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川下の 草木かき分け 蛍見ぞ 短し命 照らせしその身

夜、と言ってもまだ七時を回らないくらいの時間。

夏である現在はまだ明るく、人の往来も多い。


「じゃあ歩美のうちに来て!」

「え、もう7時だぞ歩美ちゃん」

「大丈夫!」


そう言われ、少年探偵団は歩美の住まうマンションへ歩を進めた。


「実は隣にね!すっごい美人なお姉さんが引っ越してきたの!」

「へぇ〜!」

「その人ね、ベランダで蛍飼ってるんだよ!」

「蛍?こんな街中で?」

「うん!見せてもらったんだけどね、ちいさな可愛い小川を作ってたの!今日も見せてもらいに行くからみんなも一緒に見よ!」

「すげえ!見てぇ見てぇ!」

「是非見てみたいです!」

「そんなすごいセットを持ってるなら私もぜひ見てみたいわ。ね?江戸川くん?」

「そ、そうだけど、こんな大人数で押し掛けて大丈夫か?」

「大丈夫だよ!お友達も連れてきていいって言ってたもん!」


と、連れられるままにエレベーターに乗ると


「あ!葵お姉さん!」

「あら、歩美ちゃん。と、お友達かしら?」

「うん!蛍見に来たよ!」

「そう。是非いらっしゃい」


話しかけながら乗ってきたのは葵と呼ばれた女性。


「葵、僕は帰るぞ」

「あら、資料はいいの?」

「…僕は子供が嫌いだ」

「なんだあの兄ちゃん」

「ごめんね?自分も子供のくせに」

「低レベルな煽りは受ける価値もない。
明日事務所で見る」

「はいはい。お疲れ」


男が乗ると思っていた葵は押しっぱなしにしていた開のボタンを離す。


「だぁれ?あのお兄さん」

「仕事仲間よ」

「ふーん…」

「性根が曲がってるけどちゃんと優しいから許してあげてね?」

「はーい」


という間にエレベーターは目的の階に到着した。

歩美の自宅の扉を過ぎると表札の出ていない家の扉を開く。


「どうぞ」

「おじゃましまーす!」

「今ジュース入れるけどみんな何がいいかしら?」

「俺コーラ!」

「僕も!」

「私オレンジジュース!」

「俺はコーヒー…」

「私と彼もオレンジジュースで」

「ヴっ…」

「分かったわ。
ベランダの右端から真ん中くらいに小川があるから草とかかき分けてみて」

「あ!いたぞ!
でもなんでねーちゃん上に網張ってんだ?」

「バーロー、網がねーと蛍が逃げるだろーよ」

「…逃げないわ」

「へ?」

「意外と逃げないわよ。この高さだと特に」


地上から数十mは離れたベランダ。
確かにそうかもしれない。

コナンは女性のその発言に怪訝そうに首を傾げ、部屋を見回した。

最近越してきたと言ってたとおり、まだダンボールの荷解きは終わっていない。


しかし、


「ねぇ、これ、さっきのお兄さん?」


棚の上に伏せていた写真立てには先ほどの愛想の悪いのに整った顔立ちの男が少年だった頃であろう姿と、目の前の彼女が少女とは言えないがもう少し幼い頃の姿ともう一つの人間が写っていた。


「え?
…ええ、そうよ」

「双子なの?」


もうひとりの人間は整った顔立ちの男に酷似した顔をしていた。
表情だけは似ても似つかないが。


「…ええ。でも、片割れはもういないわ」

「亡くなったの?」

「…秘密。
それより、ほら飲み物よ。
もう少しして日が落ちれば綺麗に光るわ」

「わー!楽しみ!」


微かに光っていた蛍が周りが暗くなると一層輝きを増した。


「綺麗…」

「蛍はね、短命なの
でも、その短命な命の中、こんなにも輝くのよ」


目を細め、そのすがたを見る彼女は蛍越しに何かを見ているようだった。


川下の 草木かき分け 蛍見ぞ
短し命 照らしその身



この光のように私に影響を与える人はその命を早々に散らして行ってしまったわ。

決して常人には理解してもらえないけれども、それでもいいの。

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