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あはれとも いふべき人は 思ほえで 身のいたづらに なりぬべきかな

「日高先生」

「はい?」

「はじめまして…ってわけでもないですね。
到着時に職員室で御挨拶させていただいた渋谷サイキックリサーチの吉河です」

「あぁ…心霊調査の…
なんの御用ですか?」

肩甲骨を越える程の長さの黒髪にリムレスの眼鏡を掛けた女性教諭。

「少し、話をお伺いしたくて
空き教室までご同行願えませんか?」

「…まるで警察の様な言い草ですね…
分かりました。調査には可能な限り協力する様、校長先生にも言われてますし」

「ありがとうございます」

──────────────

「おかけください」

「…あなたは…確か…」

ベースにはナルをはじめ、リン、滝川や麻衣たち全員がそろっている。

「渋谷サイキックリサーチ所長の渋谷一也です」

「そう、随分と若い子だったから覚えてます。
それで?私になんの用でしょうか?」

「真理絵、という少女をご存知ですか?」

ピクリと日高の肩が揺れた。

「さぁ?よくある名前ですからあなた方がおっしゃっている方かは判別つきません」

「そうですか。
では此度の心霊現象、先生はどうお考えですか?」

「心霊現象…ですか。
この小学校も古いのでいろいろあるんじゃないですか?」

素っ気なく対応する彼女は真面目で神経質な印象で、偏見かもしれないがとても霊だとか超能力だとか一般的には非科学的な物事を信じているようには見えない。

「いろいろとは?」

「知りませんよ。ここの卒業生ではないので」

「でも、入学生ではありますね」

「何ですって?」

「日高は引き取られた里親の名字で旧姓は塚原、塚原御影さん。
そして、塚原真理絵さんの妹ですね」

ナルが前触れもなく彼女の名前を出したことに、一緒にいた

「…知りません」

「近隣の住民から証言もとれました。
当時真理絵さんと同級生だった女性と他の児童の保護者です」

「勘違いじゃないでしょうか?」

しらを切り通す彼女にナルは、小さくため息をついた。
下手に攻めて証言が得られなくなれば問題だ。自暴自棄にさせてもいけない。

――――生きた人間と相対するのも、探偵業も僕には向いてないんだがな。

名探偵はまだ到着しないか、と思いつつ口を開く。

「あなた以外にはこんな騒動を起こす理由がないんです」

「私がこの騒動を起こしたとでも?
面白いことをおっしゃるんですね」

「通常、ポルターガイスト――今回の場合は物が揺れたりピアノが鳴ったり、映像が勝手に流れたりすることを指しますが半数以上が人間に原因があります。
特に能力のある人間や思春期の子供でその原因である人物がターゲットになることが多々あります。
今回の場合は特に誰かがターゲットになっているわけではないため、犯人(エージェントの特定は難しい。
それに小学校には犯人(エージェントになり得る思春期の子供がほとんどいない。
教師は思春期にしては年齢が高いし、何よりターゲットになる生徒や人物がいない」

「ならもう半数の霊が原因の霊障では?」

「いいえ。ここにそのような霊はおりませんわ」

はっきりと真砂子が言い放つ。

霊がいないというのは彼女の霊視の結果であり、半分本当で半分ハッタリ。
全くいないわけではない。

「あなたにわからないだけかもしれないじゃないですか」

霊がいることに関して食らいつく様子に麻衣や綾子が少し困惑したように女性を見つめる。

彼女は過去の前例とは違い「霊はいなくてはならない」ではなく「特定の霊がいる」と断定している。
それが常人には異常に思える。

でも、あの彼女に学校で起きているポルターガイストほどのことを一人で起こす程の力はない。
せいぜい少し物を揺らしたりする程度。
ありもしない映像を流したり鬼火を出現させるなんて不可能に近い。
それでも最後の一押しを彼女がしていたのは影響されたからだろう。
妹の負の感情を肉体という器なく干渉してしまった。

霊は変わる。

――――――――――

お姉ちゃんはまだここにとらわれている。
この学校も、警察も痛い目を見ないとお姉ちゃんは浮かばれない。

24年もお姉ちゃんだけにすがって生きている私はおかしいのだろうか、だなんて。
私を哀れだと言ってくれる人なんてきっといない。

お姉ちゃん以外。

あはれとも いふべき人は
思ほえで 身のいたづらに
なりぬべきかな


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