母さんは銀幕のスター、シャロン・ヴィンヤード。
それは表の顔だけど、私はそんな母さんが誇りなの。
もう一つの顔は、とある犯罪組織の幹部。
コードネームはベルモット。
そんな二つ、いや三つの顔を持つ母は忙しく、そもそも私は隠されて育った。
外で母を見ても母だと言ってはいけない。
大女優の隠し子なのだとどこかで他人事のように感じていた。
もちろん、犯罪組織の中ではそんなことない。
みんなベルモットの娘だとして接してくる。
誰も私を私として扱わない。
組織のことは外では言えないし、外では私の家族のことは言えない。
父の顔も知らないし。
友達だっていらない。
1人でいい。
組織の人たちは、私をゆくゆくは幹部として、所属させようと話しているのを聞いたことがある。
嫌よ。
私は。
誰かが敷いたレールの上を素直に歩くほど、素直じゃないもの。
ピリリリリ
「ハァイアリスいい子にしてたかしら?」
「ママ」
「今日も遅くなるから夕食はみんなと食べてちょうだい」
「……やだ」
「アリス」
「きょうははやくかえるっていってた」
「ごめんなさい。どうしても外せなくなったのよ」
「……そっか、もういいよ」
また、裏切る。
また?
あぁ、母親とは、なんなのかしらね。
切られた電話に、車の中の女は深いため息をつき1人、ごめんなさい。と零すと、目を鋭くさせ、まっすぐ前を見据えていた。
母さんは忙しい
何度も何度も言い聞かせる。
そんな母さんが誇りなの。
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