ウィラザウィスプに誘われて

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ジャック・オー・ランタンを知ってるかい?
天国からも地獄からも追い出されたイタズラ好きの幽霊さ。
天使も悪魔も彼にはお手上げ。手のつけられないペテン師なんだ。

だからハロウィンの夜は気をつけて。
彷徨うジャックが君を惑わせに来るかも知れないよ。



***

肌寒い10月末日。コートの中に身を隠しても木枯らしからは逃げられない。
ミヤギは早く用事を済ませようと足早に歩いていた。

「えーと…ここを右…だべか」
手書きの地図を頼りに洋菓子屋を探す。グンマに頼まれた人数分のかぼちゃプリンの買出しだ。
本当はプリンもシンタローが作る予定だったが、カボチャはメインのパンプキンパイにすべて消えてしまい材料が足りなかったため出来合いの物にしようということになった。
面倒なのでパンプキンパイだけで良いと主張したが、グンマはクッキーがなきゃやだプリンもほしいもちろん全部カボチャのやつじゃなきゃだめと駄々をこね、結果ミヤギが使いに出されたのだ。

「はーあ…別にハロウィンパーティなんてやんなぐてもええのになぁ…あんなもん子どもの祭りだべさ」
ミヤギはぶつぶつと文句を垂れながら地図を辿った。
はやくプリンを買って団に戻りたい。暖房の効いた部屋が恋しい。それにシンタローの作るお菓子が楽しみでもある。
けれどいつまでたっても菓子屋は見えてこない。
「ありゃ…どっかで道さ間違えただか」
何度も地図を確認したが、地図と景色が食い違っている。
仕方ない一旦戻ろうと振り返ると、

「…なんだべ…?」

さっき歩いてきた道とは違う見たことのない場所だった。
そして

「お兄ちゃんどうしたの?」

見知らぬ少年が立っていた。
長い黒髪に凛々しい顔立ち。赤いローブを羽織り、手には石炭を詰めたランプを持っていた。

「迷子になっちゃったの?」
ミヤギが黙っていると少年はもう一度たずねてきた。
意志の強そうな黒い瞳。誰かを連想させる。

「あー…んだ、迷っちまったべ。おめこの辺何があるとか分かっか?」
「わかるよ、案内してあげようか」
「おお、そりゃ助かるべ、いま菓子屋を探すとんだよ」
「お菓子屋さん?この辺りにはないよ」
「あ?ほんとけ?おかすぃな、地図だとこの辺なんだけんど…」
「少し遠いけど、僕が知ってるお菓子屋さんに連れてってあげようか?」
「そうしてもらえっとありがてぇだ」
「じゃあついてきて!」

そう言うと少年は嬉しそうに駆け出した。
少年の後を追ってミヤギも歩き出す。
最初は謎の少年を不審に思っていたミヤギも、彼の無邪気な笑顔にすっかり警戒心を解き案内人が現れたことに安心さえしていた。
しかし、しばらく歩いたところでまた不安が蘇った。
いつの間にか薄暗く霧の濃い不気味な場所にいたのだ。

「…ほんとにこの辺に菓子屋があんのけ…?」
嫌な寒気に見舞われて隣を歩いているはずの少年に問う。
しかし返事は返ってこない。
「おい坊主聞いとんだか!……ありゃ?」

辺りを見回しても少年の姿はない。
そして景色はまたガラリと変わっており、道に迷う前の木枯らしが吹く場所だった。

「……オラ…キツネにでも化かされただか…?」
彼の疑問に答えられる者はなく、ミヤギはしばらくその場で呆然としているしかなかった。



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