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哀れな女の幻影が、また一歩私に近づいてくる。

「ふざけるな」

一言そう言った。
女は立ち止まり、顔を上げた。
私を見据えるその目は、ずっと私が恐れたものだった。


私が記憶を取り戻して既に二ヶ月の月日が流れた。
相変わらずベルモットは私を大切にしているし、組織のみんなも優しい。
愛に枯渇した私には、戸惑いを浮かべることしか出来なかった。

そんな中、組織に新人が入ってきた。
名は知らないけれど、子供が嫌いなようで私に向ける視線は重苦しいものだった。
彼女は母さんに憧れて組織に入ったらしい。
私と母さんが過ごしていると間に入って、教えを請う。

精神年齢は子供じゃないので素直に離れてはいる。
それを眺めている時、眠くなりうとうとと目を閉じた。

しかし息苦しさを感じてふと目を少しだけ開いた。

「あ゛っ……」

新人の女は私の細く小さな首に手をかけ、締め付けていた。
当然ながら絞められている喉から声は出ない。
パクパクと陸地に上げられた魚のように口を開け閉めする姿は滑稽だろう。

ふと、彼女の目を見た時、私の体は恐怖に固まった。

「あっ……あぁ……」

あの哀れな女が私にいつも向けていた、憎しみの篭ったあの目にソックリ。
心做しか、顔までもあの女に見えてきた。
体が急に震えだし、女の手首を掴んだ手もカタカタと震えて力が入らない。

絞めつける力は強まる。

いやだ、この女に殺されるのだけは、いやだ。

「ひっ、ぃゃ……あ゛、あ゛ぁ」

「頑張って声を上げてみなさいよ。
あんたさえいなければ……
アンタみたいなのが生まれて来なければ、あの人は永遠に何にも縛られず生きていたのに!
お前が生まれたから!」

ドクリと心臓が大きく鼓動した。

『産まなきゃよかった!』

「う、あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛…!」

「!? いっ……!」

ダブった女に恐怖が募り、女の指に手をかけ外へ捻る。すると関節に反し、力が抜けたのを確認して女の手から抜け出る。

「ゲホッゴホッゴホゴホッ……!
だまれ……!」

「このガキっ……!」

怒りに任せて女がわたしに覆い被さる。

「うるさい! だまれ! だまれ!
わたしだってのぞんでない! それでも産み落としたのはお前だ!! 勝手に私の人生を決めて、勝手に────」ドンッ

ハッと意識が引き戻される。

「がっ……! ジ、ジンッ……!? あんた……」

「何をしている」

「っ……ぐっ……」

心臓よりも右側から血が溢れている。
位置からして

「身内に手を出すようなバカはいらねぇ
肺を撃った。もう三分もしないうちにてめぇはオダブツだ」

「な、で……」

力なく倒れ込む女の後ろに立つジン。

「じん……」

「アリス!」

らしくもなく彼女はバタバタと駆け込んできた。

「まま……」

「怪我はない? 怖かったでしょう?」

抱き上げられて背中をさすられる。
そうだ、私の母はこの人で、あの女はもういない。

「っ……ガキが……! どいつもこいつも……!」

「名無しのあなたが幹部であるジンにまで逆らうつもり?」

「っちが……! ちがう!
私は……」

焦って弁解する。
彼女の命はもう数分もない。

「私だって望んでここに生まれたわけじゃない」

「アリス……」

「でも、望まれているのならば、ママに望まれてここに生まれたんだと思いたい。
邪魔なら産まなければいい。
子供はいつだって親を選べない。
望まれない子だって、この世界にはごまんといて、それでも、懸命に生きている」

「……」

「母親に、父親に、疎まれ、痛めつけられ、苦痛を強いられても、子供には、逃げ打つことも出来ない。ただ、親の敷いたレールを走るだけ」

「アリス、もう死んでるわ」

「……まま、疲れた」

「ええ、そうよね……」

体に力が入らず、ダラりと体を預ける。

「……ジン、助かったわ」

「……フン……ガキに死なれれば目覚めが悪ぃだけだ」

「あら、珍しい。
貴方誰が死んでも興味無いくせに」

そんな会話を最後に意識は闇に沈んだ。


存外怖がりらしい

やっぱり、あの母は、私の恐怖の対象なのだろう。

*


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