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隠されし 真実下ろし 道すがら 出会いしその人 目下に神楽

「非科学的な事も、見えてしまえば信じざるを得ない」

「うん。そうだね」

目の前には頭を抱える男、ナルがため息をついて不機嫌そうにしている。

「全く…何なんだあの少年は」

道すがらそんな会話をする私たちの周りはひとはいない。
閑静な住宅街。

「あら、あなただってまだ少年でしょう?」

「喧嘩なら買うぞ」

「17も19も変わらないわよ
それに、勝手に視たのはあなたの方でしょう?
彼に非はないんだもの」

「────工藤新一、か」

「高校生探偵、工藤新一」

「あのMr.工藤の息子…」

「期待できるんじゃない?
頭のデキはナルとだって張るわよ」

「!…噂をすれば…」

向かっていたのは米花町。

「!葵おねえさんと渋谷のお兄さん…」

「ハァイ!」

「…君は、」

「ねぇ、ちょっと話があるんだけど、いいかな?」

勝ち誇ったようなそんな顔をする彼。
どうやら私の名前をヒントに答えを見つけ出したらしい。

「ええ、いいわよ」

「じゃあ、僕の親戚の家。
他に人がひとりいるけど気にしないで」

あらあら、強引ね。

「ええ。いいわよね、ナル?」

「あぁ、いいだろう。
こちらもカードはあることだしな」

と、彼は来た道を引き返す。

ガチャ

「昴さん!」

「おや、コナンくん?
戻ってきたのかい?」

「うん!ちょっと話をしたくて、ね」

「ホォー…」

中にいたのは茶髪にメガネ、糸目の見目麗しい優男。
ピクリと反応したナルからして、彼も何かあると見た方がいい。
家のノブでも軽く見たのだろうか。
全く…注意しているのに…

「はじめまして。
吉河葵と申します」

「…渋谷一也です」

「これはこれは。
沖矢昴と申します。
この家に居候をさせていただいてる者です」

「じゃあ奥に行こうか…
お姉さんたち?」

あらやだ、悪いことを思いついたジーンみたいな顔をするのね。

奥には立派な応接セット。
沖矢さん、が紅茶を4セット持ってきた。

「どうぞ。
本場の方の舌に合うかはわかりませんが…」

「ありがとうございます」

「手短に頼めるか?
僕も暇ではない」

「急かさないの!それでは、江戸川コナンくん
あなたの言う『話』を聞きましょうか」

不釣り合いなソファーに座る小さな体躯に見合わない精神。
その隣には浮かべた笑顔の薄ら気味悪い優男。

「うん。
お兄さんとお姉さん、SPRの人だよね?」

ド直球に投げられた問いは、正しくその通りで。

「…否定しないって事は、正解?」

「答える必要性を感じない」

「吉河葵。
SPRに所属する超心理学者である研究者。
典型的な霊媒師であり、ESP能力者。
日本では名前も顔も公表せず、一切の干渉を絶ったために、知名度は無いに等しい…」

そう言い放ったのは江戸川コナン君、否、工藤新一君の隣に座る、沖矢昴さん。

「よくご存知で。
この業界にご興味が?」

「いえ、昔イギリスに住んでいたので」

「あぁ、なるほど…
確かに、私はSPRの人間です。
しかし、ナル…彼は?」

「コナンくんに話したんですよ。
彼女には優秀な双子の部下がいると」

「お姉さんの部屋にあった写真、渋谷さんでしょ?
しかも瓜二つの顔が二つ。
で、昴さんが『片割れは数年前に日本で消息を絶った』って教えてくれたんだ。
お姉さん、写真のことを聞いたら『片割れはもういない』って言ってたから、渋谷さんがその部下、
更には、渋谷サイキックリサーチのメンバーは渋谷さんの事を『ナル』と呼んでいた。
ナルとはオリヴァーの愛称。つまり、SPRで若くして超心理学者として、博士号を取得した超能力者の、オリヴァー・デイヴィス博士…だよね?」

沖矢昴、ね。何者かしら?

「…答える必要性を感じないな」

「っ…」

「ナルは答える必要性を感じない、と言っているのよ。つまり」

「…そこまで分かっているのならば、これ以上そちらから補足する答えはない、ということでよろしいですか?」

ナルがくすりと笑った。

「ええ。
改めて、オリヴァー・デイヴィスだ」

「いやぁ、あの有名な博士にお会い出来るなんて光栄です」

「それで?博士たちの話は?」

目を鋭くさせてこちらを見る彼に、ナルが少し笑った。

「…少し見させてもらった。
沖矢昴さんは江戸川コナン君の正体について知っているのかな?」

「!」

目を見開いた彼に、ナルは尚も笑う。
恐らくだが、沖矢昴さんは彼の正体に気付いているだろう。

「高校生探偵、工藤新一君。
とても非科学的なことだが、君は間違いなく、17歳の工藤新一君だろう?」

「なっ…!」

「ESPをナメないでもらいたい。
僕もこんな事を視るつもりは無かったが、視てしまったものは仕方がない」

「おや、そうだったんですか?」

「白々しい。
沖矢昴さん、いや、赤井秀一さん、かしら」

「ホォ…
さすがだな」

「私も視るつもりは無かったんですけどね」

これは本当。
うっかり見てしまったもので。

「さて、ボウヤ
やはり工藤新一だったんだな。出来れば君の口から聞きたかったが…」

「…ったく…
こんな小学生がいてたまるかよ…」

「そりゃあそうだ
だが、俺の方も学校まで向かう手間が省けたな」

「まぁバレちまったなら仕方ねぇ、か
実際に俺もアンタらの超能力とやらを見るまで信じらんねぇし…」

「…そうポンポンと見せるものじゃないわ。
この力はそれこそ命を狙われることもあれば、その力で命を奪われることもあるの。
悪いけれど、不必要に使えはしない、わね…

ナル!スプーンを手に持たないで!」

「仕方が無いだろう。
葵にPKはない。目に見えてわかるのはPKだと思うが?」

「…死にたいの?
勘違いしないでナル。あなた前にもリンに言われてたでしょう?
私達は貴方の『保護者』じゃない。『監視』なのよ。
工藤新一くん。悪いけれど見せることは出来ないわ。
ナル!スプーンを置いて」

スプーンから手を離さないナルに苛立ったように葵は目を細め、腕を掴む。

「これくらい大したことない
そこまでヤワじゃない」

「っ…ジーンがいない今、その少しのPKがどれだけあなたの体に影響するかわかってるでしょう!?」

ナルが頑なに能力を見せようとするのは、工藤新一という頭脳の獲得にあった。
ナル自身、ジーンを轢き殺した犯人確保を諦めた訳では無いし、これから心霊現象の調査をするにあたって何かしらの事件に遭遇することを頭に入れて、自分とは違う方向に優れたその頭脳を欲していた。
未だに日本警察はジーンを轢き殺した犯人を把握していないし、何より、遺体を引き上げた時、既にジーンの遺体は損傷が激しく、死因すら判別不可能であった。
イギリスに遺体を持ち帰っても検死は匙を投げる程だった。だからこそ日本警察は此度の事件を「事故」と断定した。
車で轢いたという事実を視たのはナルとそれを読み取ってしまった葵のみ。

その事実は、実力を保証されるイギリスならばまだしも、日本では超能力は『インチキ』であると判断されることが未だに多い。
だからこそ、この事実は証拠とはなりえない。
たとえ、車が赤だとわかっていても、現場に車の遺留物があったとしても。

「PKは体に負担がかかるの?」

新一は純粋な興味として問いかけた。

「…PK…というか、ナルは特別。
ほら、ニーナ・クラギーナなんかは普通に使うし、ナルの場合は力が強すぎて身体が耐えられない。ジーンがいたうちはホットラインが双子で繋がっていて、エネルギーをナルからジーンへ、ジーンから増幅したエネルギーをナルへ、そうしてキャッチボールのようにしてどんどん増幅させて、それで大きな力を使ってもほぼ影響がないレベルにまで落とし込めてた。
でももうジーンはいない。私は彼のホットラインが繋がってるわけじゃないしエネルギー供給はできない。
ナルにとってこの小さなスプーンを曲げる小さなPKでも毒物のように体を蝕むわ」

「…はぁ…全く…」

カランっとスプーンを手放したことに安心した時。

「…ちょっ…」

隠して掴んだティースプーンを指先で触れると徐々に曲がり、パキっと軽い音を立てて折れた。

普段ならばその力を使わずにトリックで誤魔化すところを、見破られるような相手には力を使う。

「!…トリック…」

「ではないな。
指の力で曲げたわけでもない、ましてや折れるわけもない…さすがオリヴァー・デイヴィス博士か」

「…チッ…ったく…ぶっ倒れでもしたら私じゃ運べないわよ……」

隠されし 真実下ろし 道すがら 出会いしその人 目下にて

最強の頭脳が二対

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