≪sakana≫

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魔法は土曜日、午前25時に起こる。

彼がネクタイを外すと
たちまち部屋は淫らかな夜で満たされた。

無音の部屋に衣擦れの音だけが響き
僕の脳は活動を停止する。

彼の手は冷たく、暖かい。

じんわりと肌に馴染む温度で
僕の皮膚の上を滑ってゆく。

僕の五感は
彼を感じるためだけに研ぎ澄まされ
彼の一挙一動に敏感に反応する。

彼が耳許で何かささやく。
それだけで身体が熱くなった。


この部屋の中で、僕は魚だった。
理性を持たない魚。
おだやかな流れに身を任せて
ゆらゆらとたゆたうだけの魚。
海の中でしか呼吸できない、さかな。

この息苦しさも
ちかちかと起こる眩暈も
すべては海のせい。
すべては彼のせい。


内側から沸き起こる快感に
魚は大きく仰け反り声を漏らす。

心地好い、波。


僕の身体を支配する彼の
深紫の瞳の中には
熱に浮かされた哀れな魚の姿があった。

幻想深海。
その美しさに魅せられ
己を忘れた哀れな魚。

彼の声に、指に、視線に、
ざらつく舌の感触と内側から伝わる熱に
どこまでも翻弄される愚かな魚。


やがて快楽は身体の限界を超過し
僕は歓喜の声と共に意識を手放した。





魔法は日曜、朝日と共に解ける。

カーテンが開くと、日常が入り込み
僕の脳の活性化を図る。
昨夜夢中になって泳いだ部屋は
既に海ではなかった。

気だるい疲労感と、満足感。
意識は覚醒しても
僕の頭は夢から醒めようとはしない。

いつまでもシーツの中に潜っている
僕の髪を鋤いて
彼はどうしたのかと尋ねる。

魚は深紫の海を見つめながら
夢心地で答えた。


「溺れちゃったみたいだ」



***
雰囲気だけのえろすを目指したかった…(無理だった)
これでもアラトリらしいですよ。
なんかもうトットリですらないですが。




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