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むかしむかしのおはなし

「敦君、波香ちゃんは…」

「…孤児院で僕に懐いてただけで妹ではありません」

───────
波香は天才だった。神童だった。
何も吸い込んでいないスポンジのように知識を吸い込み、他の児童とは違って特別訓練(カリキュラムを受け、院長先生はじめ、他の職員の期待の星だった。

にも関わらず、何故だか波香は僕に懐き、後を付いて回った。
3歳になって孤児院に来た。
父と母を同時に失くしたと聞いた。それから3年僕を本当の兄のように慕っていた。

でも、僕が孤児院を追い出された時、波香は付いてこようとしていた。それを抑えて、嘘をついて僕は院を出た。

「…なるほどねぇ…」

「敦君、探しに行こう」

勢いよく立ち上がったのは谷崎だ。「え?でも…」尻すぼみになる一言に被せるように谷崎は敦に問いかける。

「心当たりは?小さい子だからそんなに遠くには行けないよ」

「このままでいいんです…きっと、波香は院に「ありえませんわ」…え?」

「波香ちゃんはそれなりの覚悟で敦さんを追ってきてます。戻るなんてこと、しませんわ。
それに────兄妹離れ離れだなんて、寂しいではありませんか」

「っ…!」

「賢い子だけれども誘拐されないという確証もない。まだ小さいんだから探そう」

「…はい!」

敦は頭を巡らせる。
自分が横浜で放浪した2週間。
1番時間を過ごしたのは?過ごしやすかったのは?安全なのは?

「…鶴見川…」

「私と出会った場所だね」

「鶴見川の橋下なら雨を凌げる。今ならそう寒くもない…」

「行こう。まずは鶴見川の方面に!」

──────────

6年前、とある黒社会最大の抗争の後、とある組織のとある構成員二人の男女の間に女の子が生まれた。

とある組織の首領は、部下の吉事に喜んだ。
小さな生まれたての赤子の母親はとある異能を持つ異能力者だった。
赤子には異能はなかった。首領はとある資料を構成員である女の方に一部を読ませた。

『人工異能力』

「君の子供ならば、君の遺伝子を引き継いでいるのならば、可能だと思わないかね?」

底知れない笑顔で、構成員の女の赤子を見つめた。
女は崖下に叩き落とされた様な、絶望とも恐怖とも、憂惧とも言えない脅威を感じて自身の産み落とした赤子を抱く腕の力を確りと、力を込め直した。

その様を見ていたのは、黒の外套に黒いスーツ。右目に包帯を巻いた青年であった。

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