鮮血色のビターチョコ
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「……日本に……ですか?」
上司に呼び出され話を聞けば突拍子もなく異動の命令。
「あぁ、なんでも今後組織が日本でも活動領域を広げるらしくてね」
「いや、でも別に私じゃなくても……」
「彼直々の指名だよ」
「……本気ですかソレ……」
「おや珍しい。乗り気だと思っていたんだが」
きょとんとした目の前の有能な上司───ジェイムズに思わず溜息がこぼれる彼女。
「日本のことは日本の警察に──特に、公安に任せればいいじゃないですか。一応向こうの畑なんですし」
敵は同じですし……と零すも
「それがそうも言ってられんくなった」
苦々しくつぶやく彼に怪訝な表情をする。
「日本に続々と幹部が集まってる。
今わかるだけでも、ジン、ウォッカ、ベルモット、キャンティにコルン」
この意味が分かるな? と、彼女──淺井 早苗は目を鋭くさせた。
「で、本格的に向こうが動く前に、私が行き拠点や中継地、対人関係を築いておけ、と」
「あぁ。我々FBIはアメリカの連邦調査局。
ただ日本へ出向いても捜査許可なんぞ簡単には降りないだろう」
「なるほど。アメリカ人はやはり強引なようですね……」
「頼まれてくれるか?」
「Yes,sir. Boss.」
勝気に笑みを浮かべ、敬礼を一つ。
教育係であった彼が直々に指名したというのは嬉しいが、まぁ自分がアメリカ国籍であれど日本人であるからだろうとアタリはつける。
と言っても彼は早苗がなぜアメリカ国籍であるかまでは知らないだろうが。
なんにせよ、不可抗力とはいえ戻ることになってしまったことを内心では悪態をついた。
二度と踏まぬと誓った土を日本にいい思い出はないってのに、その上東京だなんて……
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