◎けんか
─────うずまき
「…」
「ほら食べな?」
「…わたしの?」
「そ、波香の」
戸惑ったように敦を見上げる波香は出されたプレートと敦の顔を交互に見る。敦に食べるように促されると、手を合わせる。
「天におられる私達の父よ
皆が聖とされますように
みくにが来ますように
御心が天に行われる通り、地にも行われますように。
私達の日ごとの糧を今日もお与え下さい。
私達の罪をお許し下さい私達も人を許します。
私達を誘惑に陥らせ得ず悪からお救い下さい。
アーメン」
と云えば堰を切ったように勢いよくかき込んだ。
「食べっぷりは敦君そっくりだが、その前にブレーキがかかっているから敦君よりは理性的だねぇ」
「ちょっ…余計な事言わないでくださいよ太宰さん…」
「あらあら、そんなに勢いよく食べなくてもご飯は逃げませんわよ」
ナオミが口元を拭うと波香は一度手を止めてナオミを見つめた。
「ありがとうお姉ちゃん」
と云い、また口にご飯を運ぶ。しかしそれは落ち着いたのか幾分かゆっくりとしている。
「あぁん可愛いですわ〜!!」
ナオミが波香を唐突に抱き上げ、ぎゅっと抱き締めた。「ぐえっ」と蛙が潰れたような声が小さく潜もって聴こえる。
「あぁナオミ!ダメだよ!」
「あらごめんなさいね!」
「…でるかとおもった…」
「あははは…」
少しぐったりとしつつも降ろされたことでまた食事を再開した。
「と、ところで波香はどうして
「…あつにいを探しに」
「え」
「あつにいが居なくなったら、私があそこにいる意味もない」
言い切って最後の一口を口に運んだ。
「君、波香ちゃん、だっけ?」
太宰が口を開く。
「…波香です。よろしくおねがいします」
「苗字は?」
「わかりません。ははもちちも記録がなかったんで」
食後に出されたオレンジジュースを口に含み一息ついた彼女はナオミの膝上に座らされている。
「いや、それよりも波香!
どうやってここまで来たんだ?」
「無賃乗車」
「はぁ!?」
「院の最寄りは無人駅。そこから乗り継げば大丈夫。おやがいるフリしてた」
「わ、悪知恵…」
「だてに神童じゃない」
「ふふふ、面白い子だねぇ〜、それに頭もいい」
「お前は院に居るべきだ」
敦が厳しい顔をして波香を見る。
「…なんで?」
「お前は院長のお気に入りだろう?院にいてまともに「…あんな処まともじゃない…あつにいも、私をおいてくの?」え?」
黙り込んだ波香は無表情───いや、普段から無表情ではあるがそれに拍車がかかっている。
「…やっぱりわたしは、いらない」
「そんなこと…僕は波香の為を思って───」
「わたしのためじゃない。あつにいの嘘つき」
「っ…ちが」
「もういい。きらい!」
「波香!」
ナオミの膝から飛び降りうずまきを出ていった。
*
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