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状況を整理しよう



「とーおりゃんせーとおりゃんせーこーこはどーこのほそみちじゃー
てんじんーさまのほそみちじゃー」

子供はいい。だって、こんなふうに道を歩きながら歌っても微笑ましいでしょ?
25のいい大人が歩いてりゃ不審者だが。
さてさて、私は今3歳。
まぁ遅れてきた反抗期のフリして家を抜け出してきたのだ。
もちろん3歳になってからはかなりの回数してるし、母さんやゆきちゃんにはバレぬように抜け出している。
恐らく一時間は気づかないだろう。

状況を整理するため一人の時間が欲しくて、新しい家族を困らせることは悪いと思うが如何せん、意外とゆきちゃんも母さんも父さんも過保護なのだ。
ゆきちゃんは原作を見る限り放任主義だと思っていたが、どうやら女の子にはそんなことないようで。


カランカランッ

「いらっしゃ─────おいおい、まぁた白樫ん所の嬢ちゃん一人で来たのかよ」

「べつにいいでしょー?
あ、いつものおくのせきにいつもどおりおれんじじゅーすにおさとういれてとうさんにつけといてね、ますたー」

「お前なぁ……ここはもう二時間もすりゃバーになるんだぞ?ガキはさっさと帰って寝ろ」


現在の時刻は午後4時。
二時間経っても午後6時だ。


「いっつもおもうけどここのみせばーになるのはやくない?
ふつうはくじとかもっとおそいじかんじゃないの?」

「うちははえーのがウリなんだよ! ったく……
これ飲んだら弥生ちゃんに電話すっからさっさとけぇれよ」


と、言いつつも追い出さない彼、皇健史は父の友人。
喫茶ポオを日中経営し、夕方以降はバーエドガーを経営する。

ポオはうちから子供の足で20分ほど歩いたところにあるから私もよく通っている。
先ほど言った通り、会計は定期的にここで飲む父、白樫春彦にツケている。
私に甘い父は母さんに言わず黙って払ってくれている。
まぁ、友人という彼が正規の値段で請求しているかは定かではないが。

「べつにむかえなんてなくてもかえれるからでんわいれなくていいよ」
「ガキがナマ言ってんじゃねぇよ。
大人の言う通りにしてろ
そんなに来てぇならアイツや弥生ちゃんと来りゃいいだろ」
「ひとりのじかんもにんげんいきてりゃひつようなんだからしかたないでしょ?」
「もうお前ほんと何歳なの?
3歳だよな? 白樫が20ん時の子供だから3歳だよな?」
「せいしんてきには25」
「まさかの年上かよ!
なんなんだよ! 何者だよお前!」
「てんさいのできあいするひとりむすめ」
「間違ってねぇのがなお腹立つ!」

え? バラしていいのかって?
大丈夫。この人ノリとテンションで生きてるような人だし。馬鹿だし。あと多分信じてないし。

さて、奥の席に着いたし、今現在の状況をきちんと考えよう。
私が生まれたのは3年前。
母である藤峰基、白樫弥生が18、父、白樫春彦が20。
主人公、工藤新一の母である叔母の藤峰有希子が15歳。
工藤新一、毛利蘭の生まれる5年前、原作の始まる22年前。
うわっアニメ放送期間とそう変わんねぇ。

そして、今が母、弥生が21、父春彦は23。
叔母の有希子が18歳。
原作開始19年前。

私がいることによって登場人物にブレがあるのは私の母、父の存在だろう。
藤峰有希子に姉が、それもファッションデザイナーの姉がいたなど聴いたことがない。
それに、映画監督の義兄も、従姉妹の存在、家からほど近くの有名小説家の名を使った喫茶店兼バーの存在も。
原作に出ていないだけと言われればそれまでだが、多分いないだろう。
他には変わりはなさそうだ。
有希子の同級生であり、毛利蘭の両親、妃英理と毛利小五郎は時たま家に遊びに来る。
つまり、名探偵とその彼女はきっと生まれてくれるだろう。
この時点で黒の組織は存在していると見ていいだろう。
そして、組織の人間から「あのお方」と呼ばれるボスが周りに既にいるかもしれない。
原作者曰く、その男は既に舞台に登場してる。
されど、完結前に私は死した。
だから、私もそれが誰なのかは全く知らない。
だからこそ私が信頼出来るのは原作未登場、尚且つ白だと原作で判断できる人間のみ。
つまり、私の両親である白樫の人間、ここのマスター、皇健史。
そして、黒幕ではないと断言された阿笠博士。
出会うのはまだまだ先だが、赤井秀一を始めFBI捜査官達、CIAの水無怜奈、公安警察の安室──いや、降谷零。彼らは白だろう。
工藤新一の従姉妹という位置に生まれてしまったということは十中八九巻き込まれる。
救う手立てなど思いつくわけもない。
なにより、原作を狂わせることが怖い。
もしも、新一を助け、失われないはずの命が失われれば?
もしも、私が行動を起こしたせいで、大事なキーマンが死してしまえば?
ハッピーエンドになると聞かされた物語の歯車が狂い、多くの死者を出し、黒の組織が力をつけ、大切な人々を奪い去ってしまったら、私はきっと自分自身を許せない。
だめだ、頭がこんがらがる。
救うなどと言ってもまだその新一は生まれてない。
私に、何が出来るのだろう。
思わず溜息がこぼれた。

「辛気くせぇな
なぁにため息ついてんだ
幸せ逃げんぞ」

「もーにげてるよ」

「はぁ? せーっかく俺がうめーモン持ってきてやったのに」

「はぁ?」

コトリとテーブルに置かれたのはチョコレートケーキ。

「……たのんでない」

「安心しろ。こいつはツケじゃなくて俺の奢りだ」

「……ま、まぁもらえるものはもらっとくよ」

「カーッ! 可愛げねぇなぁ」


うるせーこちとら頭パーンなりそうだし25にもなって可愛さ振りまいてられっか!

「うっさいなぁ……かわいげがほしいならかあさんかゆきちゃんにあげればいいでしょ」

「バカ言ってんな。
可愛いと思ってなきゃいくらアイツんとこのガキだろうが一人で来たら追い返すっての」

「はぁ? ……えっ、なに? ろりこんなの?」

「なんでそうなんだよ!!」

だめだ、耐えらんない。

「ぶっ……ふっははっ……」

折角色々考えてたのにパーだわ。

「何笑ってんだ! ほら! さっさと食って帰れ!」

スパンッ
といい音を立て、私の頭に衝撃が走る。

「いった!?!?
ちょっと! ふつうさんさいのおんなのこのあたまなぐらないでしょ!?」

「うっせばーか!」

「うーわ! がきすぎ!」

「そりゃ精神年齢25からしたらガキだっての!」

「もう23でしょ!」

「うっせ!」

ったく、だからここは居心地がいいんだよね。
第二の家みたいで、前まではなかった居場所だから。

状況を整理しよう

20分後
カランカラン

「あー!!! 美音! あんたこんな時間に一人で出歩いちゃダメでしょ!?」
「ひとりのじかんもほしかったの!」

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