ウィラザウィスプに誘われて

(2/9)

すっかり日も落ちて風がいっそう冷たさを増した頃。
大きな影がふたつ人通りの少ない道をゆっくりと移動していた。

「ほんまにもう…あんさんには付き合い切れんわ…」
「なしてわしのせいになるんじゃ」
「元はといえばあんたが阿呆なこと言うからやないの、甘やかしよって」
「ほじゃけど、ぬしかてあれにあがな顔されたら黙っちょれんじゃろうが」
「あんたと一緒にせんとっておくれやす」

グンマがハロウィンパーティをするにあたって仮装したいだのロボットを作りたいだの言い出すであろうことは誰にでも予測できた。
だからシンタローはグンマがそう言い出したときのために、予めアラシヤマに上手く説得するよう頼んでおいたのだ。
アラシヤマは天然で話の通じないグンマの相手は苦手だったが、それでも敬愛するシンタローに「俺たち心友だ・ろ?」と言われては断れるはずもなく仕方なく引き受けた。

そして案の定グンマはハロウィンの五日前になって、かぼちゃのロボットを作るから団の費用から落としてほしいなついでに仮装もしたいから衣装もオーダーメイドで作ってもらおうもちろん皆の分もだよと言い出した。
アラシヤマは危うく、あんたの阿呆な発明と阿呆な思いつきの費用でどんなけ団員の給料が削られてる思とるんやこの馬鹿息子と言いかけたが思いとどまり、用意しておいた真っ当な理由を叩きつけ見事グンマを説き伏せた。

しかし今日の朝、つまりハロウィン当日に諦めきれなかったグンマが仮装だけでいいからと食い下がってきた。
二人は小一時間ほど言い争ったがアラシヤマには得意の泣き落としも通じずグンマが諦めかけていたそのとき、運悪くコージがやってきた。
グンマはすぐさまコージに泣きつき人の良いコージはまんまと同情させられ簡単な仮装なら自分達で作れるだろうと安直な意見を出し、じゃあ僕仕事あるから必要なもの買ってきてと返されたのだ。

コージはアラシヤマの影の苦労など知らない。ただ年に一度のお祭りを楽しみたいというグンマを純粋に哀れんだだけである。
それはアラシヤマも分かっているからコージが口を挟んだことに関しては何も言うつもりはない。
しかし、説得しろって言っただろうが面倒事増やしやがってと心友に怒鳴られ、仮装のことはお前が責任持てよと買出しを命じられたことには納得がいかないのだった。

「ああもう、明日が期限の書類もあるのに…わて今日も徹夜やわ…」
「そう言うなぁや、悪かったって言うちょんじゃけ。それにぬしはこうしてのんびり外歩くんも久しぶりじゃろ」
「何をのん気な…」
「それにしてもこんだけ探しちょって手芸屋のひとつも見えてこんとはの」
「もう出発してから一時間は経ってまっせ…ええ加減間に合わへんやろ、帰りまひょ」
「じゃけどそがなこと言うたらグンマが」
「ないもんはないんやから仕方あらしまへんでっしゃろ。ええ店がなかった言うたら馬鹿息子も諦めよるわ」
「しかしなぁ」
「あんたはなんでそないにあの子のこと構いはるんや!」

アラシヤマはそう口にしてからしまったと思った。
これではまるで……グンマに妬いているみたいではないか。

「なんじゃ?どがした?」
「なんでもあらしまへん!」
「何を怒っちょるんじゃ…おかしなやっちゃのう」

そう言いつつコージは心配そうな視線を寄越してきて、アラシヤマは余計に悔しくなった。
こちらがどんな嫌味を言おうが毒を吐こうがコージはさらっと流してしまう。
鈍感で無神経で優しい男だ。
アラシヤマはコージが苦手だった。この男といるとペースを乱される。
それが何を意味するのかわかっているから、なおさら居た堪れないのだ。

師と二人だった頃には味わうことのなかった感情にどうしていいか戸惑う。
本当に、人間関係というものは煩わしい。

(いっそのこと全部消えてしもたらええのに)
アラシヤマは心の中で呟いた。



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