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けんか

─────うずまき

店主(マスターの厚意で空腹で衰弱している波香の前にお子様プレートが置かれていた。

「…」

「ほら食べな?」

「…わたしの?」

「そ、波香の」

戸惑ったように敦を見上げる波香は出されたプレートと敦の顔を交互に見る。敦に食べるように促されると、手を合わせる。

「天におられる私達の父よ
皆が聖とされますように
みくにが来ますように
御心が天に行われる通り、地にも行われますように。
私達の日ごとの糧を今日もお与え下さい。
私達の罪をお許し下さい私達も人を許します。
私達を誘惑に陥らせ得ず悪からお救い下さい。
アーメン」

と云えば堰を切ったように勢いよくかき込んだ。

「食べっぷりは敦君そっくりだが、その前にブレーキがかかっているから敦君よりは理性的だねぇ」

「ちょっ…余計な事言わないでくださいよ太宰さん…」

「あらあら、そんなに勢いよく食べなくてもご飯は逃げませんわよ」

ナオミが口元を拭うと波香は一度手を止めてナオミを見つめた。

「ありがとうお姉ちゃん」

と云い、また口にご飯を運ぶ。しかしそれは落ち着いたのか幾分かゆっくりとしている。

「あぁん可愛いですわ〜!!」

ナオミが波香を唐突に抱き上げ、ぎゅっと抱き締めた。「ぐえっ」と蛙が潰れたような声が小さく潜もって聴こえる。

「あぁナオミ!ダメだよ!」

「あらごめんなさいね!」

「…でるかとおもった…」

「あははは…」

少しぐったりとしつつも降ろされたことでまた食事を再開した。

「と、ところで波香はどうして横浜(ここに?」

「…あつにいを探しに」

「え」

「あつにいが居なくなったら、私があそこにいる意味もない」

言い切って最後の一口を口に運んだ。

「君、波香ちゃん、だっけ?」

太宰が口を開く。

「…波香です。よろしくおねがいします」

「苗字は?」

「わかりません。ははもちちも記録がなかったんで」

食後に出されたオレンジジュースを口に含み一息ついた彼女はナオミの膝上に座らされている。

「いや、それよりも波香!
どうやってここまで来たんだ?」

「無賃乗車」

「はぁ!?」

「院の最寄りは無人駅。そこから乗り継げば大丈夫。おやがいるフリしてた」

「わ、悪知恵…」

「だてに神童じゃない」

「ふふふ、面白い子だねぇ〜、それに頭もいい」

「お前は院に居るべきだ」

敦が厳しい顔をして波香を見る。

「…なんで?」

「お前は院長のお気に入りだろう?院にいてまともに「…あんな処まともじゃない…あつにいも、私をおいてくの?」え?」

黙り込んだ波香は無表情───いや、普段から無表情ではあるがそれに拍車がかかっている。

「…やっぱりわたしは、いらない」

「そんなこと…僕は波香の為を思って───」

「わたしのためじゃない。あつにいの嘘つき」

「っ…ちが」

「もういい。きらい!」

「波香!」

ナオミの膝から飛び降りうずまきを出ていった。

*










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