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「シャロン?」

「あ、あぁ、ごめんなさい。
ボーッとしてたわ」


女優業も休息はまだできない。
今後数年経った後アリスを妊娠してた間に娘が生まれていたことは伏せているにしても業界人は知っていることから、娘を出現させねばならない。

もちろん、アリスをこちらに置くことはしないけれど。
あの子は、絶対に私が守るわ。


「どうしたの? 子育て疲れ?」

「ええ、そう、そうね」


そういえばこのスタッフは子持ちだったはずだ。


「子供がね、部屋を散らかしたりしたの
でも、理由もなくそんなことってないじゃない?分からなくて……。あの子がどうしてあんなことをしたのか……。子供のことがわからないなんて、母親失格かしら……」


組織では言えない弱音。
こういう普通の人間の場所でなら、こんなことだって言える。


「子供のことなんてわからないものよ?
私だってまだ全然わからないし!
でも、あなたに自分を見てほしいんじゃないかしら?」

「私に?」

「そう。この仕事をしてるとなかなか一緒にはいられないでしょう?
だから自分を見て欲しくて母親を困らせたりするらしいのよ」


そして言われた一言に、らしくもなく項垂れた。

────物わかりのいい子なんていないわ。
きっとそれは、我慢をしてる証。
だから、

早く仕事を切り上げた。

今日こそは。
ごめんね、気づいてあげられなくて。
そう言えばジンは言ってたわね。
あのじゃじゃ馬を躾なおせ。ワガママ放題だ。と。


ガチャッ


「ただいま!」


廊下を進みリビングの扉を開けるとアリスが変わらずにいた。


「……おかー、さん……?」


きょとんと、目を丸めている。


「仕事は早く切り上げてきたの。
今日はもう家にいられるわ」

「ど、して……?
だいじょうぶだよわたし。ひとりでも」


目をそらして強がる、僅か5歳の、なんの訓練も受けさせていない子供の嘘など簡単に見抜ける。


小さく縮める体をゆっくりと抱き上げた。


「……アリスごめんね、ママ、ずっと我慢させてたわね。
でもね、これからは────」


ワガママになってもいいのよ


どんな願いだって誰よりもまず私に言ってちょうだい。
いつだって、私はあなたを案じているわ。


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