に生まれ落ちたらしい。

幼い子供が前世を覚えてるという件は世界中でいくつか報告があげられている。
とある海外の少年は見たこともないはずの船の絵を描き、それが海軍だか何かで使われていた船と酷似していた。
そして、少年の言うことを整理していくと実在した青年兵の存在にたどり着いた。

少年の語る死因と一致すらした。

少年の両親は、そこから大戦時に軍属であった者が集うパーティに少年を連れていった。すると少年はあろう事か一人の老人に話しかけたのだ。

しっかりと、初対面のはずの老人の名前を呼んで。親しげに。

と、いう話があったのを思い出した。
まぁ勿論絶対という確証はないし、それこそ、今現在ませている5歳の甥っ子、私から見れば主人公と言っていい工藤新一ならば「そんなひかがくてきなものしんじない」などと言うかもしれないが。

ガラリと扉をスライドすると私の席に座るくせっ毛の同級生。

「…松田邪魔〜」

「おう、来たか
はよ」

「おはよ」

と退くように言い空いた席に腰を下ろす。
全く。まさかこんなキーパーソンと接点を持つなど計算外だった。
私には兄のような推理力は皆無で、というか記憶があることからほとんどの知識が固定化されており、これ以上頭が良くなることもなかった。
小学生の間は無理して周囲に合わせていたが、中学高校と難しくなると無理をしなくても普通の頭だ。

良いのか悪いのかは私以外の人が決めてくれ。
さらに言えばこの松田、何かと私に関わってくる。
係決めやらそれこそ昼食の時間すら。

将来彼は相応しい人と好き合うのだから、と一定の距離を保っているが、まぁそれも卒業まであと数ヶ月の辛抱だ。

──────と、思っていたのは5年ほど前のことだったか。どんな因果か松田陣平はなぜだか私の隣室に住んでいる。

「くど〜」

「うわっちょ松田あんたなにしてんの!?」

「あぁ?お前が帰ってくんの待ってたんだっての」

「は、はぁ?って酔ってんじゃない…
さっさと部屋入んなさいよ…」

「いいだろ、今日くらい」

酔っているとは思えない彼の真剣な声に、続く拒絶の言葉を飲み込んだ。

「…なに…」

仕方なしに部屋へ上げる。

「…信じられるかよ、あのバカが吹き飛んでもう一ヶ月が経つんだぜ」

あぁ、一か月前にやけに荒れて帰ってきたことがあった。そこではた、と思い出したのだ。
彼の親友、萩原研二の死のことを。

萩原くんとは松田を通じて知り合ったため、多少の面識はあった。警察関係者でない私は警察葬には赴かなかったが、松田とともに墓前に顔を出したのは記憶に新しい。
知り合いが死ぬのはこの世界では珍しくないとも思うが、そんなことは関係ない。
彼の遺体は見れたものでなかった、という範疇ではない。遺体であると説明がなければ分からなかったらしい。詳しくは松田も語らなかった。酔った勢いで口を滑らせたがそこで留まった。

「…工藤、俺は萩原の仇を討つ」

あぁ、やはり、そうだと思った。
そしてパタリと意識を飛ばした男を運べるわけもなく、ブランケットを肩からかけて寝かせてやった。

宣言したあとに聞こえた言葉は小さすぎて聞こえなかった。

────さてさて、そんなことから三年の月日が経った。
松田はあいも変わらず私の部屋によく来るし、最近では捜査一課強行犯係に転属したと報告をしてきた。そろそろ、彼とこんなふうに過ごすのも辞めるべきだ。
あれだけ読んでいた話も20数年経てば細かなことが思い出せないでいる。しかし、萩原くんの命日であることだけは覚えていた。
今日はたまたま、少し熱っぽくて米花中央病院に来ていたところ、立ち入り禁止区域に周囲をキョロキョロと挙動不審に入っていく男を見かけた。
兄がよく事件解決をしていたし、巻き込まれることも少なくなかった。手には紙袋を持ち慎重にそれを扱っている。
どことなく気になり、器具室と名称が書かれたプレートの扉を静かにスライドさせる。

男は奇妙な笑い声をあげながらカチカチと音を立てる機械を置いた。
素人目に見てもあれは爆弾だろう。
男に気づかれぬように待合室に戻る。
大きなそれが爆発すれば一体どれだけの犠牲が出るのやら。少し抜け出しテレフォンブースで目暮警部に電話をかけた。

今彼も忙しいらしく慌てたように「なんだね!?」と電話をとってくれた。

「今、米花中央病院にいるんですが怪しい男が、恐らくその、爆弾を置いていくのを見まして…」

そこまで言うと目暮警部は「なにぃー!?!?」と大きな声を上げると電話の向こうで「もう一つの爆弾の在処がわかった!至急松田くんに解体を完了次第直ちに観覧車から降り、現場に向かうよう伝えろ!」と大声で指示を出すのが聞こえた。

松田 解体 観覧車

その単語だけで足が震えた。
そうだ、今日、彼は死ぬはずだった…
私が、爆弾を見つけなければ。
今になってドクン、ドクン、と心音がよく聞こえる。

数分後、警察が病院に来ると機動隊が爆弾を処理するようで入ってきた。

「美織くん!」

「目暮警部…」

「助かった!本当に…ありがとう…!」

「いえ、お役に立ててよかったで「美織!」…松田…?」

松田は私を見つけると、なぜだか抱きしめた。

「っ…お前、無事か!?
っていうか怪しいヤツ追いかけるとか無茶してんな!」

「は!?なによそれあんたに関係ないでしょ!?」

「まぁまぁ、松田くん、君のいうことは最もだが今回は彼女のおかげで君は助かったんだ」

「…爆弾がある場所にお前がいるって聞いて生きた心地しなかったぞ…!」

「そ、れは、ごめん…でも関係ないじゃん…」

そんなに慌てるのは、友人だからでしょう?
あなたには…

「松田くん!早く解体を!」

彼女、佐藤刑事がいるんだから。


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