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はじめての横浜

右も左も分からない大都会の港町。
横浜。

院で着ていた襤褸を燃やして隠していた父さんと母さんが買ってくれた小さくなってしまった服を着て、あの日血塗れた真っ赤な靴を履いて歩く。

真昼間から子供が一人で(しかもそこそこの大きさのぬいぐるみを抱えて)歩いていれば注目を集める。
それもうまく利用する。

「お嬢ちゃん一人かい?」

迷子?と声を掛けてきたのは黒髪の男性。白衣を着ているおじさん。

「あつにいさがしてるの」

「あつにい?お兄ちゃんかな?」

「ううん。あつにいはおにいちゃんじゃないの」

「お兄ちゃんじゃないの?
じゃああつにいはどこにいるのかな?」

「わかんない。探してるの」

「迷子かなぁ…」

男性は苦笑した。「それじゃあ私も一緒に探してあげよう。おいで」と手を差し出してきた。

「…しらないひとについてったらダメだって先生がいってた」

と云えばおや、と困った顔をした。

「私は森、森鴎外だよ」と名乗りしゃがみ込んで目線を合わせてくる。これで知らない人ではないだろう?と。

「わたし、もりさんのお名前しか分からないよ。だから、しりあいじゃない」

───────年に見合わず随分と聡明なお嬢さんだ。

森は笑みを思わず深くした。10歳より小さい聡明な幼子。自身の守備範囲(ストライクゾーンである年頃である聡明な少女。
なんとか手中に収めてしまおう、と思考していれば後ろから「リンタロウ〜!!」という高い声が響いた。森はいけない!と後ろを振り向いた。

「エリスちゃん!」

「なにナンパしてるのよ!」

「ち、違うんだよエリスちゃん!」

怒鳴るエリスに平謝りの森。その様を見てクスリと笑った幼子────波香は

「じゃあね。おじさん」

と言ってスタスタと歩いっていってしまった。

「あの子は?」

エリスが森に問えば森は「私が今1番欲しい子」と困っていた笑みを深くした。

*










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