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或る爆弾












ピリリリリッ

「……太宰?」

「嗚呼、さっき妾にもかかってきたよ」
「僕にも」
「僕にもです!」

「……要件は?」

「「「苦しい、助けて、死ぬ」」」

「よし、出なくていいね」

死ねばいいじゃん。と思いつつも太宰が死なないのはなんとなーく予想つく。どうやっても死なない悪運。マフィアでは中堅以下と言われているけれど、まぁ、相棒の彼がそういう面ではほぼ占めていたし……

「さっ! 新人の試験の準備するよ!谷崎!」

「え、何それ」

潤一郎が持っている爆弾らしきもの。

「なんか、太宰さんが不発弾だって……」

「んな物騒なもん持ってくんなよ……」

呆れてため息しか出ない。

「ナオミ、ほんとに人質役でいいの?」

「ええ! 兄様に捕まって脅かされるなんて……とぉーっても素敵ですわ! それに、私以外にやる方がいらっしゃるなんて思えば……」

ふふふふふ、と笑ったナオミの顔には影が落ちている。

「よーし、潤一郎、ナオミを縛って。
国木田くん! 太宰と敦くんまだ来てないわよね?」

「そんなすぐにあいつが来るか! 始業後だといつのにあの迷惑噴霧器……!」

「……仕方ない。迎えに行きましょう。
寮までの道のりを歩いてればどっかで鉢合うでしょ。私と国木田くんで行けばすぐ連れてこれるはず」

「森だけでいいだろう。ここまで誘導する役はお前だろう」

「あら、国木田くんもいた方がリアリティ出るじゃない。貴方が『爆弾魔が出た』なんて云えばバッチリじゃない」

「そうだよ国木田。
ここは人手が足りてるからね、行ってきな」

「……わかりました」

渋々頷いた国木田くんと共に下へ降り、寮へ向かう。
しばらく歩けばゆったりと歩く姿が見えた。

「っ此処に居ったかァ! この包帯無駄遣い装置!」

ビシィッと指を指して怒鳴った。

「……国木田君、今の呼称はどうかと思う……」

額に手を当てて傷ついた様にする太宰。

「おっそいのよこの莫迦」

「アリス! 迎えに来てくれたのかい?」

「太宰が遅いからでしょ! この遅刻魔自殺魔!」

「この非常時に何をとろとろ歩いて居るのだ! 疾く来い!」

「もう朝から元気だなぁ……ところでアリス何故私の電話を無視したんだい? 昔ならば有り得ないじゃないか」

「……苦しんで死ねばよかったのに」

「非道い!」

「うるさい! ダラダラ喋ってる暇があれば社へいくぞ!」

「あんまり怒鳴ると悪い体内物質が分泌されてそのうち痔に罹るよ」

「何、本当か!?」

「メモしておくといい」

衝撃を受ける国木田くんにまたため息を付けば、敦くんはジト目で二人を見る。

「嘘よそれ」

一言云ってあげれば国木田くんが太宰を殴る…いや、殴る蹴るの応酬。

「あの……『非常事態』って?」

それに、声を掛けたのは敦くん。

「国木田くん、もっと殴っていいわよ」

「そんな暇あるか! 探偵社に来い! 人手が要る!」

残念。

「何で?」

伸されていたはずの太宰が普通に立ち上がり、襟元を正した。普通に防御(ガードしたのだろう。
そんなところすらムカつく。

「……爆弾魔が……」

「……爆弾魔が人質を連れて社に立て篭ったわ。
こういう事で作戦の立案は太宰の得意分野でしょう?」

「!?」

「成程ね。それじゃあ急ごう……」

ニヤリと笑った太宰は敦くんの腕を引き社へ向かう。

「……怪しんでないわよね、敦くん」

「大丈夫だろう。」

──────────

社に着けば潤一郎が迫真の演技をしている最中。
ナオミも潤一郎にベッタリなのに青ざめている。

「爆弾で皆吹っ飛んで死ンじゃうよ!」

「あちゃー」
「怨恨だ」
「心当たりはあるわよね、全員」

警戒した振りをして陰に身を隠し潤一郎を見る。

「犯人は探偵社に恨みがあって社長に合わせないと爆破するぞ、と」
「ウチは色んな処から恨み買うからねぇ」

潤一郎の足元には先程見た『不発弾』。

「うん……あれ、高性能爆薬(ハイエクスプロオシブだ。この部屋くらいは吹き飛んじゃうね」

絶対爆発しないように太宰が加工してあるらしいが、実際あれは彼の言うとおり、高性能爆薬(ハイエクスプロオシブであることに間違いはない。
たしか昔、父様が使ってた。

「爆弾に何か被せて爆風を抑えるって手もあるけど……この状況じゃなぁ」

「どうする?」

「い、異能力でなにか……」

「無理ね。私たちの異能では犯人の元に辿り着いて取り押さえるよりも先に彼が(ボタンを押す方が早いわ」

まぁ、嘘だけど。
普段こんな風な状況ならば2秒でカタがつく。

ばっと二人が立ち上がり無言で手を出すので、私もタイミングを合わせて握り拳を出した。

「はい、一人勝ち〜」

太宰と国木田くんはチョキ。
そしてパーのあいこの後、勝負が決まった。

にたぁ、と笑う太宰にぐぬぬ、と冷や汗を流す国木田くん。どうぞ、とばかりに道を譲る。
舌打ちをして国木田くんは潤一郎の前に出て行った。

「来るなぁ! 吹き飛ばすよ!」

サッと両の手を上げる国木田くんに、「アンタは国木田だ!」と、指を指す。探偵社の人間は出ていけない状況にし、太宰は敦くんに説得役を押し付けた。

いや、これこそが彼の試験なのだ。

「そ、そんな僕には……!」

「敦くん、聞いて。これは貴方にしか出来ないことよ。きっと私が出ていっても異能を封じられて人質が増えるだけ。太宰も同じ。
大丈夫、犯人の意識を逸らして一瞬でも警戒を解ければ後は私たちがやるわ」

「この程度の揉事、武装探偵社にとっては朝飯前だよ」

──────「や、やややややめなさーい! 親御さんが泣いてるよ!」

新聞紙を丸めて潤一郎へ呼びかけた。

「何だアンタ!」

「ぼぼ僕はさ騒ぎをき聞きつけた一般市民ですっ! いい生きていれば好い事あるよ!」

潤一郎は尚も演技を続ける。
俳優にでも転職するつもりかしら?

「さて! どう転ぶかしらね?」

「敦君ならばきっと社長のお眼鏡にかなうさ」

「その自信はどこから?」

「こういう場合において、私の予想が外れたことが一度でもあったかい?」

「……そうね」

敦くんは尚も説得を試みている。
その勢いに潤一郎もタジタジで押されている。

「敦君、駄目人間の演技上手いね……」

「あれ多分演技じゃないわよ
トップ・オブ・ザ・駄目人間」

「非道いよアリス、私のどこが駄目人間なんだい?」

「全部。並べてあげましょうか? 昔の話からずっと」

「……それは辞めてくれるかな」

なんて、無駄話をしていれば潤一郎の意識が国木田くんから外れた。

「却説、今だ」

「手帳の頁を消費うから、ムダ撃ちは厭なんだがな……! 『独歩吟客』」

素早くペンを走らせ手帳を千切る。紙だったそれは瞬く間に鉄線銃(ワイヤーガンと姿を変えた。

発射したワイヤーが潤一郎の手の(ボタンを跳ね飛ばした。

「確保っ!」

国木田くんが潤一郎に蹴り(勿論手加減してるだろうけれど)を放ち、押さえつけた。

「一丁あがり〜」

「は〜、結構かかったわね」

力のつけたような敦くんはふらふらしつつも手を挙げた時だった。バランスを崩したように転けた彼の指は先の潤一郎の(ボタンに掛かっていた。

「あ」

「「「あ」」」

動き始めたタイマーは残り5秒。

「ああああああああああああっ!?? 爆弾爆弾! あと5秒!?」

青ざめる敦くんにこちらも思わず顔を引きつらせて青ざめる。
すると、何を思ったのか敦くんは爆弾を抱きかかえた。

「なっ」

その行動に思わず私や太宰も目を見開いた。

「「莫迦!」」

敦くんの顔は冷や汗がダラダラで無常にもタイマーは進む。ピッとタイマーが0を指した。が、勿論、爆発はしない。不思議そうにゆっくりと目を開けた敦くんの前に太宰と私を中心に国木田くん、潤一郎が、覗き込む。

「やれやれ……莫迦とは思っていたがこれ程とは」

「自殺愛好家(マニアの才能があるね彼は」

「全く……この階層(フロアを吹き飛ばすって言ってたのに、敦くん一人の体で阻止できるわけないでしょう? どんだけ頑丈なつもりなのよ」

まだ自体を把握していない敦くんはへ?え?と疑問を飛ばす。

「ああーん兄様ぁ! 大丈夫でしたかぁぁ!?」

ナオミが潤一郎に抱きついた。
その勢いでどうやら彼の骨が折れたらしい。

「へ?」

敦くんは笑顔で固まっている。

「恨むなら太宰を恨め
若しくは仕事斡旋人の選定を間違えた己を恨め」

「そう云うことだよ敦君。つまりこれは、一種の───入社試験だね」

「入社……試験……?」

「その通りだ」

戸惑う敦くんの声に答えるように威厳ある声が室内に響いた。

武装探偵社社長、福沢諭吉──────
能力名『人上人不造(ヒトノウエニヒトヲツクラズ

「社長」

と頭を下げる国木田くんを尻目に、驚く敦くんへ社長が視線を送る。

「そこの太宰めが『有能なる若者が居る』と云うゆえ、その魂の真贋、試させて貰った」

「君を社員に推薦したのだけれど、如何せん君は区の災害指定猛獣だ
保護すべきか社内でも揉めてね」

なんてことないように説明する太宰にあんぐりと口を開ける敦くん。

「ウチは一応『探偵社』この街の薄暮の間を取り仕切る、まぁ、何方かと言えば正義側の組織だから、社の方針に反する人間を所属させることは出来ないのよ」

「で、社長の一声でこうなったと」

「で、社長。結果は?」

社長がじっ、と敦くんを見れば踵を返した。

「太宰に一任する」

とだけ残し、退出した。

「……」

唖然とする敦くんに、太宰は「合格だってさ」と伝える。探偵社に入れたがっていた彼に一任するとはまぁ、つまりそういうことだ。

「つ、つまり……? 僕に斡旋する仕事っていうのは……此処の……?」

戸惑う彼をクス、と笑う太宰に私も釣られて笑ってしまった。

「「武装探偵社へようこそ」」

いらっしゃい。正義側の少年よ。
君ならば、これ以上汚れずとも、この世界を救う未来へ繋げられるだろう。

「うふ、よろしくお願いしますわ」

「い痛いそこ痛いってばナオミごめんごめんって!」

谷崎潤一郎────能力名『細雪』
その妹───ナオミ

よく見ればナオミのポケットからは腕が飛び出ている。……ちょっと良くわかんないな。

うふふ、と笑ってナオミが、腕をブラブラとさせ、腰を抜かした敦くんはどうにもまだ、戸惑っており、カサカサと、後退りして入社を拒否する。
あらら、もう逃げ道ないのに……

「あら、敦くんが厭ならば無理強い出来ないわね……職場を選ぶことは働く側の当然の権利だもの」

パァっとわかりやすく笑顔になった敦くんを太宰が絶望へたたき落とす。

「となると、君が住んでる社員寮、引き払わないと。あと、寮の食費と電話の払いもあるけど……大丈夫?」

固まった笑顔でだーっと涙を流した彼からは「選択肢ないじゃないですかああああぁぁ」という叫びが聞こえた気がした。

「まぁ、今日からよろしくね、敦くん」

可哀想にも思えるが、まぁ働き口があればどうとでも立ち上がれるだろう。苦笑して敦くんに手を差し出した。

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