2 | ナノ



「ちょ、ん…っ、じょ、冗談じゃないスか、なんでそんな、ひっ!」
「なんかむかついた」

新しい色が飾られている耳に齧りつくと、食いちぎられるとでも思ったのか黄瀬の肩が大きく震えた。それを無視して留め具の辺りに舌を這わせると、震える手が肩に置かれる。

「も、それ、はずす、から」
「いいのか?お守りなんだろ」
「いい、から…っ!」

黄瀬は耳が弱い。穴を開けているからか、元からなのかは知らないが、特にピアスが付いた方の耳をねぶるといい反応を見せる。黙らせたいときに一番手っ取り早い方法は勿論口を塞いでしまうことだけれど、黄瀬が油断しているときは耳を攻めるのが、オレも好きだったりする。

ピアスをはずす、と自分で言った黄瀬にならばやってみろと離れてみせれば、おずおずと手を伸ばした黄瀬が慣れた手つきで赤い石のついたスタッドピアスを外した。その後の置き場所を探しているらしいその手をピアスごと取って、何かを言いかけようとした口を今度は口で塞ぐ。

「ん、…ふ、ぁ、あおみ、…っ」

舌と舌が触れ合う。最初に触れたときに感じたひんやりとした感触は、ずっと絡めていればどんどんと熱に変わる。黄瀬の熱い口の中の温度が心地良い。角度を変えながら、ときには上顎をなぞりまた舌を吸う。すっかり力が抜けた手からピアスを受け止めて、口を離してやった。

「…やっぱおまえ、青のが似合ってんじゃね」

一瞬見開かれた金色の瞳に青が映り込んで興奮しただなんて、余程オレも重傷らしい。
また何かを言われては困るから、手っ取り早く存在を主張し始めているそこに目をつける。ズボンの上から手のひら全体を使って揉みこむように手を動かせば、黄瀬はびくんと大きく腰を震わせて足を浮かせた。

「ひっ、あ、ん…っ」

手を動かしたまま上のシャツを捲って、二つある突起の片方に吸い付くと、今度は肩がびくりと跳ねた。男のオレがそんなとこ感じるわけないじゃないっスか、と笑っていたあの頃が懐かしい。感じてんじゃねえか、ばっちり。まあそうなるように仕向けたのは他でもないオレだけど。

くぐもった声がするので見てみると、黄瀬は手の甲で口元を抑えてオレのほうを見ていた。何かを言いたそうに鋭い視線は、薄らと貼っている水のせいで鋭さを幾分か失ってしまっている。逆に煽ってしまうような視線だということに、多分こいつは気が付いていない。鏡でも突きつけてやれば気付くだろうか。

上体を起こして黄瀬を見下ろす形になる。真っ赤な顔と必死に堪えている様がよく見えて、興奮した。元々肌の色には気を遣わなければいけない仕事をしているからこそ、肌の色がわかりやすい。そんな黄瀬にもお構いなしにズボンのベルトを抜き取ると、手を退かした黄瀬が震える声で口を開いた。

「…青峰っち、ここは、ちょっと」
「…あー」

黄瀬を今押し倒している床には絨毯が敷いてあるものの、そこで致してしまえば体に負担がかかることくらいわかった。がっつきすぎてしまっていたかもしれない。がりがりと頭を掻いて、すっかり腰が抜けてしまっているだろう黄瀬の腕をとって上体を起き上がらせる。そのまま膝の下に手を回すと、黄瀬は引きつったような声を上げた。

「え、ちょっと、待っ」

黄瀬の言葉が言いきらないうちに、ぐっと腕に力を入れる。体勢的に言えばいわゆるお姫様抱っこなのだろうが、相手はほぼ同じ体格の男で、抱えきれるわけがなかった。流石にそれは自分でもわかっていたから、持ち上げてすぐに後ろに合ったベッドに黄瀬を投げる。ぎしっ、と大袈裟にベッドが軋む音が響いて、体勢を崩したオレも黄瀬の上に転がった。

「い…ってえ、なんで青峰っちそれチャレンジしたんスか…!?」
「うっせ。どうせ立てない黄瀬くんの為だよ」
「ベッドにくらい移動できるっつの!真後ろだし!」
「だーからうるせえって」

口だけは減らない黄瀬をもう一度押し倒して、やけに細い腰に手を回して浮かせると、そこで漸く今の状況を理解したらしい黄瀬がまた黙り込んだ。ズボンと下着に手をかけて一気に下ろすと、黄瀬の目が逸れる。

「も、色気もクソもねえな…っ」
「へーへー」

緩く勃ちあがっているそこに手を持っていき、ぬるつく先端を中心に指を動かす。同時に空いているほうの手で黄瀬の顎を掴んでこちらに向かせれば、潤みだした瞳と目が合う。不機嫌さを明らかに湛えているのに、どうしても逆効果にしかならない。どくり、ひときわ大きくなったような感触を下腹部に感じつつ、その唇にかみついた。

しどどに濡れてくる黄瀬のそのまだ透明な液を全体に伸ばすように、今度は手のひらを使って竿部分を上下に擦る。そのたびにびくびくと震える体が愛おしいと思う。普段なら必死に抑えているだろう声も、キスをしているから全部伝わってくるような気がした。ん、んん、とくぐもった声が目の前から聞こえるのは、まあ悪くない。

「ふ、はっ……ん、も、しつこ、い…っ」
「悪い悪い」

眉根を寄せた黄瀬の不満気な声にそう返したけれど、謝る気がないのはとっくに見透かされているようで、益々不機嫌そうに眉が寄せられた。
不満なら別のところで満足させてやりゃいいか。思わず口角が吊り上がってしまう。

ベッドの下を漁って、小さな引き出しからローションを取り出す。今まで一人暮らしの黄瀬の家でやることが多かったが、オレが一人暮らしを始めてからはオレの家にもこれを置くようになった。不便がないように、だ。その気になればこれがなくともヤれる自信はあるけれど、そうなると黄瀬から文句を言われるのは必至で、それにオレとしてもあまり気が乗らない。だからオレの家にも置いている。

手のひらに出して、逆の方の指でぐちゅぐちゅと混ぜると、その音が既にいやらしい。黄瀬はうっと息を詰まらせてはまた視線を逸らしてしまった。なんとわかりやすいのか。

大体温くなってきたところで、ローションを絡めた指を閉じてしまっているそこにひたりと当てた。いつまで経ってもこれは慣れないようで、息を呑んだ黄瀬は薄い掛布団をぎゅっと握りしめた。その手を背中に回させたいところだが、生憎腕が使えない。
そのままつぷりと指を侵入させて、指に纏っているローションを狭い壁に塗り込むように指を動かす。にちゅ、と粘着質な音がした。液体の滑りも借りて二本目も中へと入れる。ゆっくりと第二関節辺りまで埋め込むと、中をほぐす動きを少し大きくした。そうしながら入口に再びローションを追加して、入り口付近まで抜いた指でまた奥まで突き入れた。

「ふ、くぅっ…ん、う」
「黄瀬、一個気になんだけど」

中を広げるように指を動かしながら、二本の指を根元まで埋め込ませる。そのときにはもうほぼ確信に近いそれを持っていたのだけれど、それは本人の口からききたいというもので、少々意地悪心が働いた。好きな奴ほどいじめたいなんてことまでは言わないが、答えはやはり本人の口からききたい。

「久々の割には、案外すんなり入るもんだな」
「っ!」
「黄瀬、」

自分でココ、触ってたろ。
確信に近い形で、それも黄瀬の弱い耳元で言ってやると、黄瀬は赤い顔を耳の先まで更に赤く染めて目を見開いた。それからぎっと睨みつけて、何が悔しいのかぎりりと歯を噛んでいる。

「〜〜っ、最低…っ!」
「どうなの?黄瀬くん」
「だ、誰がっ」

言うか、と続けられそうだった言葉の先は、オレが指をぐりりと動かしたせいで喘ぎ声に変わった。不意打ちになるその動きに、黄瀬がまたまた睨みつけてくるが、逆効果だと言うことを知らないその目線はただオレを煽るだけだ。
素直に言わない仕置きとばかりにもう一本指を追加して、内壁を擦りながらぐるりと回せば、イイところに当たったのか、引き攣ったような声を出してびくんと体が大きく震えた。

「ひ、ぁっ…!」
「言わねえとずっとこんままな」
「は、っう、や…っ」

中に埋めた三本の指をばらばらに動かして、挿れるにはまだ狭いであろう中を拡げていくと、やだやだと首を力なく振っていた黄瀬が、観念したように口を開いたので、一先ず指の動きを止めてやる。眉をぎゅっと寄せて此方を睨んではいるけれど、だからそれ、逆効果だっての。

「…く、そ…っ」
「で?」
「……わってた、」
「聞こえねぇ」
「〜〜っ、さわってた、って!」

半ば自棄になった黄瀬が叫ぶようにそう言って、答え合わせ完了だ。オレの予想は当たっていたらしい。
へえ?とわざとらしく黄瀬の顔を覗き込むと、此方を威圧するような視線はもはや見る影もなく、何かを懇願するようにこっちを見つめてきた。

「は、えっろい顔」
「…っも、いれ、て」

もうむり、と舌たらずで言った黄瀬の目からほろりと涙がこぼれた。それを見て、オレもだよ馬鹿、と心の中で呟いてから、黄瀬の熱い中から指を引き抜いた。

物足りなさそうな声を漏らしひくひくと震える黄瀬をいつまでも待たせるのはさすがに気が引けたし、待たせるほど余裕がないオレは、すぐに衣服を緩めて黄瀬に覆いかぶさる。ひた、と先程ほぐしたそこに宛がうと、黄瀬の熱が伝わってどくりと自身が脈打った気がした。

「力、抜いとけよ」
「ん、…っひ、ぁ、んぅっ…!」

先端を沈み込ませて、それから一気に根元まで誘われるがままに挿れると、びくびくと体を震わせるくせして声だけは堪えようとしている黄瀬が目に入った。歯を噛みしめて、何かに耐えようとしている表情。嫌いじゃ、ない。が。

「はっ、随分余裕だな、黄瀬」
「ぁ、んっ…!?や、あ、待っ、あ、んん…っ!」

誕生日くらい乱れる姿が見たいと思ってしまうのは仕方がないことだろう。プライドの高い黄瀬が喘ぎたがらないのは知っているから、力尽くでも喘がせてやる。後で文句を言われるかもしれないがその時はその時だ。

やだ、待って、と喘ぎ交じりに告げる黄瀬の言葉を無視して、ガツガツと肉を抉る。口ではそう言ってても体は正直、ってな。相変わらずきゅうきゅうと締めつけてくる感触は気持ち良い。

途端に黄瀬が目を見開いて、ひっと甲高い声を上げた。反応の良かったその部分を重点的に攻めると、黄瀬が涙をぽろぽろと流して首を振る。

「や、だめぇっ…!やぁっ、そこ、ひっ…!」
「だめって、気持ちよさそーじゃん」
「あ、あ、や、へん、っぅ、なんか、へん…っ」

黄瀬の気持ち良い部分は知っている。此処も確か前立腺とかいう場所だったような気がするけれど、今日はいつもと違う。へん、と泣く黄瀬に何が変なんだと問い質す前に、一ついつもとは違うことに気が付いた。
今日はオレも余裕がなくて、黄瀬のソレは最初しか触っていない。けれど黄瀬の性器は今にも達してしまいそうなほど張りつめていて、完全に勃起していた。まさか、と、思わずにやけてしまう。

「おまえ、後ろだけでイけんじゃねえ、の!」
「ひうぅ、っ、や、あ、やだぁっ…!」

ずん、と深く突き刺してやれば、完全に声を抑える余裕もなくなってしまった黄瀬がやだやだと駄々をこねる子供のような声を洩らし始めて、普段とのギャップにくらりとくる。黄瀬のこういう部分も含めて好きなのだからしょうがない。

嫌だと言ったその部分に性器を擦りつけるようにして腰を動かしていると、中がうねるような動きを見せた。黄瀬も限界なのだろう、びくびくと内腿が痙攣している。黄瀬の中を貪るようにガツガツと穿つと、黄瀬はやがて大きく震えて、中も同時に締めつけられた。それに耐えられず欲望を中に放つ。

「ひっ、あ…!?ん、ぁ、んんー…っ…!」
「く、ぅ…っ」

溜まったものを全て吐き出すようにゆさゆさと黄瀬の体を揺さぶると、あ、あ、と壊れた玩具のように声を洩らす。いつもと反応が違うような気がして黄瀬のモノを見ると、確かに、白濁液を吐き出していた。けれど、勢いがなく漏れたようにだらだらと零れている。ぴくぴくと体を震わせている黄瀬は、未だ射精感に襲われているようだった。

「は、すっげ。後ろだけでイけたじゃん、黄瀬」
「ん、あ…っ、あ、ぅ…」

黄瀬の痴態ともいえる様を見ていると、再び元気になるのはしょうがないことだと思う。や、と言いかけた黄瀬を遮るように、再び奥を抉った。

「ひあっ!?や、あっ…まだ、ぁ、イって、」
「つーかこれ、イけてんのかよ」

勢いのない通常の射精とは明らかに違うそれに、気になって黄瀬のソレに手を伸ばす。奥を突くたびに漏れ出るような精液はまだ止まっていない。まだイっている、というのは間違ってないらしい。

「やあぁ、さわ、な、で…っ」
「は、えっろ」

蕩けきった瞳が此方を見れば、僅かに残っていた理性の砦が、崩れ落ちる音がした。

「ひぅっ!や、ぁ!あ、あっ、も、し、んじゃ、ぁ」
「死なねえよ、安心しとけ」
「んんっ、う…!は、っ、あ、おみね、ち、」

きっと、自分が何を言っているかなんてわかっていない。へろへろの腕が首に回されて、ぎゅっと抱き付かれる。沈みそうになる意識の中、黄瀬は、喘ぎ声交じりに、すきだと、確かにそう言った。

「は、ばーか、…オレもだよ」

3へ続く


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